第226話

 中に入るとわりとすぐにトカゲ型の魔物がぞろぞろと出て来た。

「前衛! 出番ですよ!」


 女性陣が悲鳴を上げたが、前衛の男子生徒達が教師の声に素早く反応して倒して行く。


 前衛の男子は剣を持ってる子とツルハシを持っている子がいる。

 レイラ王女が同グループの男子の剣とツルハシに強化魔法をかけた。


「鉄を強化したわ! さあやっておしまいなさい!」

「ありがとうございます!」


 レイラ王女、エンチャント系のスキル持ちだったのか。


 ダレン王国はグランジェルドと同じく大国で、数年前までダレンの方が若干強かったかもしれないが、ダレンは近年、災害と疫病で大ダメージを受けたらしいので、最近はグランジェルドの方がやや強くなったと言われている。


 打撃は受けたが、レイラ王女はそもそも大国の王女らしく矜持は高そうだ。

 同国から令嬢の取り巻きも二人呼んで一緒に留学させている。 

 ダレンと交易の盛んなグランジェルドの領地の令嬢も一人、取り巻きのように側にいる。

 親の命令か本人の意思かは不明である。


 それにしても、教師と騎士は倒せと指示を出して自分達は魔物を軽くいなすだけで、まともに戦わない。


 前衛の男子生徒がピンチになったら動くスタイルらしい。

 これって男子の戦闘実習も兼ねているのか。


 少し進むと、道が四つに分かれていた。

 教師は好きな道を選べと言う。

 そんなアバウトで良いの?


 とりあえず、教師がそう言うならば、道の選択も授業の一部だと思ったので、人は迷ったり未知の道があると無意識に左を選ぼうとするらしいから、あえて私は右を選んだ。

 皆リーダーの私に素直に従ってくれた。


 右端の道を進む。

 確かに前世で過去にやってたRPGゲームのダンジョンでも、私は左から埋めて行こうとしてた気がするんだよ。


 少し奥に行くと、おそらく他の道を選んだ洞窟内から悲鳴が聞こえた。


「だ、大丈夫でしょうか!? 悲鳴が聞こえました!」

「この道、何故か教師も騎士もついて来ていません」


「教師は二人、本職の騎士も三人しか同行していないからな。

おそらくこの道はたいした魔物は出ないのだろう。

悲鳴も他所の道から聞こえるし」


「ただの虫が出ても女子は騒ぐだろうしな」

「違いない、あはは」


 そんな呑気な感じで洞窟を進むと、青白い光りを放つ水晶のような鉱石が沢山あって、正にお宝ゾーン出現!


「凄い! ここは大当たり!」

「大正解では!?」

「流石セレスティアナ様! やはり神に愛され導かれているんですね!」

「たまたまですよ」


 オタクな理由で導かれて来たとは言えない……。


 私はインベントリからツルハシを出して、体に強化魔法をかけて青白く輝く水晶みたいな鉱石をゲットすべく、掘削作業開始!


 ──しかし、その最中に突如、蛇!


「シャアアア!」

「きゃああ!」


 同じグループの女子が悲鳴を上げた。


 ザシュ! 

 疾風のような速さで現れ、蛇の魔物を剣で切り裂いたのは──!


「ギル様!?」

「大丈夫か!? セレスティアナ!?」


 あ! まだ他にも蛇が!


「穿て! ストーン・ランス!」

「くらえ!」


 ドシュ!

 ガガッ!!

 ガッ!


 鉱石の隙間から蛇系の魔物が出て、驚いた女子組が悲鳴を上げたけど、突如現れたギルバートと、私の土魔法の槍と、男子のツルハシ攻撃が刺さってスムーズに倒せた。


「ギルバート様達は、別の道を選んで行ったと思ってました」


「何故か皆、左に行きたがるから説得に多少時間がかかったが、

今回は教師の指示で我々の護衛騎士が全員洞窟の入り口付近で待機させられたからな。

どうしても其方のいる方に来たかった」


「駆けつけて下さって、ありがとうございます」

「うむ。綺麗な鉱石だ。私達も貰って行こう」

「はい! ギルバート様」

 

