第220話
〜 (ギルバート殿下サイド) 〜
「実は中身が年上なので甘えても良いですよ?」
「……な!? 肉体年齢は俺が上だが!」
「ふむ……。では、逆に甘えて差し上げましょう。その気になった時に」
「そ、その気になった時とは?」
「それは、その時にならないとまだ分かりません」
クスクスと笑って、セレスティアナは「おやすみなさい」と言って部屋に戻った。
あ、あの小悪魔……! 可愛いけど!
とにかくこちらからも指輪を用意する!
おやすみなさいと言われたが、こっちは寝れない! 寝てる場合じゃない!
まだ13歳なので成長を考えて、俺の用意する指輪もフリーサイズになる物が良いかもしれない。
すぐに王都に戻ってうちの鉱山のエメラルドの他に、彼女の好きなパライバトルマリンも使って指輪を作らせよう。
大きな石にすると重ね着けしにくい気がするから小さめの石を三つ並べて……。
夜中に側近を叩き起こす羽目になって申し訳ないが、とりあえずエイデンを起こす。
「夜中にすまないが、急いで王都に戻って婚約用の指輪を用意する!」
「え、ついにセレスティアナ嬢に婚約の申し込みを!?」
「先にされた!」
「え!? お、おめでとう……ございます!?」
「ちょっと悔しいが、両思いだったので、ヨシとする!」
「では、王にも連絡を」
「──と、それもあったか」
「いや、何をおっしゃる! 最優先で報告でしょう!」
バタン!
急に扉を開けて来たのはエイデンの隣の部屋のリアンだった。
どうやら、聞こえていたらしい。
「お待ち下さい! 夜中ですよ! 深夜です! 王に謁見するなら時間を考えて下さい」
「いや、もはやじきに夜が明けますよ。まず、落ち着いて一旦寝たらどうでしょう」
セスまでも起きて来た。
「この状況で寝れる気がしないのだ」
「「ああ……」」
側近達は揃って納得顔。
「仕方ない、朝になったら宝石職人を呼んで、後はパライバトルマリンをどこかで仕入れるか。
石の大きさはエメラルドと並べるから小さくて良いのだが」
「そちらはこのリアンがすぐに手配させます」
「任せた!」
「は! それで肝心の辺境伯には!?」
「ゆ、指輪を用意してから言うつもりなのだが!」
「……そ、そうですね、とりあえず体裁を整えてからですか」
「ああ……。とりあえず、落ち着かないからひとまずは王都へは行く」
〜 (セレスティアナサイド) 〜
春の朝、食堂には焼き立てパンの香りが漂っている。
良い朝食ですね。
美味しそうなベーコン入りのミネストローネと焼き立てのクロワッサン。
そしてヨーグルトとフルーツ。
飲み物はりんごジュースとオレンジジュースとレモン水などが揃っている。
「おはよう、ティア」
「おはよう、ティア。貴女また寝不足なのでは?」
「お父様、お母様、おはようございます。ちょっと、色々ありまして」
「殿下達が夜明け前に転移陣から王都へ戻られたようだけど、その件と寝不足顔は関係が有るのかしら?」
う! お母様、鋭すぎる!
「──えっと、殿下が王都から戻られたら、大事なお話をされると思います」
「……!?」
お父様が驚いた顔のまま固まった。
「……ティア、見慣れない指輪をしているわね?」
め、目ざとい! お母様の観察眼がすごい!
「これは、自分で用意して作っていた物です」
「……まさか……大事な話とは……」
お父様が遠い目をしている。
しっかりしてください。
結婚より前に婚約からですよ! まだ13歳ですし!
