第221話
〜 (ギルバート殿下視点) 〜
王城のサロンにて家族が揃っていた。
とはいえ、他の兄妹と違い、俺だけ王妃の子では無いので居心地が悪い。
姉上も社交シーズンである為、しばらく王都の公爵家の屋敷に滞在しているし、王城にもよく顔を出していて、今日もいた。
そして今は、俺は王にセレスティアナと婚約するという報告の最中だった。
「なんと、ようやく婚約にこぎつけたと!? 一体、どうやって射止めたのだ?」
妖精の悪戯で肉体入れ替わり中に着替えとかを彼女が自分でした為、俺の裸などを見てしまった。
その責任を取ると言われたとは……言えない!
「一緒に外出とかをした時、彼女のテントに花を飾ったりしたのが嬉しかったとか……こう、色々大事にして来たので、積み重ねだと思います」
「なるほど、長く尽くして来たのが、ようやく実ったのか」
王はそう言って嬉しそうに、自分の白く立派な髭を撫でた。
最大のきっかけは伏せたが、ほぼ間違ってはいないはずなので、一応頷いておいた。
「彼女本人から指輪を頂きましたが、まだ、こちらの指輪の用意ができていませんので、辺境伯には話していません」
「は!? 先に女性から指輪を?」
「彼女は突然、人を驚かせるような事をするので……」
「つまりまだ、辺境伯の許しは貰っていないのね?」
「はい……」
王妃の言葉が俺の心に突き刺さるが、多分大丈夫なはず……。
「まあ、辺境伯は娘を溺愛しているのだろうから、娘自身が望む婚姻なら反対はしないのではないか?」
「辺境伯には、私は特に嫌われてはいなかったはずですから、おそらく大丈夫かと。
一緒にソリにも乗りましたし」
「ソリだと!?」
「草スキーと言う遊びです。
草の上をソリで一緒に滑りました。私が成人前の子供の頃の話なのですが」
「知らないうちに、親である余よりも辺境伯と、そのように仲の良さそうな遊びを……」
「国王陛下が草の上をソリで滑るとか、ありえないでしょう」
確かに王が草スキーする姿を想像すると、絵面が面白過ぎてダメだ。
「むう……」
王妃の冷静なツッコミ! 反論は王でも無理だったようだ。
「あら……、辺境伯って随分と子供のように無邪気な事をなさるのね?
平民時代の遊びかしら」
姉上にそんな事を言われてしまうとは……迂闊だった。
「……良い丘があったから、うっかり童心に帰ってしまったのでしょう。
瘴気の影響が消え、美しい草原が蘇っている喜びもあったでしょうし」
言えない、実はセレスティアナが初めにやりたがったから、付き合いで一緒に遊んでたとは……!
令嬢らしからぬ行動! おてんばすぎる!
だがそんな無邪気な所も俺は可愛いと思う!
「ああ、そういえば、瘴気で荒地だらけになっていたのだったわね」
「なるほど、よほど嬉しかったのでしょう」
女性陣二人が納得してくれたので、俺は内心ほっとした。
「コホン。婚約が正式になったら、ギルバート、其方にガーディアンの称号を与える」
王が急に真面目な顔になって、俺に称号を……。
「ガーディアン……守護者でございますか?」
通常の貴族の護衛騎士より上位の……存在だったような。
竜騎士より上位の聖騎士にすら命令が出来る。
「聖女、勇者、貴人などの選ばれし者を守護する者。
国から、王から選ばれた守り手だ。
聖女認定はされてはおらぬが、貴重な浄化能力者の守り手となるのだ」
「つまりライリー所属ではなく、王国所属のまま、彼女の側にと?」
「両方だ。所属は国とライリーの両方ともあった方が権力も使えて都合が良かろう」
「……私は別にライリー所属の騎士の肩書きだけで良いのですが」
「其方は余の息子でも有るのを忘れないで欲しいのだが」
「こうでもしないと、王族の一員として、面目が立たないでしょう」
正直、王族から降りて、ただの貴族の夫となりたい気はするが、セレスティアナは俺と入れ替わった時、王族のみ入れる図書館に潜り込んでいたし、王族特権が多少なりとも残っていた方がいいのか……。
彼女の為に。
なにより、王妃にまでそう言われたら、条件をのむしかないか。
「承知致しました」
「それで、ギルバートから贈る婚約指輪はいつ出来るの?」
「それは職人次第かと」
「そう、とりあえず私達からもお祝いを用意しないと。何がいいかしら?
ギルバート、貴方、令嬢から何か欲しい物があるとか聞いていて?」
姉上の言葉に他の家族も頷いている。
「……珍しい植物や生き物、美味しい食べ物ならだいたい喜びますよ。
金魚や鯉でも喜ぶくらいですし」
「そう言えば、食べ物をあげたらさらに美味しくしてくれる可能性があるのよね……」
「では、果物とか?」
「そんな食べたら消える物より、宝石か魔道具で良いのではないですか?
ロルフの記録のクリスタルをとても喜んでいたそうですし」
流石王太子、しっかり点数が稼げそうな事を覚えていたな。
「あ! クリスタルで思い出したけど! ライリーから発売された乙女ゲームが面白かったの!」
あの乙女ゲームをやったのか! 姉上まで!
「入手困難だったらしいのに、よく手に入れましたね」
「公爵家の権力を持ってすれば、なんとかなるわ。私は常に新しい流行には敏感なのよ」
「乙女ゲームって?」
ロルフ! 頼むからライリー関連に興味を持つな!
「乙女ゲームと言うもので、女性が遊ぶゲームなの。貴族の令嬢の間で大人気で」
「へえ〜。 そのゲーム、ギルバートはやったのか?」
うっ!!
それは確かに、ライリー産だし、俺は例のクリスタルを自作の宝珠と交換したから持っているし、セレスティアナが貴族の令嬢達とあれの話題で楽しそうにしていたから、どんな男を好むのかとか、参考までに、やってしまったけれど……。
「……第五王子とのシナリオだけは気に入りましたよ」
「じゃあギルバートもやったのね!
と言うか、あの第五王子のモデルって貴方じゃないの!?
市場でお忍び中に出会っているじゃないの!」
「知りませんけど!
お忍びで市井散策くらい、色んな王族がしているのを小説などでいくつか読みましたし」
「そうかしら〜? 他ならぬライリーから出てるゲームじゃない?」
姉はニヤニヤと笑ってこちらを見て来る。
ここから今すぐ逃げよう!
「そろそろやる事が溜まっているので、これにて報告を終わらせていただきます」
「え、今、面白そうな話だったのに」
「ロルフは若い令嬢達の遊びに興味を持つより、早く婚約者を選びなさい。
選り好みをし過ぎでしょう」
「う! 母上、俺はまだ失恋の傷が癒やされてなくてですね」
「まず、平民ではないのですから、俺とか言う言葉使いもやめなさい」
「はい……」
王妃のロルフへのお小言が始まったので、俺はその隙に離脱した。
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