第230話

「セレスティアナ様、また機会があれば男装して下さいますか?」


 目をキラキラさせて私におねだりをしてくるレイラ王女殿下。

 側にいる取り巻きも、マジかよ!? みたいな顔してる。


 最近まで私をギルバートとの恋のライバルとして、やや敵視してたので、物凄い手のひら返しにややついて行けない様子。


 まあ、でも私、暴言を吐かれたりはしてないし、男装演劇も楽しかったし、椿も貰ったから別にいいけど。


「そ、そうですね、聖者の星祭りの時、自領で出し物など、考えていたので、その時にでも……」


「ライリーのお祭りに招待していただけるんですか!?」

「ええ、レイラ王女殿下さえ、問題無ければ構いませんよ」

「絶対に行きます!」


「とりあえず、星祭りまでは……、予備のクリスタルが有りますので、乙女ゲームでもやっていて下さい。

愛が重い不憫属性の攻略対象もいますから、お気に召すかもしれません」


 私はインベントリから、予備のクリスタルを出してレイラ王女に見せた。


「乙女ゲームとは?」


「別に男性がやってもいいのですが、攻略対象が男性なので、主に女性が楽しむ遊びとして作られたものです。作中で恋愛したい相手を選択し、恋を成就させるのです」


「まあ! 板状のクリスタルから音が!」

「OPムービーの曲です」

「……綺麗な絵ですね」

「ありがとうございます」


「キラキラした美男子が5人出て来ましたね」

「好みのキャラ……男性がいますか?」

「この、やや影のある黒髪の……」

「ノクターンという攻略対象ですね」


 私は乙女ゲームの説明とクリスタルの操作方法をレイラ王女に教え、クリスタルを貸し出した。

 クリスタルには取り巻きさん達も興味を示していた。



 とりあえず、次の演劇まで多少の時間はゲームが稼いでくれるでしょう。


 * *


 と、のんきにしていたら……2日後のお昼の時間に、ちょっとした事件が……。


 お弁当を持って景色の良い所で食べようとしていた時、歯切れの悪い感じでレイラ王女の取り巻きさんに声をかけられた。


「あの、セレスティアナ様……」

「はい、何か?」

「レイラ王女が寝食を忘れる勢いでゲームばかりしていて、ろくに食事もしないのですが、何とか言って差し上げて下さいませんか?」


「ええ!? 今、レイラ王女はどちらに!?」

「休み時間になると休憩室に移動して、すぐにゲームを取り出してやっているようで」

「私が案内致しますわ」


 取り巻きさんの案内で、いくつかある休憩室の一室へ慌てて向かった。



 いた! レイラ王女! あ!本当だわ! 目の下にクマまで作って!


「レイラ王女殿下! 睡眠も食事もちゃんと取って下さい!」

「申し訳ありません、今、良い所なので……」


 私の声に返事をしてくれはするけど、この反応は……ああ〜〜! マジで没頭している!


「いくらなんでも、どうしてここまで……」

「レイラ王女殿下は、しばらく前にお国元から結婚相手候補は見つかったのかと、せっつかれていたのですが、そんな辛い事は考えたく無いとおっしゃっていて……」


 え!? 辛い事を忘れたくて現実逃避中!?


「ここで見つからない場合、好色な……いえ、条件がかなり厳しい感じの人の元へ嫁がされてしまいそうなのですが……」

「ええ……!? 余計にゲームをしてる場合では無いではありませんか!

