第232話

 ──時が流れて、眩しい陽射しの夏が来た。


 空は高く青い、よく晴れた日、弟のウィルバートは五歳の誕生日を迎えた。

 本来は加護の儀式は春に来るものではあるが、五歳になる領主の子が夏生まれなので、今期のライリーの精霊の加護の儀式は夏に来た。


 両親は弟との付き添いで神殿へ向かったが、私はお客様のお相手の為、城に残っていた。

 撮影はお父様に頼んであるから、後で儀式の様子は見れる。



「いいですか、レイラ王女、私の霊獣のアスランを貸しますので、挨拶の後に護衛騎士のラナンから受け取って、優しく抱っこしてください」


「はい、セレスティアナ嬢」

「ロルフ殿下が現れ、もし翼猫に興味を示したら、賢くて優しいから触っても抱っこしても許してくれると教えて差し上げて下さいね、霊獣なので毛も抜けません」


 ──などと、ロルフ殿下より先に来たレイラ王女に指示を出しておいた。


 

 転移陣が光り、いよいよロルフ殿下とシエンナ様が護衛騎士を伴って到着した。

 お二人共、正装していて麗しい。


 私も新しいレモンイエローのドレスでお出迎え。

 隣にはこちらも美しく着飾ったギルバートとレイラ王女。


「ようこそ、ロルフ殿下、シエンナ様」


 貴族然とした優雅なカーテシーなどの挨拶の応酬の後、ラナンはレイラ王女にアスランをさりげなく渡した。

 ロルフ殿下はレイラ王女に大人しく抱っこされているアスランに興味を示した。


 ──計画通り。



「パーティー会場にご案内します」


 私の案内でパーティー会場へ移動した。

 一応基本的には立食のパーティースタイルだが、疲れやすい人の為にテーブルと椅子も用意してある。


 夏の熱気はエアリアルステッキの冷気で調整してあるので、汗だくは避けられる。


 会場はほぼ近隣の貴族や騎士が多いが、食事の美味さが有名になってしまったせいか、かなり盛況で華やかだった。


「レイラ殿下、可愛い猫ですね、翼の有る猫なんて不思議だ」


「はい。セレスティアナ嬢の霊獣なのですが、賢く優しい子で、初対面の私にも抱っこさせてくれます。

雷の精霊と親和性の高い殿下にも、恐れないようですが、抱っこしてみますか?」


「おお! それは嬉しいな。ありがとう」


 レイラ王女はやや頬を染めて、ロルフにアスランを手渡した。

 なかなか良い感じ……。


「どうですか?」

「可愛い……大人しく抱かれてくれる。私が普通の猫に近づくと、大抵シャーッ! とか言われるものだが」

「ようございましたね、ロルフ殿下」


 少し離れた場所からお二人の様子を見守る私達にシエンナ様が話かけて来た。

 口元には優雅に扇子を広げておられる、流石公爵夫人となられたシエンナ様。


「ロルフ兄様にお嫁さんを探してくれようとしているのかしら?」


 シエンナ様の瞳はキランと輝いている。


「……相性が良ければそれも悪くは無いかと、ただ、あの方はあまりお国元では影響力が無いとおっしゃっていますけれど」


「下手に後ろ盾が強固な姫でも王太子で有るアーバイン兄様との関係に緊張が走る可能性もあるし、悪くは無いかもしれないわ。身元は分かっているし」


「ごり押しするつもりは無くて、あくまで相性が良ければです」

「流れに身を任せてみましょう。なるようにしかならないわ」


 ふいに宴の会場がざわめいた。


「閣下のお帰りだ!」


「お帰りなさいませ! ジークムンド様」

「お帰りなさいませ、奥様」

「ウィルバートお坊ちゃま、お帰りなさいませ」

「お帰りなさいませ、皆様」


「皆、よく集まってくれた。我が息子は水と炎の加護を授かった! 

