第227話
「えー、皆さん、従来の課外授業では、学院から調理済みの食事を用意しておりましたが、昨今の魔王信者や魔物の出没状況等を鑑みて、今期からはこのように貴族の皆さんにも、生存力を上げる為、狩りや料理をしていただく事になりました。
いつ、いかなる状況でも、生き延びる事が出来るように、力をつけて下さい」
急にサバイバル能力が試されている。
でも私は前世でサバイバル動画が好きでよく見てたんだよね。
ところで、怯えていた令嬢には翼猫のアスランを撫でさせてみたら落ち着いた。
流石の癒し力。可愛いは正義。
私は土魔法で即席のキャンプ用カマドを作った後に、拾って来た木の枝をナイフで薄く削り、フェザースティックを作った。
「セレスティアナ様は木を削って何をされているのですか?」
「フェザースティックを作りました。
これがあれば着火剤が無くとも火起こしが楽になります。
キャンプや災害時にも役に立ちます。誰しも火の魔法が使える訳じゃないですし」
「火なら私が」
「毎回火魔法の使えるエイデンさんがいる訳ではないですが、今回はいるのでお願いします」
「はい」
エイデンさんはフェザースティックに魔法で小さな火を着けてくれた。
「わあ、薪に火がつきましたね」
令嬢達が火がついただけで、素直に感心してくれている。可愛い。
男性が何かしてくれる度、わあ! すごーい! などと言うと喜ぶ。
とかいった褒めと共感などのおすすめ発言を、前世で見た事がある気がする。
なるほどである。
「麻紐等があれば、それを解いて火口にしても良いのですよ」
「紐……」
「紐は持っていません」
「気にしないで下さい。麻紐を持ち歩く令嬢なんてあんまりいませんからね。
もしもの時の為に、覚えておけば良いと思って言っただけです」
私はインベントリに色々突っ込んでいるけど。
「ギルバート様の亜空間収納のあの、魔法陣の描いてある布って、お金を出せば買える物なのでしょうか?」
「あれは狩りで活躍した時のご褒美だったとおっしゃっていたような……」
「やはり、貴重な物ですよね」
「そうですね、でも冒険者の間でもダンジョンでごく稀に手に入る魔法の鞄も高額とは聞きましたが、オークションで買える事もあるらしいですよ」
「オークション! 私、行った事はありませんけど、気になってきました」
「オークションは私も昔から興味はあります。
親にまだ早いと止められましたが、高価な美術品や宝石はともかく、ダンジョン産のお宝は気になります」
「セレスティアナ、またよからぬ事を考えているのか?」
「いやですわ、ギルバート様。
貴族たるもの、オークションくらい行ってもおかしくはないでしょう?」
「貴族でも、行くのは大人になってからだな」
「はい……」
中身は私のが大人なはずなんだけどな〜。
*
私が即席土魔法で作ったカマドを囲って、解体作業を頑張ってくれた男子達が雑談をしている。
「はあ、解体作業って大変ですね」
「我々が普段食べている肉も誰かが解体してくれた肉だ、ありがたみが分かっただろう?」
「はい、でも臓物の量が凄かったですね」
「あの猪、巨体だったから」
「食欲が失せるから今、臓物の話はするな」
「はっ、申し訳ない」
「さて、網の上で肉を焼くぞ」
「あの、ギルバート様。私達、今からその魔獣のお肉を食べるのでしょうか?」
「マリッサ嬢、知らないかもしれないが、貴族の食卓にも魔獣肉とかは普通に出ているぞ」
「し、知りませんでした」
「美味しい物も多いのだ」
「まあ……」
「魔獣のお肉がどうしても辛ければパンもありますよ。
ただいつも私のような便利な人間がいるとも限りませんから、もしもの時用に慣れておいた方が良いのは確かです」
「は、はい。生き延びる為の力をつける授業ですよね」
「ギルバート様達が手ずから苦労して捌いて下さったのですから、頑張って食べます」
よし、えらいぞ。
猪肉か。
今既に網で焼いてるけど、お肉はいっぱいあるし、カレーにしちゃえば魔獣肉にやや抵抗あっても食べられるかも。
獣の匂いも誤魔化せる。
でも森の中でクラスメイトとカレー作って食べるとか、林間学校みたい。
これで皆でジャージ着て、同じ部屋で泊まりで夜に好きな人の話とかしたら完璧な流れ。
今回は日帰りだけど。
でも、ジャージは無いな。この世界。
ネグリジェでパジャマパーティーなら、家……城にお友達呼んだ時にワンチャン有るだろうけど。
……てゆーか、好きな人も何も、私の場合は既に婚約者だから、分かりきってるつーの!
