第238話

 海からライリーに戻った私はお風呂の後に、サロンに移動した。


 お父様に、塩工場予定地をクリスタルの記録で見せる為だ。

 お母様やギルバートも同席している。


 おつまみは海鮮グルメ。


 焼いた貝や、タコの串焼き、お刺身、魚の塩焼き。

 私達が海辺で食べて来た物のお土産分だ。


 ついでに塩工場の事も私から説明をする。


「従来の塩の作り方。

釜でひたすら火を焚き、海水を蒸発させて残った塩を集める直煮製塩法で作った塩を一般市場用にします。

そして王侯貴族用には違う製法で作った物にしましょう」


「違う製法で二種類の塩か」


「無色のスライムをガラスの板のように加工した温室のような塩工場を作ります。

無色透明な天井や壁は日光を通すので」

「スライムの加工で色々作れる物なのだな」


「はい。

あまり深さはない木箱を沢山並べ、ポンプで汲み上げた海水を入れます。

一箱で3キロから4キロくらいの塩が取れるはずです」


「それ、何度も海水を入れるのでしょう? 木箱が傷まないの?」


 お母様の懸念も、もっともなので、私はインベントリからスライムラップを取り出し、それを見せた。


「対策として木箱が腐らないように内側をスライムをビニール状にした物を敷き詰め覆います。

スライムラップがここにありますが、これを少し厚く丈夫にして作った物です。

さらに木枠の底、ビニールの下は熱を吸収しやすい黒色にします」


「確かに黒色は熱くなるな」


 よく黒いズボンを穿いているお父様も納得して頷いた。


「組み上げた海水、潮風と太陽の熱で天日塩を作ります。

人力と言えばヘラのような物で塩水をかき混ぜる時、地上に汲みあげた海水を箱内に継ぎ足す作業、窓を開け風を入れる所あたりです。

海水はポンプで地上の工場に汲み上げるので、従来の人力汲み上げ作業よりは楽なはずです」


「なるほど、そちらは、ほぼ自然の日光と風だけで煮炊き用の火を使わない完全天日塩と言う事だな」


 ついでに塩作りの最中に出る水がニガリになる。

 このニガリと大豆で豆腐が作れる。

 豆腐とわかめのお味噌汁が食べたい。


「はい、お父様。ちなみに天日塩は作るのに時間はかかります」


「どの位なのだ?」


 今度は殿下がサイダーを飲みながら訊いて来た。


「およそ一ヵ月以上ですが、ただ、質は良いと思うのです。

魔力のない平民でも作れます。

魔力を使えば時間短縮も可能でしょうが、そこは需要に対して調整致しましょう」


「なるほど」


 殿下は頷いて、テーブルの上で静かにしてるリナルドに葡萄を千切って渡した。

 リナルドは素直に葡萄を齧った。

 可愛い……。


「注意事項として温室内は暑いので、水分補給しつつ、体調に気を付けてやらないといけません」


「それはそうだな」


 お父様達が頷いた。

 このようにして本日の塩会議は終わった。



 * *


 ギルバートがゲットした青いパールだけは自分の宝物入れに入れて、結局他のパールでペンダントや指輪を作ってバザーに出す事にした。

 他にもチョコクッキーなども作る。

 バザーの売り上げは孤児院などに寄付される。


 バザーの準備をしていたら、職人に装飾追加の加工に出していた自分用ワンドも完成し、納品されて来た。


 自分の魔力が強化されるし、見た目がいかにもファンタジーな魔法使いって感じになるから気に入っている。



 * *


 私はレイラ王女を例の魔法師と共に、ライリーの城に呼び出した。

 表向きはお二人に水着をプレゼントするからと。


 本日はナイトプールの準備をしてある。


「お二人共、早速プールへ参りましょう」

「は、はい、セレスティアナ様」


 緊張した様子ではあったけど、プールサイドで水着姿披露してくれたレイラ王女。

 黒のビキニで紫のフリル付きで大変お似合いになっている。

 流石王女、スタイルが良い。


 魔法師さんの方は黒ベースの生地でサイドに銀糸の刺繍入りの短パンタイプの水着。


 

 ナイトプールにはいくつもの丸い灯りの魔法がランタン祭りのようにふわふわと浮いていて、ムードもある。


 私は自分用にドーナツ型の浮き輪を使って、お二人にはヴィーナスの誕生の貝のような形の浮き輪代わりの物を渡し、プールの中央付近に誘う。


「わあ、涼しいですね」

「灯りの魔法も幻想的で美しいです」


 お二人はナイトプールの様子に感心している。

 そして良いムードになりそうな所だけど、私は大事なお話を切り出した。

 ここで密談を交わすのだ。


「殆どの剣は鉄製です。

レイラ殿下は鉄にならエンチャントの強化が出来るとおっしゃいましたね」


「はい」

「グランジェルドの軍の剣に定期的にエンチャントで強化する仕事を得る事で、グランジェルド王からロルフ殿下の部下との結婚の許可をもぎ取るのはいかがですか?

