第231話

 学院から教会の転移陣までの帰る道のり、馬車の中で私はギルバートにレイラ王女の為、相談をする事にした。


「俺の別荘にロルフ兄上とレイラ王女を同時に招待して欲しい?」

「はい」

「……王族二人の警備の事を考えれば、もうじき、夏には其方の弟君のウィルバートの加護の儀式があるから、そのお祝いの宴にライリーの城へ呼ぶ方がいいのでは?」


「……私の弟がまさかの加護無しで、パーティー会場がお通夜状態になったりはしませんよね?」


「え? そんな事を心配していたのか? 水の精霊の加護はあるようだぞ。

同じ加護持ちだから分かる」


「あ! そうなんですね! あるんですね! あの子、水スキルなんですね!」

「儀式で初めて知りたいかもしれないと、言って無かった」


「儀式を受けるのは本人ですし……私はネタバレ平気な方なので……先に心の準備をしたい派ゆえ」


 ウィルはアイスブルーの目に髪が赤っていう色持ちだから、アイスブルーの瞳はお母様と同じで、もしや氷か、髪の赤が同じなのでお父様と同じ炎かと思ったら、水なのね。


「加護があるようで、ほっとしました」

「警備の面を考えると俺の温泉地の別荘より、ライリー城の方が結界もあっていいだろうと思う。

それと姉上が拗ね無いように一緒に呼んでやると良いと思う」


「そうですね。分かりました。

ロルフ殿下とシエンナ様とレイラ殿下を弟の加護の儀式のパーティーに招待したいとお父様に相談をしてみます」


 流石に王太子殿下はおいそれと呼べないよね、まだ社交界デビューもしてない弟の宴に。

 一人呼ばれずに拗ねたりしないよね?

 そもそも王太子殿下とは親しく無いし、春夏のメイン社交シーズンはお忙しいでしょうし。

 降嫁されたシエンナ様とは新婚旅行以降、わりと交流が有るからいい気がするけど。


 私はギルバートにお礼を言って、城に帰るとお父様のいる執務室へ向かい、お二人の宴への招待の許しを貰った。


 *


 大急ぎでお二人へ招待状の用意をした。


 そして翌日学院へ。


「申し訳ありません、レイラ殿下。警備の面で温泉地の別荘ではなく、とりあえず初夏にある弟の加護の儀式の宴、城への招待と言う事になりました」


「分かりました。でもライリーの温泉地にも興味があるので、いずれは行っても良いでしょうか?」


「ええ、もっと警備が強化されましたら、是非、水着を用意して」

「水着……」

「あ、水着と言えば、プールならライリーのお城にもありますよ。

夏にはあそこで涼むので」

「水着とプールは乙女ゲームにも出て来ましたね!」


 私は頷いた。


「それと国から婚約祝いのクリスタルの納品があったので、一つ、カメリアのお礼に差し上げますね」


「クリスタルを!? 本当ですか! 嬉しいですわ!」


 レイラ王女は大いに喜んだ。

 さもありなん。


 *


 招待状を送って、後日。

 ライリーの城にて晩餐の時間。

 家族とギルバートも揃っている。


 お父様がワインを一口飲んでから口を潤し、口を開いた。


「ティア、ロルフ殿下とシエンナ様だが、宴へ参加するともうお返事があったぞ」


「お二人のお返事、凄く早かったですね。レイラ王女には学院で本人に承諾をいただいていましたが」


「そうだな、早かった。

ところで宴用のティアの新しいドレスは用意出来てるのか?」


「え?

