第224話

 男装メイクのために、可愛い系の自分の顔をキリっと凛々しい系にしたい。


 前世ではコスプレイヤーの男装メイクじゃテープなんかも使って目つき変化出来たんだけど、肌に貼っても安全な接着剤のついたテープがなあ……どっかに無いかな?


「リナルドー、水や石鹸で洗えば綺麗に落ちる安全で肌に悪くない、かぶれたりしない接着剤のような物を知らない?」


『リーンベルフラワーという花があって、その花の蜜のみを集める特殊なリーンズ蜂てのがいるんだけど、その蜂の集める蜜とスライムラップを組み合わせてみたら?』


 ワオ! この世界特有の花と虫みたいだけど、材料集めて作れば良いのね!


「有力情報をありがとう! その特殊な蜂蜜って流通してる?」


『商業ギルドか冒険者ギルドに問い合わせてみたら?』

「うーん、あ! そうだ! ちょっと物知りなアシェルさんに聞いてくる!」


 私はそう言って、自室を飛び出して行った。


 アシェルさんのお部屋に行ってみたら、ちょうど旅から戻ったばかりだったみたい。


 お風呂上がりで、まだ髪が少し濡れていたので、流石エルフ! 

 綺麗な髪だわーとか思いつつ、エアリアルステッキで髪を乾かしてあげながら、話を切り出した。


「リーンズ蜂の蜜?

持ってるよ。ちょっとした緊急時の物の補修に使う事が有るから」


 わあ! 流石!


「少しだけ買い取らせて貰える?」

「あげるよ」

「良いの? アシェルさん、ありがとう!」


 ゲット! ちょうどアシェルさんが帰って来ている時で良かった!


「て、それはともかく、ティア、婚約決まったんだってね。おめでとう。

ちょうど婚約式あたりに指名依頼が入ってて参加出来なかった」


「ありがとう」

「これも婚約祝いにあげるよ」

「……これは……綺麗ね。ロンデルやジョイントパーツ?」


 アシェルさんがインベントリから取り出して見せてくれた瓶には、綺麗な金属で出来たアクセサリーパーツがいっぱい詰まっていた。


「そう。

ほら、ブレスレットとか作ってくれたし、アクセサリーパーツとか好きなんじゃ無いかって」


「大好き! キラキラしててとても綺麗! ありがとう」

「ああ。テーブルの上に置いておくから、帰り際に持って行くといい」

「うん!」


 さすが、付き合いが長いので私の好みをよく分かっている。


 私は上機嫌でアシェルさんのサラサラの綺麗な金髪を一房ほど手のひらに乗せ、キスをした。

 もう一度、「本当にありがとう」と、感謝も伝えて。


 アシェルさんは私の行動に驚いてポカンとしてた。

 まあ、普通は男性が女性にするやつだものね。


 私はテーブルの上の蜂蜜の小瓶とアクセサリーパーツの瓶を抱えて、

 固まったままのアシェルさんを置いて部屋を出て、工房に向かった。


 *


 早速スライムラップとリーンズ蜂の蜜でテープを作った。

 カチューシャで邪魔にならないように前髪を上げて、スラ蜂蜜テープを目尻を釣り上げるように引っ張って貼る。


 キリリとした目つきにしてみた。


「……わりとイケるのでは?」


 メイク道具も出した。


「さらに、眉もやや太く描いて……」


 服も男性的な騎士服に着替える。


 鏡を見てみた。

 うん、男装のコスプレイヤーみたくなった。

 後は踵の高いブーツを用意して、身長を嵩増ししよう。


 そういえばアニメの男性キャラでも何故かハイヒール履いてるセクシーな足元イケメンがいたなぁ。

 ハイヒールもありかも、男性も昔は履いてたんだもん。


 かのルイ14世とかも身長高く見せたいからハイヒールを履いてたってネットで昔読んだし。

 男性のハイヒールは戦場で走るのに向いてなくて機能重視になり、廃れたんだっけか。


 とりあえず感想を聞いてみよう。

 工房の窓際で作業を静かに見守ってくれていた妖精に。


「どう? リナルド、私、男に見える?」

『うん、すごいメイク技術だね。それなら美少年に見える』


 やったね!