と、とりあえずお昼なので食事を!」


 私はバスケットからお弁当箱を取り出し、サンドイッチを選んで取り出した。

 それをレイラ王女の口元に近付けた。


「レイラ様、セレスティアナ様がサンドイッチを下さいましたよ」


 取り巻きさんがレイラ王女に声をかけたが、まだクリスタルから目を離さない……。


「レイラ王女殿下! お口を開けて下さい。

そのままクリスタルを見ていてもいいので、ほら、卵サンドですよ」


 この私の説得で王女は、ようやくパクリと口を開けたので、すかさず卵サンドを突っ込んだ。


 ……もぐもぐもぐ……。


「驚くほど、なめらかで美味しい卵……美味しい……!」


 くわっと大きく目が開かれた。


「そうでしょう!」

「食べました! レイラ様が食事をされましたわ!」


 取り巻きが声を上げて喜んだ。 

 うちの卵サンドは美味しいので王族のギルバートもお気に入りなのだ。


「こちらは唐揚げですよ、はい、あーん」


 王女は未だクリスタルを離さないので、またも手ずから食べさせる。

 餌付けみたいな光景だ。


 もぐもぐもぐ……。


「おいひい……」

「インベントリに入れていたら料理は温かいままなので、美味しいのですよ」

「はい、こちらはレモン水です」


 インベントリから冷えた飲み物を出すと、王女はようやくクリスタルから手を離し、飲み物の入ったコップを受け取った。


 流石に私から飲み物を飲ませるのは、ストローでも無いと厳しい。


「爽やか……」

「揚げ物を食べた後ですから、爽やかな飲み物が良いと思って。

あ、こちらは揚げたポテトですよ」


 私は小皿にポテトを取り分けて、フォークと一緒に渡した。


 もぐもぐもぐ……。


「……揚げた芋が……こんなに美味しいとは……」


 そう言えば、レイラ王女は他国の人だ。

 まだライリーから流行りだした食事は口にして無かったようだ。


「あの、不躾な事を言って申し訳無いのですが、婚約者を早く見つけないと、困った事になるとか。

ゲームに夢中で取り返しのつかない事になると、私も責任を感じますので、相談があれば乗ります……」


「ノクターン・エストレーヤ様みたいな男性がいたら教えてください」

「そ、それはその、乙女ゲームのキャラですね……」

「王女殿下、その方は現実にはおられないでしょう」


 取り巻きさんの言葉は真実だ。


「だから、似た感じの方よ」


 ノクターンは不憫属性で愛の重い系の、私がおすすめしたキャラだった。


「えっと、不憫と言えば……大きな声では言えませんが、このグランジェルド王国の第二王子が、一目惚れした隣国の姫の為に留学までして、その国の魔物を減らせば、姫も喜んでくれるのではと、せっせと沢山倒して貢献していたのにも関わらず、男性恐怖症だとかで、結局恋は実らずに帰国されたんです」


「まあ、お気の毒に……」


「そうです、不憫ではありませんか? 情熱的でお顔も男前なんですよ。

男らし過ぎて相性は悪かったのですが」


 ロルフ殿下の失恋エピソードを話すのは申し訳ないけど、どの道、我が国の社交界では既にバレバレの話、他国の人に伝わるのも時間の問題。

 ほぼ皆が知ってる情報だから今更なのだ。


 それにレイラ王女は不憫属性のようだから、不憫要素が逆に加点になりそうなのである。


「第二……王子様」

「そうです、ロルフ殿下は、他国に行ってらしたせいもあって、今も婚約者はいらっしゃらないのです」


 フリーのイケメンの王族がいますよ!

 チャンスですよ!


「男前……」

「ええ、それは間違いなく! 

精悍な顔立ちの、あ、クリスタルに両親が王城へ行った時の映像を撮ってくれていたのがあるはず」


 私は自分のクリスタルから、ロルフ殿下の映像を探して王女に見せた。


「まあ、凛々しくて強そうなお方」

「そうです! お強いのです!

雷の精霊の加護持ちで、小さく愛らしい動物が好きなのに、そのせいか、怖がれてしまう所も、やや不憫で可愛いらしい気がするのです」


「まあ……でもグランジェルドの第二王子様が私など……」


「王太子殿下は少し前にご結婚されましたが、第二王子様なら、レイラ王女がグランジェルドに嫁ぐ気があるのなら、望みはあると思いますわ。

正妃の王子がお二人のみですから、こちらの王子を他国の婿にする為に連れて行くのは難しいでしょうが」


「……」


 レイラ王女はじいっとクリスタル内のロルフを見ている。

 ロルフは影があるタイプじゃない、あっけらかんとした快活系だけど、かなりの美形だ。

 脈はあるのでは?


「ギルバート様がライリーの温泉地に別荘をお持ちですし、私が頼めばロルフ殿下とレイラ王女を同時に招待して下さるでしょう。

別荘で茶会など開いていただけたら、二人でお話しも出来るでしょう?」


 お見合い婚活ティーパーティーだ!


「ギルバート殿下に……」

「私が頼みますので!」


 ギルバートが嫌そうな反応でも、招待してくれるまで私が頑張って説得する!


「でもロルフ殿下は隣国の姫が忘れられない状態だったら……」

「そこはレイラ王女殿下が頑張って、ロルフ殿下を攻略するのですよ!」

「は! そうでした……! 攻略!」


 ゲーム脳になってるので、この言い回しが効いたようだ。

 なんとか頑張ってリアルの恋愛を成就させてあげたいと思うのだった……。

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