 ギルバートチームの者も同意したので、早速ギルバートがインベントリからいくつかのツルハシを出して配った。


 このチームは亜空間収納の使える魔法の布を持っているギルバートがいたので、手荷物にツルハシを持つ必要が無く、前衛の男子達は剣を持っていたっぽい。

 私も気を利かせてあげれば良かったかな。

 ツルハシもモップもいざとなったら武器になると思い込んでいたもんで……。


 ギルバートグループの人達もツルハシを手に掘削を始めた。


「見てるだけじゃ暇ですし、私達ももう少し鉱石を貰って行く?」

「そうですね、せっかく綺麗ですし、ワンド制作で失敗した時用に、少し多めに持っておいても良いかもしれません」

「まだ、沢山有りますし、少しだけにしろとは言われていませんね」


 せっかくなのでもう少し貰って行った。



「この辺でいいだろう、そろそろ出るか」


 入れ違いで違うグループの人達が来た。

 彼等の様子を見たら、多少服を汚したりはしてるけど、怪我も擦り傷くらいだった。

 うん、重症者は特にいないようだ。


「わあ! こっちが当たりだったんだ」

「綺麗〜」

「あの道行こうって言った人、責任持って掘削頑張って下さい」

「わ、分かりましたよ」


「お先に失礼します」

「頑張って下さいませ」

「お疲れ様ですー」


 私達は掘削をはじめたグループに声をかけ、来た道へぞろぞろと戻る。


「ほら〜、セレスティアナ様について行こうって、私言いましたのに」

「ギルバート様もおられるな」

「今更言ってもしょうがないでしょう」


 やいのやいの言う声が背後から聞こえたけど、先に終えたグループは食事をして良いらしいし、早めに休憩場所に行こうと思う。



 我々は来た道を戻り……明かりが見えた! 出口!


「我が君! お怪我はありませんか?」

「大丈夫よ、ラナン。無傷だから」


 洞窟前で待っててくれたラナンと合流した。

 小さくなっているアスランとブルーをカゴに入れて抱えて待っていて、リナルドはラナンの肩に乗っていた。


「ギルバート様、お帰りなさいませ。鉱石は見つかりましたか?」


 ギルバートの側近のエイデンさんも入り口付近で待っていたようだ。


「おおエイデン、当然持ち帰ったぞ。キャンプ地は見ておいたか?」

「はい。あちらの方向に川が有り、その付近が集合場所らしいですよ」

「そうか、じゃあそちらに行くか。セレスティアナも一緒に行こう」

「別グループと合流するなとは言われていませんから、そうしましょう」


 入り口近くに待機していた教員に川方面に行くと告げて、我々は移動した。

 川に行く途中でワイルドボアに遭遇した。


「ブゴオオ───ッ!!」


 猛々しい雄叫びと共に突進してくる猪だったが、素早いギルバートの一閃で猪の巨体が跳ね飛び、背後の木にぶつかった。


 ギルバートは更に素早く猪に駆け寄り、止めを刺し、血抜きを行う。


 やだ、私の彼氏歴戦のハンターみたい! 強い!

 かっこいい!

 パチパチと思わず拍手をしてしまったほどだ。


 周りの男子も思わず釣られて拍手していたが、女子が二人、腰を抜かしてへたり込んでしまった。

 気絶しないだけ、マシかな。


「オリビア嬢、大丈夫ですか?」

「は、はい、ちょっと足が……」


 私は産まれたての子鹿のように足が震えているオリビアに声をかけ、体を支えた。

 もう一人令嬢の方は、ギルバートが側近に指示を出した。


「エイデン、抱えてやれ」

「はっ、体に触れる事をお許し下さい、レディ」

「も、申し訳ありません。エイデン卿、ありがとうございます」


「早速ランチの食材が手に入りましたね」


 そろそろお昼なのである。


「ああ。誰か、解体に手を貸してくれ、木に吊るす」

「ええ!?」

「はい」


 ギルバートが男子達の方を向いて解体作業の手伝いを希望したが、騎士コースの子は素直だけど、一部の貴族の子息がヘタレた声を出す。


「私がお手伝いします」

「ラナン嬢、ありがとう」

「ギルバート様、そういう汚れ仕事は付き添いの教師か騎士がやってくれるのでは?

手や服が汚れてしまいませんか?」


「さっき血抜きはした。貴族は戦争に行く事もあるのに、この程度の事で何を言っているのだ」

「は、はい。あの、私は文官志望で……」


「やれやれ、其方は肉を食べなくて良いんだな?」

「う、て、手伝います……」


 私はインベントリからピクニックシート代わりの布を出して敷き、キャンプ用の水樽も出した。


「私は今から薪用の枝を拾って来ます」


 ヒュンとリナルドが私の元に飛んで来て、肩に止まった。

 アスランも素早く駆け寄って来た。


「ラナン嬢! 私が猪の解体を手伝いますので、セレスティアナ様の護衛に」

「分かりました、よろしくお願いします」


 ラナンがこちらに来たのでブルーも来た。


「セ、セレスティアナ様……」


「恐怖でしばらくまともに動けないでしょうし、森の中は先程のように何が出るか分かりません。

危険なので貴女達はそこで休んでいて良いですよ。

ここにコップやお水、お皿とかも置いて行きます」


「申し訳ありません、ありがとうございます」


 レディには優しく。である。


 それにしても普通の令嬢というものは繊細なんだな。

 私が特殊なのか。

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