第242話
隔離期間を終えた騎士達は物忌みの塔から出て来た。
体調を崩した者がいなくて本当に良かった。
秋の美しい夕暮れの中、名を呼び交わし、顔見知りに朗らかな笑顔で挨拶をする騎士達の姿を見て、私はそっと胸を撫で下ろした。
一応、閉じこもっていた騎士達の気晴らしになるように、城の屋上でサンセットパーティーを開いたりもした。
カボチャと鮭とチーズのキッシュと、ベーコンとしめじと舞茸のパッパルデッレ、他は唐揚げやケーキなどを振る舞った。
パッパルデッレはリボン状の平たい麺だ。
近くにいた騎士と軽く雑談をした。
「厨房の人が近くの森にキノコ狩りに行ってくれたの」
「秋の恵みですね。とても美味しいです」
テーブルに並べられた料理からは食欲をそそる良い匂いがする。
「わざわざゆっくり休んでいた我々の為に、パーティーを開いて下さるなんて」
「塔の中で退屈していなかった?」
「ゆっくり本を読んだり、体力が落ちないよう、塔の階段を登ったり降りたりしていましたよ」
「凄く痩せそうだけど、あまり膝に負担をかけすぎないようにね」
「膝……ですか?」
「若い時に沢山歩いて膝を使い過ぎると膝の軟骨が擦り減って歳をとってから、膝が痛いって苦しむ事になりかねないでしょう」
「そう言えば、お年寄りがよく膝や腰が痛いと言ってますね」
「年寄りは歩けなくなると、一気に体力も落ちて心配になるのよ」
あ、そうだわ、膝の軟骨の為にコラーゲン……コラーゲンはビタミンと同時に取らないといけないし、鶏肉をオレンジマーマレードで煮た物を今度出してみよう。
「デザートのカボチャのパイとチョコケーキです」
「唐揚げ追加揚りました!」
「「待ってました!」」
メイドと執事が新しい料理を補充してくれた。
騎士達は嬉しそうだ。
「お嬢様、唐揚げにレモンをかけますか?」
「ええ、お願い」
メイドがそう問うて来て、本当はレモンをかけない方が好きだけど、ここはビタミンを取ることにした。
爽やかな秋風の中、和やかにサンセットパーティーの時間は過ぎていった。
* *
後日、当日分の治水工事を終えて、城に戻った後にサロンでお茶をしていた時の事。
ギルバートが申し訳なさ気にお父様に話かけていた。
ちなみに私とお母様も同席している。
「そう言えば、今更ながらではあるのだが、治水工事の褒賞にエメラルドを追加すると、勝手に相談もせずに言ってしまった件で、気を悪くされたらどうするのかと、先日部下に言われて……」
「いいえ、全く、気を悪くなどしていませんよ。
娘の前でいい格好をしたいのだろうと微笑ましく思ったくらいで」
……!!
「ギルバート様、私の前でいい格好をしたかったんですか?」
私は思わず突っ込んで聞いてしまった。
「そ、そうだが……改めて聞かなくとも……」
顔を覆ってしまったギルバートは耳まで赤い。
えー、可愛い!
「ティア……」
はっ!!
デリケートな殿方はそっとしておきなさい! の圧をお母様から感じた。
可愛いけど、これ以上つつくのはやめておこう……。
その後は冬支度の話など、無難な事を話した。
* *
治水事業も少しずつ進めて、無事、収穫祭も終わり、冬になった。
吹く風もすっかり冷たくなり、暖炉の炎を愛でる季節だ。
活版印刷の器具やインクも用意が出来たので、衛生に関する本を出版した。
冬ごもりの時にでもゆっくり読んで欲しい。
初回限定版にはマスク作成キット、布、紐、型紙などが付いている。
どうかマスクの作り方を覚えて、必要な時に使って欲しいという願いが込められているのである。
本の中の主な登場人物は、旅の聖女と傭兵の父親と病弱な母親を持つ、心優しい村の少女だ。
この世界、聖女が人気みたいなので、聖女の口から手洗いうがい、体を清潔にする事が大切だと言うことを、村の少女も巻き込んで広めて貰う内容にした。
生活に役に立つネタとして、石鹸の作り方、森で見つかる植物で魚を取る為の罠の作り方、日持ちする食べ物の作り方なども入れた。
この本はライリーの孤児院と教会で日の曜日の文字を教える学校用にも3冊ずつ寄付の形で配布した。
本が読みたくても本を買えない子も教会に行けば、本を読めるといいと思ったので。
そのうち騎士と令嬢のラブロマンスなども書いて出したい所だけど、記念すべき活版印刷、最初の一冊は、少しでも皆の健康と生活の為になる本を先にと。
ちなみに王都の図書館にも献本した。
疫病の発生を防ぐ為に広めたい内容だから。
*
さて、冬と言えば、冬の聖者の星祭りがある。
男装で演劇をするとレイラ王女……いや、夫人と呼んだ方がいいのか?
とにかく彼女と約束をしていたので、また凝ったメイクをして劇に出なければ。
シエンナ様もこちらの方に見に来るそうだけど、王都の祭典の方はいいのだろうか?
そちらの方が規模が大きなお祭りなのに。
とにかく準備を進めよう……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます