第235話

 見習い巫女の歌の練習期間もそろそろいいかな?

と、記録のクリスタルでの収録の為に、我々は転移陣から神殿へ向かった。


 乙女ゲームの追加シナリオも出来たから、それに歌を入れる予定。

 追加シナリオはクリスタルとクリスタルで魔法陣を起動して、そこから魔法で送られる。

 魔法陣からダウンロードするみたいに。


 追加シナリオ入りの板状クリスタルは王都の店にも置く予定。

 追加納品分のクリスタル本体は有料だけど、このシナリオ自体は完売の感謝の分で無料配布にする事にした。

 

 なので友達同士でクリスタル越しにダウンロード用の呪文を知っていれば渡す事も出来る仕様にする。



 *


 私の今日のコーデは上品で落ち着いた、エンパイアラインのグリーンのドレス。

 やはり神殿だからね、高貴な雰囲気のドレスが良いよね。


 せっかくなので、見習い巫女のミレーシャさんには神殿側の畑で歌って貰う事にした。

 リナルド情報によれば歌詞が大地に祝福を与える古語になっていたらしいし。


 わざわざ貴族の私が神殿まで来ているので、ギャラリーには巫女や神官もいる。

 私はインベントリから椅子とハープを取り出し、畑の手前あたりに座った。


 私の護衛騎士達もリナルドも周囲で待機している。



「記録は任せてくれ」

「そ、そうですか、では、ギルバート、お願いします」

「ああ!」


 ギルバートも私が演奏をすると聞くやいなや、記録の宝珠を首から下げて、張り切ってスタンバッている。


「ではミレーシャ、伴奏に私がハープを演奏するので、歌ってくれる?」


 巫女さんはやや、緊張した様子ではあったが、素直に応じてくれた。


「はい、あの、良ければサビの部分だけでもご一緒に歌っていただけませんか?」

「ええ、分かったわ」


 頼み事をしてるのはこっちなので、サビくらいはいいでしょう。

 伴奏に合わせて透明感の有る巫女の歌声が響き出す。


 サビの部分で巫女の歌声に重ねて私も歌う。


 ん?

 ……なんか周囲がキラキラし始めた……!


 明らかに何かの奇跡が起こってる。

 畑に目をやると植物の成長が著しい。



 とにかく歌いきる事に集中して、曲の終わりまで歌いきった。


 ──ふう。


 わ──っと歓声と拍手が起こった。

 目の前には見事に実った美味しそうなお野菜のトマトときゅうりとナスビ。


『やっぱり、こうなるよね』


 リナルドがボソリと呟いた。

 私はやけくそ気味に神職のギャラリーに向かって言った。


「作物が不作の時にはこの歌を歌うように教えておいて下さい」

「はい!」


「また、目立ってしまったわ……」

「綺麗だったぞ!」

「も──、自分の顔が良いのは知ってますけど、照れます」


 ギルバートがご機嫌で褒めてくれるけど、照れる。

 私はインベントリからローブを出して被った。


「夏にそんなの被って熱くないのか?」

「良いのです。ラナン」

「はい。我が君」

「……ああ、杖か」


 エアリアルステッキを持っていたラナンが近寄って冷風を当ててくれる。

 涼しい〜〜!


「よし、謝礼を渡して撤収します」


 それから神殿に戻って謝礼を渡した。

 神殿長からも頭を下げられ、挨拶も終えて、転移陣からライリーの城の庭園の転移陣へ移動。


 帰城後にギルバートの記録した物を自分のクリスタルにコピーをした。

 後はシナリオのクライマックスとエンディングにこの曲を合わせる作業を天才錬金術師の先生にお願いする。



「お嬢様、次の納品用の画家の絵が仕上がったので見て欲しいそうです」

「どちらの画家?」

「両方です」

「そう、良かった。今行くわ」


 私の工房に運ばれて来た物は、乙女ゲームに出て来る花の絵。

 二人の画家が並んで椅子に座って待っていたけれど、私が工房に入ると、二人の画家は慌てて起立し、頭を下げた。



 私は早速依頼していた物を確認する。

 乙女ゲームと関係が無くとも、いずれもとても綺麗なお花の絵だ。


「とても綺麗ね、素敵だわ。二人ともご苦労様」


「ありがとうございます」

「光栄です」


 私はすぐに報酬の金貨と銀貨と銅貨を袋に入れて、二人に渡した。

 全部金貨で渡すと崩すのが大変だろうとメイドに進言されたからだ。


 それもそうだなと思った。

 その辺のお店で買い食いとか飲みに行ったりしたいかもしれないしね。

 夏の飲み屋の雰囲気って楽しそうだよね。


 *


「さて、夏なので海に行きます」

「さも当然のように……」


 急に執務室に現れるなり、そう言い放った私の言葉に、お父様が驚いている。

 デスクでしていた書類仕事の手も、思わず止まったようだ。


「かねてから、塩を作る為にライリーの海の下見をしようと思っていたので! 

新事業の視察も兼ねていますので!」


「塩!」

「そうです、塩です」


 副産物のニガリで豆腐も作りたい。


「塩か……塩は必要だしな。

自領で作れたら輸入が厳しい時にも助かるか」


「そうです」

「まあ、護衛もいるから、許可しよう。しかし、十分に気をつけるんだぞ」


「はい! ありがとうございます、お父様!

それとこれは塩作りの計画書です。塩作りに必要な道具の記載もあります」


 私は計画書を書いた封筒を渡した。


「お嬢様、また仕事を増やして大丈夫ですか?」

「実際の仕事は海の近くに住んでる人から募集してやって貰うので大丈夫よ。

私自身が海水を運んだりする訳じゃないもの」


「それはそうでしょうが」

「むしろ文官の貴方達の仕事が増えるでしょう」

「わ、私は大丈夫です」

「私も大丈夫です!」


「頑張って。今夜は元気の出そうな料理でも出すように厨房に言っておくわ」

「ありがとうございます!」

「ここの料理は美味しいので楽しみです!」


「ところでティア、海にはいつ行くんだ?」

「五日後くらいに」

「分かった」


 また水着になると言ったらギルバートが渋い顔をしそうだけど、絶対に行きたいから通すぞ。

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