軍に関係する仕事をする事で、グランジェルド王の庇護下に入ったら、ダレン側もおいそれと手出しはされないと思うのです」


「私がグランジェルド王の庇護下に……」

「魔法師殿には他に何か計画はございますか?」


 レイラ王女の夫となるロルフ殿下の部下の魔法師さんは、プールの中でレイラ王女と同じ貝の浮き輪につかまりながら、真面目な顔で言った。


「結婚の許可を得る為、結納の持参金は不要と辞退するつもりです。

私から不要と言うなら、金を出したくないダレン王は喜ぶでしょう。

あの国が災害と伝染病被害で赤字状態なのを知っています。

それと、伝染病で苦しんだダレン王国の王には貴重な素材や薬草で作った薬を多く収め、結婚を許してもらう予定です。

再び同じ病がダレンや近隣の国で流行するような事になったら、貴族に高額で売れるはずなので、王は切り札を手にできます」


「そんな薬が作れるのですか?」

「既にある程度作っています」


 魔法師はクールに言った。


「なんとまあ、優秀な薬師の知識もお有りでしたのね」


 私は素直に感心した。

 流石第二王子のお付きの魔法師だわ。


「そのお薬の材料はお高いのでは?」


 レイラ王女がお金の心配をして訊いている。


「王女を娶るのにそこをケチるつもりはありませんし、貯金も有ります」

「まあ!」


 レイラ王女は嬉しそうに頬を染めた。


 病で薬を欲するであろう人命を盾に取ってでも王女を娶ると言う確固とした意思と、業の深さを感じる。

 なるほどレイラ王女の好みのタイプだ。


 そして己の私財を投入して高価な薬の材料を揃えたのもまさしく愛だろう。


 私が特に心配する事もなかったかもしれない。

 魔法師さんはレイラ王女の為に、二人の未来の為に、自分でしっかりと迅速に準備をしていたのだ。


 この後はナイトプールでイチャイチャ出来るように、私はお二人から離れて、プールサイドでアイスを食べていたギルバートの元へ戻り、さっきの会話を耳元でこそっと伝えた。


「そこまで周到に準備をしていたとは。甲斐性のありそうな男で良かったではないか」


「そうですね。知的クール系が王女の好みですし、彼女には合っていますね」


 魔法師さんは貝殻の浮き輪にレイラ王女を乗せていた。

 映える。


 見上げた夜空には沢山の美しい星が瞬いていて、本当に良い夜だと思った。

 


 * * *


 そのプールでの密談の後。

 王城にて正式にグランジェルド王とロルフ殿下に話を通して、許可された。


 高価な剣も三本ほど、ロルフ殿下から、ダレンの王への貢ぎ物に使うようにと、結婚祝いだと言って、レイラ王女と自分の部下の魔法師に贈られた。

 その剣にレイラ王女がエンチャントを施し、ダレンの父王に献上し、こちらも正式に許可を得た。


 お二人共、おめでとうございます!


 薬代で大金を使ったらしい魔法師さんを気使って、レイラ王女の希望により経費削減。

 派手な結婚式は無かったが、お二人はグランジェルドの神殿で結婚の届けを出し、司祭から祝福を貰った。

 神殿での婚礼衣装やドレスはシエンナ様が贈ってくれたらしい。


 私とギルバートは後に、お二人を温泉地の別荘に招いてささやかな結婚祝いの会食の場を設けた。

 新婚旅行に温泉、有りだと思います。


 その後、レイラ王女はしばらくは王城に部屋を貰って過ごすけれど、学院を早期に卒業し、グランジェルドのロルフ殿下の物になる予定の、つまり将来的に夫の職場になるルーエ領に屋敷を建て、エンチャントの仕事をコツコツとしながら、日々を過ごす予定だ。



 * *


 休み明けの学院のバザーも盛況だった。

 売り物も完売した。


 乙女ゲームの追加シナリオはバザーの後に配信した。

 シナリオと共に、見習い巫女の美しい歌は評判になった。

 まあ、私の声も混ざっているけれど……。


 見習い巫女は歌声しか入っていないのに、娘のやっているゲーム音で歌を聞いたとある伯爵が、神殿まで見習い巫女の所に会いに行った。

 見習い巫女は元、孤児である。

 橋の下に捨てられ、冬の日にボロを纏って震えていたらしい。


 見つけた人が凍えて死にそうだと、孤児院に連れて行った。

 何故誘拐された子が伯爵領から離れて遠いライリーの領地にいたのかも不明。


 ともかく、伯爵は5歳の時に誘拐されて行方不明になった自分の娘だと言い出した。

 本来なら伯爵家には娘が二人いたと言う。姉妹の姉……。

 巫女は妻で有る伯爵夫人に声質と瞳の色が似ているし、容姿は伯爵の母親の若い時に似てると言うのだ。


 驚く事に王城の魔法師の鑑定で本物の伯爵と伯爵夫人の娘だと言う事が分かった。

 驚きの再会である。


 誘拐された後に何故身代金も要求されずに、幼い令嬢が橋の下に捨てられていたのかは分からないが、何か揉め事でもあったのだろうと予測された。


 とにかく家族に会えて良かった。


 正式に伯爵令嬢の身分に戻った彼女は、公爵夫人たるシエンナ様のお茶会に招かれた。


 ロルフ殿下もそこに招かれていたのだけど、清楚可憐な伯爵令嬢が気に入ったようだ。

 以前夢中になっていたリリアーナ姫も清楚系だったと聞くし、俗世から離れて見習い巫女生活をしていた伯爵令嬢は確かに清廉な雰囲気の可憐な女性だ。


 今度こそロルフ殿下の婚約者が決まりそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る