第241話
まだ残暑の残る陽射しの中、難民キャンプから戻って来て、私は食事中に気絶した。
目の前のお皿に頭が突っ込む前に、ちょうど食堂に来たアシェルさんが頭を支えてくれた。
苦笑いで「危なかったぞ」と言われたし、両親にも無理をし過ぎだと怒られた。
お部屋に食事を運んで貰えば良かったかな。
「そういえば……リナルドはまた妖精界かしら」
私は自室のベッドの中で、小さくなってる翼猫のアスランを撫でつつ、そう呟いた時だった。
ちょうど噂をすれば影が……。
祭壇前のテーブル上の小さな魔法陣が光った。
これは神様に捧げ物をする時用にリナルドが用意させた物だ。
これで妖精界?と、行き来もしてるみたい。
『ただいま〜』
そう言って白くて小さくて愛らしい、エゾモモンガそっくりの妖精が現れた。
「リナルド、待ってたわ!」
『ん、何かな?』
「外国からライリーの海岸に流れついた難民と会って来たの。
悪い伝染病とか持っていたらまずいから、マスクや手袋で警戒して行ったけど、結界で守られた私やギルバートはいいとしても、同行の騎士達が一応まだ塔に隔離中なの。
彼等は大丈夫か、リナルドには分かる?」
『霊獣は一緒だったんだろう?
何か有ればその子達が警戒して足を止めるなり、鳴くなり、服を引っ張るとかすると思うよ』
「じゃあ、とりあえず大丈夫なのかな。
難民は重度の日焼けで水膨れが出来てたり、ガリガリに痩せて弱っていたから、癒しの魔法をかけて来たんだけど」
『ウイルスや菌の概念の有るティアの癒しを受けたなら難民は大丈夫だよ。
それを分からない人の、漠然とした、悪しきものよ、去れ。
とか言うやつより病気には効果は高い。
あれ魔除け的には通用するけど』
「じゃあ、同行した騎士達も皆、大丈夫かな」
『神酒ほどじゃないけど、まだ心配なら例の瓢箪のチョコや砂糖の料理を振る舞えばある程度効果はあるよ。
病気に対して』
「そうなんだ!
塔にしばらく隔離になる騎士達が気の毒だから、インベントリに入ってるチョコクッキーあげてくる!
それを食べたらいつもの自分の部屋に帰れるし、皆の顔見れるものね」
*
「え? クッキーを渡しても騎士達が物忌みの塔から出て来ない?」
私はサロンで執事の報告を聞いていた。
「城で働く者達に恐怖を与えたくないとかで、お嬢様の言っていた14日間は予定通り引きこもるらしいです。
その間、なんの症状もでなければ他の人も無駄に怯えずに済むだろうと」
「病気を持っていると確定ではなくて、万が一を考え警戒して行った訳だけど……そう。
立派な騎士達ね。
せめて、本や食事やお酒など、暇潰しになる物を差し入れましょう」
「はい。差し入れが準備出来次第、塔の入り口にお届けします。
それと、臨時休暇が貰えたと思ってゆっくりするから気にしないで欲しいと言っていました」
「分かった。もう下がっていいわ」
「失礼いたします」
そっか……騎士達は休暇と思えばいいのか。
とりあえず今後の予定も聞いたし、私ももうじき金属活字とか印刷機の準備が整うだろうし、原稿を仕上げてしまわないと。
私はサロンから出て自室に向かった。
病気の予防対策法と、実際に伝染病にかかってしまった時の対処情報を、お話に組み込んで書くんだ。
* *
翌日の朝。
念の為、私とギルバートは学院を休んでいる。
休んでいる時の授業分はオリビアがクリスタルで黒板等を記録してくれている。
ノートを取らずに済むのでありがたい。
朝の執務室にてお父様から報告を受けた。
「他領にも難民が海岸に流れついているらしい」
「難民の健康状態などはわかっているのですか?」
「やはり、ティアの持って来たクリスタルの記録のように骨と皮ばかりになって、痩せて弱っていたが、来る途中、ほぼ船の中で死んで、可哀想だが死体を運ぶのもアレなので、海に眠って貰う事にしたようで、生存者は4人とかだったらしい」
「そもそも日照りの影響の飢饉でロクな栄養も取れて無いから、体力が保たなかったのでしょうね」
「治水事業の方だが、いつもの護衛騎士達がしばらく物忌みの塔にいるから、騎士宿舎からも騎士を呼んで護衛に当たらせる、出発は3日後からだから、しっかり休んでおきなさい」
「はい、冬が来る前に少しでも進めておきましょう」
3日の間に原稿をしつつ、適度に休んで、次に治水工事。
疲れたら倒れる前にポーションでドーピングでもしよう……。
* * *
3日後、出かける準備をして、騎士達と治水工事へ向かった。
工事は特に問題なく、スムーズに進むかと思いきや、ダム建設予定地の山から魔物が出て来た。
巣を作っていたのかしら。
「オークの集団と蛇の魔物だ!」
「なるべく魔力を温存し、武器で倒せ!」
「はい!」
魔力はダム建設に使うから温存なのね。
じゃあ私も見守るしかない。
剣は無理なので……。
私の守護者のギルバートが次々と敵を斬りふせていく。
「ギルバート様! 何かこの魔物達、前に戦った時より何故か硬いですね!?」
騎士が剣で敵を攻撃しつつも、そんな声を上げた。
「そうか!? ミスリルソードの切れ味が良すぎて、違いがよくわからない!」
「硬いですよ! このオークと蛇! 食っても不味いかもしれません!」
「無理して食わなくてもいいだろう!」
そうか、ギルバートの剣は切れ味良すぎて敵の硬さがよく分からないのか。
そこまでか……。
確かにミスリルソードは大根を切るみたいに魔物の体をあっさりスパっと切ってる。
……ヨーグルトか舞茸を使えば硬いオーク肉も柔らかくなるかな?
豚系の魔物なのよね……。
魔物といえど、倒してしまったからには、命を無駄にしないように美味しく食べてやりたいとこだけど。
どうしようかな?
「ギルバート様! 敵を掃討しました!」
「よし、いつもと様子が違うらしいし、胡散臭いので魔物の死体は炎で滅却せよ」
「はっ!」
──そうか、今回は食べないのか。
でも胡散臭いなら仕方ないな。安全第一。
毒があったりするといけないし。
本日の魔物は焼却処分となりました。
お昼は普通のご飯を食べよう……。
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