5歳の加護の儀式の主役は弟なので、弟の服は作っていますが、私のは既にあるドレスで良いのでは?」


「何だって?」

「あ! またこの子は自分を後回しにして!」


 お父様とお母様に驚かれた。


「私は経費節約をですね」

「これは浪費では無いと思うのだけど、婚約のお祝いに国から沢山金貨をいただいた事だし」


「印刷機とか諸々商品開発の方に回そうかと」

「でも夏のドレスの数着くらい品格維持費から出せるだろう」

「そうです、その為の予算は取っているはずですよ」

「はい、もちろんお母様の怠慢ではなく、私が勝手に」


 夏とか許されるならTシャツと短パンかワンピースとかで緩く過ごしたい。

 まあ、ワンピースはともかくTシャツ短パンは無理ね。


「セレスティアナ、自分のドレスを作るの時間が無いなら、学院の帰りにでも王都のドレスショップへ買いに行こう、支払いは私が持つ」



 静かに食事をしながら話を聞いていたギルバートが、そんな提案をして来た。

 また私に課金しようとしてる。

 でも……婚約者だから、甘えてもいいかな?


 甲斐性を見せてくれるのでしょう。


 買い物デートも良いものよね?

 婚約してからまともにお外で一緒に買い物ってして無かった気がするし。


「分かりました。では王都のドレスショップを覗いてみましょう」


 私はニッコリ笑って言った。


 両親とギルバートが安心したようにふう、と、ため息をついた。


 *


 後日、学院の授業が終わり、鐘が鳴った。


 放課後になって、ギルバートと同じ馬車で王都内のドレスショップへ向かう。


「放課後お買い物デートですね」


「デート……。そうか、そうなるか……はは。其方はたまに可愛いらしい事を言うな……」


 ギルバートは突然の私のデート発言に、はにかむように笑った。


「いらっしゃいませ! ギルバート様、セレスティアナ様。本日は何をお求めでしょうか?

 何なりとお申し付けください」


 ドレスショップのマダムな店員さんが食い気味に接客に現れた。


「夏用の涼しげなドレスを見せていただける? 

宴まであまり時間が無いので既に出来ているものを買うつもりなの」


 オーダーメイドは時間がかかるのでね。


「では、こちらへどうぞ」

「これは……爽やかなレモンイエローのドレスですね」

「ええ、夏の装いピッタリでございます。

先程試着されたこの淡いブルーのドレスもお嬢様はとても美しいので、お似合いですよ」


「ギルバートはどれが似合うと思いますか?」

「どちらも似合うと思うから、両方とも買う。

それとこちらの色味の違う青いドレスも試着してサイズに問題無ければ買おう」


「ありがとうございます」

「誠にありがとうございます」


 私と店員さんが仲良くお礼を言った。


「あ、あのブルーグレーのドレス、お母様に似合いそう」

「そのドレスも包んでくれ」

「かしこまりました」

 

「あら……お母様のは私が払いますよ」

「婚約者の母親の分を一緒に買うくらい、良いだろう」

「セレスティアナ様、大丈夫ですよ、ギルバート様にお任せしましょう」


「エイデンさんまで……。

じゃあ、お願いします。ギルバート様、ありがとうございます」

 

「全く問題ない」


 ギルバートは華やかに微笑んでそう言った。

 エメラルド鉱山持ちは景気が良いなあ。



 ドレスショップから出て、表通りの煉瓦道にいる私達。

 街路樹の木々も青々と元気に茂っている。

 良い天気……陽射しも強くなって来た。夏が近いんだ。


 私はインベントリから日傘を出した。


「私が持とう」


 私達は同じ日傘に入った。

 これは以前、彼がプレゼントしてくれた美しいレースの日傘だ。

 背の高い彼が傘を持って、並んで歩いた。

 歩く速度は私に合わせてくれている。


 そしてギルバートが次の行先を告げた。


「次は宝石店でアクセサリーを買いに行くぞ」

「宝石までは別に」

「あの店に良いシルバーのアクセサリーが入ったと聞いた」



 ギルバートが指差した先には、確かに宝飾店が有る。


「シルバー……シルバーは好きですから覗いてみようかな……」

「そうしよう」


 こうしてまんまと釣られる訳だ。

 ギルバートがいつの間にか私の好みを把握している……!


 誰か私の攻略情報でも渡しているのだろうか?

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