あれは多分、好きな人がお互い誰かわかる前にするのが一番盛り上がるやつだよね。
……ま、いっか!
まだ同じ乙女ゲーム趣味の人と一緒にやる、お泊まりの萌え語りパジャマパーティーのチャンスは有るから!
「ギルバート様。そっちの網焼きの肉は玉ねぎソースでステーキとして食べて、後はカレー、いえ、カリーも作ってみましょうか?」
「そうだな、カリーなら令嬢も食べられるかもしれない」
そんな訳でステーキとカリーの二種類を作った。
ナンも添えて。
「あれ……美味しいですね……」
「本当、辛さも良い感じです」
令嬢達もなんだかんだとカリーをしっかり食べられた。
「私は玉ねぎソースでいただくステーキも美味しいと思います」
「塩胡椒も効いてるし」
「ああ」
令息達はステーキもカリーも美味しそうに食べた。
「スパイスの良い香りがしていますね」
匂いに釣られて教師が現れた。
周囲を見ると続々と水場の集合場所に鉱石を得た生徒達が着いたようだ。
選ぶ道が悪かったのか、時間がかかったのね。
よく見たら道中に仕留めたのか、うさぎや、鳥系魔獣を持ってる人もいた。
──あ、トカゲ系魔獣も持ってる人もいる。
あれ、洞窟内いて倒してたけど、美味しそうに見えなくてつい、スルーしてしまってたけど、実は美味しかったりするのかしら。
──とりあえず、先生にもワイルドボアのカリーをお裾分けしよう。
「先生も良ければどうぞ」
「ありがとうございます、ワミードで嗅いだ事の有る香りに惹かれてしまいました」
「ワミードの香辛料で作ったカリーですから」
「なるほど、やはり。……これは美味しいですね」
我々が食べ終えた後に、護衛騎士の皆さんにもカリーをあげた。
護衛は同じタイミングで食べられないのが辛い所。
──はっ、視線!
視線を感じて周囲を見渡すと、……またレイラ王女がやや離れた場所からこっちを見ていた。
でもカリーの匂いが気になるだけかもしれない。
もしくはギルバートの側に来たいけど、今はグループ行動中なので、耐えてるのか。
レイラ王女の方は……あちらはトカゲと鳥肉があるみたいね。
じゃあ大丈夫でしょう。
「トカゲとか絶対に無理ですわ! 私は鳥肉にして下さい!」
「わ、わたくしも!」
「そこの川に魚がいるのでは!?」
「水のスキルをお持ちの方! 手を貸して下さいませ!」
などと言う声も、あちこちから聞こえる。
わあわあと、大変賑やか。
鉱石の洞窟付近は鬱蒼とした森の中に有るんだなと思っていたけれど、今、我々がいる、川近くの風景は綺麗で、緑色の苔も沢山あり、神秘的で綺麗だ。
夏が近付く、春の森の川辺は瑞々しい命の息吹を感じる。
騒がしいキャンプだけど、これも学校行事なのだし、青春なのかな?
などと、私はポジティブに考えていた。
なにしろ、ギルバートの狩ってくれた猪のお肉で作ったカレーもステーキも、美味しくできたからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます