第225話

 レイラ王女の贈ってくれた椿は、指定した畑から一番近い転移陣のある教会を使って、荷車で運んでくれた。

 椿の苗木は無事にライリーに届き、樹木の扱いに詳しい農民が畑に植え付けてくれた。


 あとは、すくすく育ってくれるのを待つ。

 早く油が欲しい場合は、一部だけポーションで育成を早めてみるかな。

 でも、とりあえずは保留。



 * *


 今日のランチタイムのお弁当はギルバートと一緒に学院のガゼボで食べる事に。

 まだ春のお花が咲いてるし、天気も良い。


 お弁当の中身はツナマヨおにぎりと豆ご飯で作ったおにぎり。

 フキの煮物とセリと椎茸とワカメのお吸い物。

 かなり和に寄っている。


「ツナマヨ美味いな」

「ツナマヨは若者に人気なので、そんな気がしました」


「甘辛いフキの煮物も美味しいぞ」

「それは大人に人気の味です」

「俺は大人なので」


 ふふっ。


「ところで、明日の授業はワンド作りの為の素材収集の課外授業で、洞窟に行くらしいですね。

洞窟っていかにも冒険っぽくて、ドキドキします。

綺麗な鉱石が見つかると良いのですが」


「俺も当然一緒に行くが、油断するなよ。

凄く強いのはいないらしいが魔物も出る所だから」


「はい。そう言えば演劇、殿下はヒーロー役でライバル役の私とは絡みがそこそこ多いですね。城に戻ったら台詞の読み合わせをやりましょうか?」


「練習はかまわないが、誰も止めてくれないないから、俺がヒーロー役に決定してしまった。

せめて其方がヒロインのメアリー姫だったらな」


「でも私は、悪役が楽しみですよ」


「悪役が楽しみだって? 何故だ?」

「普段言えないようなセリフも言えますし、騎士役はドラマチックでは」


 前世で声優さんも悪役は楽しいって言ってた気がする。


「そうか? しかし、其方が……死ぬ役なんて」

「あはは。ただの演劇の配役じゃ無いですか〜」


 私は心配いらない、気にし過ぎだと笑ってみせた。


「はあ……其方は楽しそうだな……ニコニコして……可愛い」

「!?」


「癒されたいから、ほっぺに触ってもいいか?」


 え!?


「ここは学校なので無理です!」

「そうか……」


 びっくりした! 急に何を言い出すやら。

 湯上がり卵肌の頬擦り、柔らかほっぺの感触がよほど良かったとか?


 でもね、頬に触るとねー、角度によってはキスしてるように見えるから、知ってるから!

 少女漫画でよく見る誤解されるシーンだわ。


 神聖な学舎でふしだらって陰口言われかねないから、学院内は油断できないのよ。

 柱や壁の後ろから見てる人間がいるかもしれない。

 そして私は周囲を見回す。


 あ!


 いる──! いたわ、本当に!

 木の後ろに、黒髪ロングウェーブヘアの半分くらいがはみ出ているわ!

 あれ、レイラ王女でしょ!?

 危ない、危ない。


 てゆーか、あんなとこから何故コソコソ見てるの?

 隠れるにしても木からはみ出てるし、ギャグ?

 王女の取り巻きにいたっては後方に控えていて、丸見えですし。


「レイラ王女が木に隠れて、こっちを見ていますよ」

「俺たちは食事をしてるだけだから、別に」


「もー、さっき止めなかったら、無防備に私の顔を触るつもりだったでしょう。

角度によってはキスしてるように見えて危険なんです」


「ここが学院だからいけないんだな……」


 何やら家に帰れば触っても良いのだろう? 的な響きなんだけど……。

 話を変えよう。


「午後から、洞窟散策のグループ分けですよ」

「俺は当然其方と一緒のグループに入るぞ」


「仲良しで四人組作って〜とかではなく、くじだったらどうします?」


「まさか、クジだなんてそんな……スキルの被らない者と組ませるべきだろう。

魔物も出るのに。パーティーのバランスは大事だ。

万が一クジ引きとかだったら俺は教師に抗議する」


 そこで昼休み終了を告げる鐘が鳴った。


 そしてグループ分けの時間、教師が教卓で指示を出す。


「魔法の実力テスト上位から先に選んで、グループリーダーとして、ばらけて貰います」


 !!

