第233話

 弟の加護の儀式を祝うパーティーは盛況にて終わり、貴賓の皆様も満足して無事にお帰りになった。


 そこは大変良かった。


 そして、レイラ王女とロルフ殿下はなかなかいい雰囲気で、上手くいくような気がしていたけど、ロルフ殿下の側近の魔法師に乙女ゲームのキャラの、彼女のお気に入りのノクターンに似た外見の男性がいたせいで、いつの間にかレイラ王女はそちらに本気になってしまった。


 何故こんな事に……。


 せめてもの救いは、ロルフ殿下の方はそもそもレイラ王女の事を、知り合いが増えたくらいにしか思っていなかった事だ。

 友達は増えたんですね……。


 レイラ王女は今度その魔法師さんとデートするらしい。

 ……展開が早いな。


 でも何歳も年上の爺さんみたいな相手に無理矢理嫁がされるよりはいいのかな。


 しかし、国元は大金をくれる訳でもない相手でも許してくれるのだろうか?


 災害と疫病で他国に支援を受けた分の借金返済の為に、国内で後ろ盾も無く影響力は低いが容姿は良い王女を金持ちに売ろうとしてる気配を感じたのだけど。


 レイラ王女は「いざとなったら馬車が谷で落ちたとか、事故で死んだふりでもします」とか言ってる。

 大丈夫かな?

 

 ……金策とか相談されたら何か考えてみよう……。

 さし当たっては見守りモードに入る事にした。



 * * *


 王立学院は夏休みに入った。


 夏になったせいか、私は夜に、川とうなぎの夢を見た。


 もしや、予知夢? ライリーの川に生物が戻った的な?

 これは、ぜひ確かめたい! 

 なので、餌用にミミズを探して川へ行こうと思った。


 私はお父様にあまり遠くへは行かず、行くのは近くの川にするという条件で、なんとか外出許可を貰った。


 もちろん護衛付きで行く。


 私が川に行くと言うのを聞きつけて、ギルバートが話しかけて来た。


「セレスティアナ。川に行くんだって? また水着で泳ぐのか?」

「うなぎを探しに。釣り的な。いや、罠なんですけど」

「なんだ、罠漁か。 じゃあ水着にはならないのだな?」

「濡れる可能性はあるので、水着にならないとは言っていません」


「……」

「ギルバートは嫌なら無理してついて来なくても大丈夫ですよ」

「俺は其方のガーディアンだぞ! 行くに決まってるだろう」


 そんな訳でやはりギルバートも同行する事になった。


 *


 糸と針とペットボトルが欲しい所だけどペットボトルは無いので、鰻用の罠を作った。


 細長い木箱のような物と、筒状の物の二種。

 もんどりとか言う漁具。


 中に餌を入れて魚をおびき寄せ、入り口から入った魚が外に出られないようにする仕掛けが有る物だ。


 前世では動画なんかでよく見ていた。

 川で個人が楽しむくらいなら許されてる事が多いみたいだけど、前世だと漁業権とか色々気にしないといけないから、自分でやった事は無かったけど、ライリーの領主はお父様だからライリー内なら大丈夫。


 餌はミミズ。


 *


 ラナンと一緒に翼猫のアスランに乗って近所の川へ。

 ブルーにはアシェルさんと私の護衛騎士のリーゼが同乗し、ギルバートはエイデンさんと自分のワイバーンに。

 それと自分の竜騎士を三人。


 晴れた日の夏空を風をきって飛ぶのは、気持ちいい。

 青い空と白い雲がとても綺麗。


 城からそう遠くない近所の川に到着した。


 そして早速インベントリからテントを出して、水着に着替えた。


「セレスティアナ、上に何か羽織ってくれないか?」


 ギルバートがそんなわがままを言うので、こちらも言う事にした。


「じゃあギルバートの白いシャツを一枚貸して下さい」

「分かった」


 ギルバートは布製亜空間収納からYシャツ系のシャツを一枚出して貸してくれたので、私はそれを上に着た。


「ふふふ、彼シャツ」

「何だって? カレシャツ?」

「男性の、恋人の大きくてブカブカのシャツを着る女の子は可愛いと言われています」

「……!!」


 ギルバートは私を改めて見ると、耳まで赤くなった。可愛い。


 私はインベントリからラナン用に白いシャツを用意した。


「じ、自分で持っているじゃないか!」

「これはラナン用に用意していた物なので」

「私がこれを着るのが嫌なら、ギルバートのシャツは返しますよ」

「い、嫌とは言っていない!」


 ふふふ……思いがけない事を言われて動揺している。

 ギルバートの側近のエイデンさんと、私の護衛の為について来たアシェルさんが、後方保護者顔で、やれやれといった顔をしている。

 

 *


 やっぱり夏の川は良いなあ!


