第236話

 今日、私達は夏の海へ向かう。


 翼猫に乗って美しい蒼穹の中を飛び、上空から海を見下ろした。

 砂浜や陸に近い所は私の大好きなパライバトルマリンの色をしている。

 海の奥の方は濃い青だ。


 照りつける太陽は眩しく、白い入道雲が美しい。

 私は思わず目を細めた。


 地に降り立って、テントの中で着替えをした。

 サンダルで歩く砂浜は熱を持っていて、ああ、夏だな、と、実感が出来た。



 海を見ると沢山の白く輝く星達が、水面に落ちてきてるみたいにキラキラしてる。

 白い波が打ち寄せ、波音が響く。


 海まで乗って来た翼猫達は、今はパラソルの下に敷き布を敷いて、その上でくつろいでいる。


 護衛騎士を乗せるのに借りて来たお父様のグリフォンのシュバルツは自由に空中を飛び回っているのだけど、白い海鳥達がびっくりして逃げて行く。



 今日は前回の川遊びと違い、私は水着の上にパーカーを着てる。

 フード付きの上着を作ったのだ。

 デザインと型紙だけ作って渡して、ミシンがすっかり得意になった針子達にお願いした。


 パーカーは可愛いのでメンズ用も作って護衛騎士達に配った。

 私の騎士とギルバートの騎士達の分も。

 パーカーを周囲のイケメン騎士達に着せるとまるで前世の光景っぽくて面白い。


 ちなみに太ももにはベルトを着け、小型のナイフを二本装備してる。

 戦うメイドさんがよく漫画とかでスカートの下に隠してる暗器っぽいやつを装備してる訳だ。


「今日の上着は簡単に透けそうになくていいな」

「海に入る時はパーカーは脱ぐんですよ。これは陸用ですよ」


 私はギルバートが着ているパーカーの裾をつんと引っ張った。


「……まあ、前回の薄い白いシャツよりはいい、あれは水に濡れると透け過ぎだった……」


 思い出したのか、赤くなりつつ、そんな事を言う。

 ふふふ、あれがセクシーになってしまうと気がつくのが遅いですよ。


「……そ、その笑みは……、何か悪いことを考えてないか?

また俺をからかおうとしてないか?」


「いいえ、今日は大丈夫ですよ」

「今日は!?」


 さて、体をほぐして海に突撃しよう。

 私は軽くストレッチして、パーカーをバサッと脱ぎすてた。


「海──っ!!」


 海に向かって叫びながら、ポニーテールを揺らしながら走る私。


「あ! 待たないか! セレスティアナ! 一人で先行しようとするな!」


 慌てて自分も上着を脱ぎ捨てて、ギルバートが追って来る。


 女護衛騎士の一人、リナルドを肩に乗せたリーゼが私達が放り投げたパーカーを急いで回収する。


 ラナンはこうなると予想していたのか、そもそもパーカーを着ておらず、そのまま水着姿で砂浜を走って私達を追って来る。


 バシャバシャと輝く海に突入した。

 足の速いギルバートもすぐに追いついて来た。


「冷たくて気持ちいい!」

「セレスティアナ! 泳ぐのか?」

「潜ります」


 私はインベントリから酸素を出す小さな石を取り出して、飴玉のように口に含み、


 ドプン! と、音を立て、今言った通りに海に潜った。


 首からは宝珠型の記録のクリスタルをペンダントのように下げている。


 お魚発見!

 小型で細身の魚が群れで泳いでいた。


 絶景〜〜!


 思わず宝珠を握り込んで撮影した。


 ワカメっぽい海藻も発見!

 私は太ももから細身の刃物を抜き、サクッと切って海藻をゲット。


 ギルバートは貝を見つけて集めているようだ。


 ラナンもまた魚を手掴みしていたので、インベントリから網でできた袋を出して、ギルバートとラナン達に渡してあげた。


 早速ゲットしたお魚や貝を入れている。


 私の護衛騎士の男性陣やエイデンさん達もいつの間にか潜って来ていた。

 たまに息継ぎに浮上しているけど、潜った時に私達の様子を見たり、何か拾ったり、捕まえたりしてる。


 私も岩の陰にタコ発見!

 たこ焼きでもお刺身でも良いなと思って、私は素手で掴んだ。

 するとタコは腕に絡みついて抵抗をして来る。


 

 肌に跡が残ると大変だとばかりにギルバートが慌てて寄って来て、私に絡みつくタコの足を引き剥がそうとする。


 ちなみにギルバートは風か水のスキルで水中で息が出来るチート技を使っている。


 側に来たラナンが自前の太ももの細い刃物を抜いて、サクッとタコをシメた。

 その後、タコ足も引き剥がしてタコゲット!

 タコを網に入れて、息継ぎに浮上していった。


 大きな岩があったので私は裏側に移動した。

 ギルバートも心配して追って来た。


 ちょうど護衛騎士達からは死角に入った所で、私はギルバートに顔を寄せて軽く、触れるだけのキスをした。



 水中キスって一度やってみたかったんだ!



 私の突然のキスに驚き、目を見開くギルバートを見て、いたずら成功とばかりに私は口元に一瞬笑みを浮かべてから、二人で仲良く砂浜に向かって泳いだ。



 ──はあっ! 楽しかった! 

 足が立つとこまで来たので、私は砂の上に立って、ポニーテールの髪を掴んで水を絞った。



 ざばっと水飛沫を上げて、ギルバートも浮上してきた。


 ギルバートは赤い顔をして言った。


「全く、其方はいたずらっ子だな!」


「作戦成功〜。

さて、戦利品も合わせて海鮮バーベキューでもしましょうか」


「そ、そうだな」


「ちなみにですね、あの辺にお塩の工場を作りたいと思うんですよ」


 私が指さした陸地を見て、水も滴る良い男のギルバートは言った。


「辺境伯の許可が出るなら良いのではないか?」

「そうですね。塩は必要な物なので許可は降りるでしょう。

地元民の雇用も生まれますし」



 とりあえず、お塩の工場を作りたい所も撮影して、後で帰ったら城でお仕事をしてるお父様に見せよう。


 そして差し当たっては、海鮮BBQをしよう!

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