第222話
ピルルル。
可愛いらしい小鳥の鳴く春の朝。
使用人が搾りたてのミルクや、産みたて卵を抱えて城へ入って来る。
いつものようにのどかな朝。
王都から戻った殿下は婚約指輪を携えてお父様に、私と婚約したいと申し込みに挑んだ。
頑張ったね!
お父様もついに来るべき時が来たか……と、諦めの境地といった感じだった。
お母様は女神のような微笑みで祝福して下さった。
指輪は二つのエメラルドの真ん中にパライバトルマリンが嵌め込まれた物だった。
青と緑が混ざったような美しい海の色のパライバトルマリンは、私の好きな色の石だ。
私の好みがちゃんと反映されている。
左手薬指のダイヤの指輪に、重ねて着けて貰った。
後日お祝いでライリーの城内でパーティーをする事になった。
その前に殿下達は再び転移陣にて、王都へ無事に婚約承諾されたと報告に行った。
その後、殿下がまた戻って来た。
王家からの婚約祝いは急だったので物が間に合わず、大量の金貨と絹などの美しい布地以外は、先に目録だけ来た。
魔道具クリスタル板型30納品予定! やった!
お父様からのお祝いは、ライリーが広いものだから、温泉地のあるラサトゥルニアーナを領地分割して殿下にあげるんだって。
転移陣が殿下の別荘にあるからちょうどいいだろうと。
自分の所は今は他の畑もまともに収穫あるし、砂糖とチョコ瓢箪の畑も有るから収入源は大丈夫だとか。
なお、ラサトゥルニアーナにも畑を用意し、瓢箪の砂糖とチョコは株分けして植えるし、固めて使う樹液が採れる光る木も挿木で増やす予定。
私は以前とデザインを変えたラピスラズリの生地で、蒼いドレスを着て婚約パーティーに出た。
ドレスの装飾はゴールド。
お母様のご実家の家族もお祝いに来て下さったし、お母様の新しい侍女兼護衛さんも来てくれて良かった。
各地で魔物被害が出てるから、安全面を考えて身内だけの小規模なパーティー。
けれど、集まってるメンツが美形率高くて華やかで素敵なパーティーだった。
* *
後日、皆で転移陣にて温泉地にも移動してまったり。
もちろん城の守りに必要な人数は残してだけど……。
ライリーの城で留守番の騎士達、ごめんね。
*
昼には温泉地のギルバート殿下の別荘に着いて、花壇に植えられた花を見ながら、私と殿下は二人並んで歩いていた。
護衛騎士達は少し離れた所を歩いているし、両親達は別荘の貴賓室でひと休み中。
「ギルバート殿下。
成人のお祝いの時にお贈りしたスプリング入りのベッドと、水鳥の羽根で作った羽毛布団はどうでした?」
今更ながら使用感、感想など聞いてみた。
「家具や寝具はとても良かった。改めて其方に感謝を。
ところで……もうギルバート殿下ではなく、婚約者として親しげに違う呼び方で呼んでくれ。
ギルかギルバートの二択だ」
う……っ! 突然の名前呼びイベント!
「ギ……ギル……ギルバート」
「セレスティアナ。名前を呼ぶだけで顔が真っ赤だぞ」
「さ、さっき唐辛子を齧ったので!」
「ふ、ははっ! そんな言い訳があるか?」
「……」
あるじゃないですか! ここに!
「じゃあ今キスしたら辛いのか?」
「辛いので今はしません! 温泉に入ってきます!」
私は恥ずかしくて逃げ出した。
*
お母様とお婆様と叔母と一緒に、水着を着て温かい温泉の湯に浸かった。
水着は着てるけど今日は女湯だ。
お婆様は水着に恥ずかしがっていたが、温泉は体に良いとか言って何とか説き伏せた。
シルヴィアお母様は今も変わらず女神の入浴のようで美しい……。
昼の陽射しの中で、夜より視界が良い。
見てるだけで寿命が延びそう。
今頃、男湯ではお父様とギルバートが一緒に入っていると思うけど、どんな顔をしているのかな?
メンタルが鍛えられているかもしれない。
女湯は平和そのものだ。
そして私は温泉にゆっくり浸かった後に、サロンでまったりしていた。
お母様とお父様達は温泉街をぶらつい……もとい、散策中。
春の花も咲いているから、いいデートになるでしょうね。
「湯上がり卵肌〜♪ 」
「……」
ギルバートが何か言いた気に、こちらをじっと見ている……。
うん……? どうしました? 男湯で気疲れしました?
「はっ、もしや!」
「膝に乗ってくれると以前、体が入れ替わった時に言ったな?」
え!? その話!? 男湯で気疲れした分、癒しを求めているの!?
「……覚えていましたか……」
「膝に乗せられて忘れる訳がないだろう? 交換条件だったはずだ」
「仕方ないですね」
お膝に乗ってあげた。
「こんな所を人に見られたらどうするんですか?」
「サロンの扉前で側近が見張ってくれている」
「私の護衛はすぐそこにいますけど」
ラナンは窓の前で静かに外を見ている。
こちらを見ないようにしてくれている……。
「良い子だから、窓の外を見ているな」
む──!
……どうにかして主導権を握りたい!
よし! 今の湯上がり卵肌で頬擦りでもくらえ!
私は体の向きを変えて、ギルバートの頬に頬擦りした。
すりすり……!
「……!!」
「ふふ……」
よし! びっくりして固まった! 勝利よ!
「以前、其方が辺境伯に同じ事をしてて羨ましかったんだよな。念願叶った」
ギルバートはそう言って、良すぎる顔で、本当に嬉しそうに笑った。
「……なっ!」
よ、喜ばせただけだった!!
敗北!
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