「よーし、顔洗お!」


 洗面台で顔を洗ってメイクを落とした。


『あんなにしっかりメイクしたのに、他の人には見せないの?』

「まだ、皆には後でびっくりさせたいから、靴とかも用意出来てからね!」

『完璧主義かな? 別にいいけど』


 私はインベントリからお礼のいちごを取り出した。

 それをリナルドにあげて、人差し指で小さくて可愛い頭を撫でた。


 そして執事に頼んで男性風でありながらも踵の高い靴を靴屋に発注して貰った。


 *


 翌日、学院に行くとダレン王国のレイラ王女が何故か婚約のお祝いをくれた。


 しかも、くれた物というのが、カメリア! 椿の苗木が20鉢分も!

 椿は綺麗だし、椿の油は髪にも良いから、とても嬉しい!


「カメリアの苗木を私に下さるのですか? 嬉しいです。

レイラ王女殿下、ありがとうございます!」


 私は満面の笑みでお礼を言った。

 レイラ王女も笑顔だった。

 先日の不満気オーラは何だったのだろうか?

 はて? 気のせいだったのかしら。




 〜 (ダレン王国レイラ王女視点) 〜


 ライリーのセレスティアナ。無邪気にカメリアの苗木を貰って喜んでいたわね。


 あの花は確かに見た目は美しいわ。


 けれど、首からボトリと落ちる花なので実は婚約の贈り物には不吉で向かない花よ。

 遠回しな嫌がらせにも全く気がつかないなんて、愚かな女ね。

 あまりにも嬉し気にしてるから、私も思わず笑えたわ。


 あの女、顔が可愛いからって、ギルバート殿下に優しくされて、調子に乗り過ぎなのよ。


 学院の文化祭の演劇もガイウスという男役、しかもヒーローのローラン役のギルバート様とは恋のライバルで、最後には死ぬ役を推薦してやったわ。

 ザマをみなさい。


 ギルバート殿下と恋仲になる姫の役は私よ。

 ふふふ、きっと内心悔しがっている事でしょう。


「あっはははは!!」


 笑いが止まらないとはこの事ね!


「レイラ殿下、台本です」


 侍女の一人が配布された代本を渡して来たので受け取って開いてみた。


「セリフを覚えるのは面倒だけど、仕方ないわね……」


 パラパラとページをめくってセリフを確認……。

 ……多いわね。


「殿下? どうかなさいましたか?」

「小さな字で紙に書いてちょうだい。袖の中に隠せるように」

「は、はい」


「私はヒロイン役のメアリー姫でセリフがとても多いのよ! 

人前でセリフを忘れて恥をかくわけにはいかないでしょう?」


「はい、ごもっともでございます」


 侍女は慌てて作業にかかる。


「みてなさい、演劇の練習中からもギルバート殿下と距離をつめるわ」


「あ、あの、レイラ殿下、ギルバート殿下は婚約したばかりで、もうレイラ様の結婚相手として望むのは、無理では……」


 侍女その二が空気を読めない発言をした。


「何を言っているの、まだ結婚ではなく、婚約状態よ、破棄できるでしょう」

「ですが、レイラ殿下の方から婚約お祝いにお花もお贈りしましたのに」


「首から落ちるカメリアよ! いくらなんでも、そのうち遠回しな嫌味だったと気がつくでしょう?

あの美しい王子に相応しいのはダレンの王女たる私の方なのですから!」


「でも、あの方、正妃の子では無いのでグランジェルドで王位継承権は無いと……」


「ダレンに来て貰う予定なのだから、あちらの継承権とかどうでも良いのよ。

それにエメラルド鉱山も持っていて、壊血病で苦しむ者達の救世主になった方で平民の評価が高い。

何より、顔が良いわ! 小麦色の肌もセクシーだし」


「そう言えば最近、ガーディアンの称号もいただいたとか」

「聖騎士に命令出来るならかなりのものですね」


 侍女達が思い出したように最新情報を口にした。


「そうよ、しかも王族でも精霊の加護のスキルは一つが多いのに、水と風の二つもお持ちなのよ。有能よ」


 私はきっとギルバート殿下に、ライリーのセレスティアナと婚約破棄して貰って、私と結婚して貰うのだわ。


 どうせ私も第五王女で王位継承権など無いに等しいけれど、結婚くらい好みの王子様としたいもの。

 どうでもいい国の何歳も年上のジジイの後妻や側妃なんか嫌だもの。


 そう、なんとしても、あの女からギルバート殿下を奪い取ってやるわ……。

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