騎士の子供達もそれぞれ加護を賜っている。

この喜ばしい日を祝い、今日は大いに飲んで食べて、楽しんでくれ!」


「おお! ウィルバート様はスキルが二つも!」

「これでまたグランジェルドの盾が強固になりますな」


 なんと! 私の弟、スキル二つだわ。


 続いて、両親とロルフ殿下、レイラ王女、シエンナ様が挨拶をかわす。

 祝福のお言葉を貰っている。


 私はその後に、両親と弟に声をかけた。


「皆、お帰りなさい。ウィル、5歳のお誕生日おめでとう」

「ねーさま、ありがとです」

「ただいま、ティア」



「今日の其方も光の妖精のように愛らしいな」


 本日はギルバートに贈られたドレスとシルバーアクセで着飾っている。


「ドレスが明るい黄色ですからね」

「レモネードが飲みたくなった」

「ふふ。どうぞ、レモネードです」

「ありがとう」


 すかさず執事がギルバートにレモネードを差し出し、ギルバートは優雅な仕草でそれを受け取った。


「今日の料理も美味しそうで目移りするわね」

「姉上、早速デザートですか。ケーキにプリンにシュークリーム。

公爵も呆れてしまうのでは?」


「夫のルークは今日は会議で留守番だから大丈夫よ」


 シエンナ様は自分の皿……どころか、トレイにスイーツを数種類乗せている。


「全く……先におかずを食べないのですか?」

「先にデザートを食べないと入らなくなるかもしれないでしょう」


 スイーツに対する並々ならぬ情熱を感じる。


「あら、まだダンスも踊っていませんのに、ロルフ殿下とレイラ王女は庭園に移動されたみたい」

「庭園の噴水の側か鯉でも見に行くのではないか?」

「ああ、鯉の……」


「しばらく食事でもしながら、二人が戻るのを待つとしよう」

「どんな会話をしているのか気になりますが、覗きに行く訳にもいきませんものね……」

「ああ」


 すっごい気になりますけど!


「やはり美味しいな、このローストビーフ。ソースがまた素晴らしい」

「この煮込みハンバーグも何故うちで作ったハンバーグよりも美味しいのかしら」

「濃厚な旨味が有る」


「ロズスターもプリっとしていて美味い。これはワミード産だな」

「分かるのか、産地まで」


 客人達は今回も料理を美味しそうに召し上がってくれている。


 指定時間になり、ドーン! と、銅鑼のような楽器の音が響き、会場には大きなスクリーンで宝珠で撮影された加護の儀式が映し出された。

 私の要望である。


「おお……」


 この演出に感嘆の声が漏れた。

 これで留守番組も儀式が見れるのである。

 気分はイベントプロデューサー。


 銅鑼のような音を聞きつけて、ロルフ殿下とレイラ王女も会場に戻って来た。


 次に映像はいつぞやのルーエ領の海の中などが映し出され、楽師が映像に合わせた曲の演奏もする。

 美しい珊瑚礁の海に人魚!

 会話のネタもしっかり提供出来るってものよ!

 しかもBGM付き!


「まあ! 私、初めて人魚を見ましたわ、とても綺麗」

「私もだ。あそこが頑張れば私の物になるルーエ領の海か」

「ロルフ殿下が頑張ればとは?」


 ロルフ殿下とレイラ王女がスクリーンを見ながら会話している。


「Bランク以上の魔物100体倒せば私が貰えるらしい。

雑魚が多いからBランク以上のはまだ五体しか倒せていない」


「雑魚は放置して強いのだけを倒す訳にはいかないのですか?」

「我々から見て雑魚の魔物でも平民にとっては脅威になるから、見過ごす訳にもいかない」

「立派な方ですのね」


 おや? 良い感じね?


「海の中とか初めて見た! お魚綺麗!」

「あそこの海に旅行に行きたい」


 騎士の子供もキラキラした瞳で海中の様子見ている。

 たしかに海の中をじっくり見れる機会などそう無いので感激だろう。


 映像を見て、ロルフ殿下とレイラ王女の会話も弾んでいる様子。


 せっかくの機会なので皆様に私が集めたお宝映像も追加でおすそ分け公開。

 蔵出しスペシャルである。


 次はギルバート殿下が竜の谷に行った時の様子が写された。

 客人達も滅多に見れない光景に喜んでいる。


「紅葉が綺麗ですね」

「おお、あんなに沢山の野生の竜が……圧巻だな」

「竜騎士かっこいいなあ!」


 大理石をゲットした領地で見た、私が撮影して来た美しい花畑なども写される。


 次々とグランジェルドの美しい風景が写し出されて、退屈する暇は無かった。

 皆、美味しい食事を楽しみながらも、グランジェルドのプロモーションビデオのような物を感心しながら見ている。


「今度、あそこに行ってみたいな」

「ライリーの広々とした草原は美しいな、見てるだけで清々しい」

「王都の紅葉ライトアップも美しいですわ」


 そしてしばらくのプロモ鑑賞会の後で、楽師達の演奏が切り替わる。

 ダンスの曲だ。


 ロルフ殿下のエスコートでレイラ王女が踊る。

 私もギルバートに誘われ、ダンスを踊った。

 

 この二組の華やかなダンスには皆が見惚れ、賞賛された。

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