 そう来たか……。


 パワーバランスを考慮して、ギルバートと私は別のグループになった。

 どっちも上位組だったので……。


 でも、レイラ姫とギルバートも違うグループだから、そこはセーフかな。

 それと、リーバイ子爵令嬢のオリビア嬢が私とグループが一緒なのは嬉しい。


「セレスティアナ嬢が一緒で心強いです。よろしくお願いしますね」

「ええ、私もオリビア嬢と一緒で嬉しいわ」


「何故一緒になれないのか……俺はセレスティアナのガーディアンなのに。

学院の教師、おかしいだろ」


「これは学院の授業ですし、教師が安全の為に実力で振り分けたので……仕方ないですよ」


 殿下は魔力の弱い人達のお守りでリーダーポジションだ。

 私は別グループなった事を不満気にするギルバートを宥めたりした。


 学院からライリーに戻って、私はギルバートにほっぺをなでなでされた。

 そんなに私のほっぺに触りたいなんて……、赤ちゃんのほっぺ並に魅惑的なのかしら?

 まあ、同じグループになれなかったイライラは静まったようでよかった。


 * *


 翌日


 素材狩りに洞窟へ出発。


 森の中に有る洞窟。

 そこまでは高価な転移魔法を封じ込めた移動用スクロールで行ったので一瞬だった。

 流石に貴族のお嬢様もいるのに森をいっぱい歩けとは言えないか。


 我々はぽっかり空いた洞窟の入り口前に集合していた。

 前衛には男性陣。


 奥は暗くて見えない。


「洞窟……怖いですね」


 オリビアがビビりながら私のマントの裾を掴んでいて可愛い。


「こういう洞窟って大抵コウモリの寝床ではないでしょうか」

「ええ!? やめて下さい、セレスティアナ嬢、怖いです!」


「わ──っ!!」


 急に上げられた教師の大きな声につられ、びっくりした女性達が悲鳴をあげた。


「「きゃ──っ!!」」


 すると、洞窟から一斉に沢山のコウモリが音に驚いたのか、飛び出して来た。


「「きゃあああああっ!!」」


 更なる女性達の絶叫が周囲に響く。


「えー、さっきのは、コウモリを追払う為の大声でした!」


 教師がしれっとした顔でそんな事を言う。

 こやつ、なかなかの食わせ者。


「先に言って下さいよ! 驚くでしょう!」


 半ギレの女性陣が抗議しているが、教師はまたもしれっと言い返す。


「あの悲鳴もコウモリを追い出すのに役に立つので」


「落ち着いて、オリビア嬢。あれはただのコウモリでしたよ」


 私は震えてるオリビア嬢に声をかけた。


「十分怖いのですけど! 何でセレスティアナ嬢は冷静なのですか?」

「何が来るか分かっていれば、ある程度は大丈夫です。

ですが急に飛び出て来たのが虫だったら、私でも悲鳴を上げていたでしょう」


「コウモリが平気で虫はダメなんですか?」

「虫みたいに感情の分かりにくいのは苦手ですね。

魔物と違うやつだと攻撃して良いのかも一瞬迷いますし」


「セレスティアナ! 大丈夫だったか?」

「ギルバート様、コウモリが上空を飛び去っただけなので大丈夫です」


 私を心配して、後方に来てくれたようだ。


「ギルバート様ぁ! とっても怖かったですわ!」


 何故か私を差し置いてレイラ王女がギルバートの腕にしがみついて来た。


「……レイラ殿下、貴方のグループはあちらです」


 ギルバートが離れた所にいるグループの方向を指さした。


「ギルバート様もこちらのグループではないではないですか」

「私はセレスティアナ嬢のガーディアンなので」

「狡いですわ」


「いや、別に狡くは……王命ですし」

「私と親しくした方が、演劇の役作りにもなると思いませんか?」


 レイラ王女はめげずに食い下がっている。なかなかのガッツだ。


「それは……本番で何とか致しますよ」

「レイラ王女殿下……」


 私は勤めて冷静に声をかけた。


「な、何ですか? セレスティアナ嬢」

「戦闘を担当する人の腕は空けておいて下さい。手や腕を掴まないように」


「ひ、左腕ですわ、利き腕は空けています」

「腰の武器は片手剣では有りません」

「……」


 レイラ王女はあからさまにムッとした顔になった。

 おやおや? どうやらあのカメリアは友好の証では無かったようだ。

 まあ、せっかく貰ったのであれは返さないけど。


「レイラ姫、ここは」


 取り巻きも流石に姫を諌めるように声をかけた。


「わ、分かったわよ」


 微妙な感じになってしまったけれど、入り口で揉めてる場合では無い。

 我々はこれから実習で洞窟内に入る事になる。


「先頭としんがりには教師と騎士がおります。皆様、冷静に、洞窟内に入って下さい」


 教師が灯りを灯したワンドを手に前進した。


 指示に従い、我々も灯りを灯し、暗い洞窟内へと足を踏み出した。

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