 陽射しを受けて透明な水の流れがキラキラしてるし、涼もとれる。


 ついでに網でちょっとガサガサもやろう!

 草の生えてる下あたりに網を突っ込んでガサガサ……と、


「エビ! エビがいました!」

『石の側に沢蟹もいるよ〜』


 私の頭に乗ってるリナルドが言った。


「リナルド本当!? あ! 小さくて可愛い!」

「本当に川遊びが好きだな、其方は」

「はい!」


 バシャア!


「何か川魚を捕まえました」

「ラナン、流石、素手で! あ! 鮎だこれ!」


 可憐な見た目と違ってワイルドな美女である。


 他の騎士も器用に鮎を捕らえている。

 あ、あのギルバートのお抱え竜騎士さんは槍をモリの代わりに……やるわね。



「ところで罠は何処に仕掛けるのだ?」


 なんだかんだと水着で付き合ってくれるギルバート。

 鍛えた体が眩しい……。


「鰻がいそうな所……です。あの辺?」


 私は勘で指差した所に鰻の罠を仕掛けた。


「後日またかかっているか見に来ます!」

「え!? また川に来るのか!?」

「飛べばすぐ着くので」


 ギルバートはやれやれとため息をついた。

 明日、かかってると良いな。


 インベントリからキャンプ用のテーブルセットと石を集めてカマドを作る。

 私は鮎の料理をする事にした。

 やっぱりここは塩焼きかな。


 野外で火を使うと気分が盛り上がる。

 私の護衛騎士が声をかけてくれた。


「魚の串打ちは任せて下さい」

「ありがとう」


 遠火でしばらく串に刺した鮎を焼く……。


 そしていざ、実食の時!


 鮎なのでスイカに似た香りがする。


「いけますね、若い鮎なので骨も柔らかく旨い」

「上品な脂だ。美味しい」


 皆、思い思いに感想を口にした。


「もし鮎がいなかったら、エビをかき揚げにして食べたかもしれないです」


 沢蟹は揚げれば食べられると思うけど、泥抜きの手間をかけないと身分の高い方にはお出ししにくいし。

 サバイバル状態なら出すけど。

 

「セレスティアナ。鮎がいなくても他にも食べる物あるだろう。

あんな小さなエビを食べなくても、いつもインベントリにおにぎりとかを入れているのを知っているぞ」


 何故そんな事まで知っているのかな……?


「それはそれです。せっかく川に来たのでそれっぽい物を食べて、雰囲気を満喫したいというか」

「おにぎりは……」


「そうですね、ピクニックっぽいので塩味のおにぎりも出しましょう!

おっしゃる通り、遊山箱に入れてあります。キュウリの漬け物と卵焼きもありますよ。

それと、せっかくなので大葉と茄子を揚げますね」


 残った油は廃油キャンドルに使えば良いので、野菜を揚げちゃおう。



 揚げた大葉を口に入れる。

 パリ……。


「大葉の天ぷら、美味しいですね」

「これは間違いない」

「私も大葉の天ぷらが大好きですよ」


「ナスも、ほくほくしたおにぎりも美味しいです」

「食べ出したキュウリの漬け物が止まらない……」


「キュウリの浅漬けは昆布等で漬けてあるので美味しいのですよ」


 ギルバートの竜騎士達はピクニック用の敷布の上で遊山箱を広げて寛いでいる。

 美味しそうにキュウリを食べている小気味良い音も響く。

 


 皆んなで楽しくキャンプ飯を食べて、本日の川遊びはおしまい。

 罠の成果は後日分かるだろう……。

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