「とりあえずティア。
食後はすぐ寝るのも良くないけれど、また後で寝なさい。
睡眠が足りていないでしょう」
「な、なんとなく察してしまったが、殿下のお話を待つとしよう……」
「はい、分かりました」
それから本日の食堂はとても静かだった。
しかし、メイドや執事も何か察したのか、城内は後で騒然としたのだった。
「俺のお嬢様が〜〜!」
「いいえ! 私のお嬢様です!」
「お前達のじゃない! 落ち着け! 何をたわけた事を! 不敬だろう!」
「とにかくおめでたいのでは!?」
「宴の用意か!?」
「まだ何も指示されていない!」
そんな悲鳴も聞こえて来た。
自室に戻って寝て、しばらくして起きたらお昼ちょっと過ぎになってた。
冷えても美味しい卵サンドが用意されていたので、自室で食べた。
「そう言えば、リナルドはどこに?」
「また出かけたようですね」
ラナンが答えてくれた。
そうか、何か分からないけど、あの子も忙しいのね。
とりあえず、お風呂に入って、それから大人気御礼の乙女ゲームの追加シナリオを考えるのよ。
せっかくだし、告白ネタにしようかな。
そんな事を入浴中に考えた。
* *
エアリアルステッキで髪を乾かした。
そして何やらアリーシャが、やたらと念入りにブラッシングしてくれる。
*
まだ晩餐の時も殿下は王都から戻って来なかった。
指輪が出来るまであちらにいるのかしら?
晩餐後に印刷の為の金属活字のサンプルが納品された。
やるじゃない! 指定通りに大きさ、高さも揃っている。
職人技! お見事です!
文字と言えば、私が壁に書いた愛してますの文字は、元日本人なので日本語で書いた。
……英語の方がかっこよかったかな?
いや、日本語だって美しいわ。
あれで良かったとしよう。
「お嬢様はどんな本を作られたいのですか?」
アリーシャはいつも通り、優しい口調で語りかけつつ、お茶を淹れてくれた。
「まず、大衆向けに公衆衛生、清潔にする事が大事だと、物語を読みつつ学べるような内容の物が書きたいかな。次に料理のレシピ本とか」
「コウシュウエイセイ?」
「簡単に言うと、清潔にしないと病気になったりするから、手洗いなど、しっかりしましょうという内容よ。
恐ろしい伝染病の回避とか、産褥死も避けたいと言うか、妊婦さんの安全と、新生児が……赤ちゃんが無事に育つようにしたいのよ」
「まあ……。お嬢様は本当にお優しいですね」
「普通だと思う」
「そんな事はありませんよ……」
そう言ったアリーシャは少し、遠い目をした。
そういえば、わりと最近になって、アリーシャは初産で何かあって子供が産めない体になったとか、食堂のおばちゃんに聞いた気がする。
そんな事情を最近まで知らなかったとか迂闊過ぎる。
ちなみに夫は門番さんだ。
二人とも同じこのライリーの城に住んでる。
……あれ? 今は私、治癒魔法でどうにか出来るのでは?
「今からでも……子宮に、お腹に治癒魔法かけてみようか?」
「え、でも私にはお嬢様のお世話がありますし、もう若くも無いので」
……35歳を過ぎた妊娠出産はハイリスクになるんだったか……。
「でも、産まなくても健康になるのは良いわよね」
「お嬢様ったら……」
『癒しの光よ……』
私はアリーシャに治癒魔法をかけ、アリーシャは光に包まれ、うっとりと目を細めた。
「……温かい光ですね。ありがとうございます。お嬢様。でも、産まないと思いますよ」
切なくなるほど、優しい笑顔で産まないだろうとか言われたけど、まだ諦めなくても……。
「アリーシャの好きにしていいのよ。出産は私が手を貸せるから。
メイドはまた雇えるし、そろそろ私の面倒ばかり見てないで、自分の家族と幸せになって良いのよ」
「まあ! お嬢様に出産の手伝いをさせるなんてとんでもないです」
「私と言う治癒師付きの出産なら、今からでもなんとかなると思うのよ」
「……ところで、お嬢様は殿下に、何か言われましたか?」
アリーシャは無理矢理話を変えたけど、私も無理強いしたい訳じゃない。
選択肢を増やしてあげたかっただけ。
「……むしろ、私から結婚してって言ったのよ。
まだ成人してないから婚約になるけど。
これ、実はまだ両親にもはっきりとは言ってないの。秘密よ」
城内の騒ぎを聞くに、あんまり秘密になってないようだけど。
「……まあ! やっぱり、おめでたいお話があったのですね。
私の宝物のようなお嬢様が、ついに……。感慨深いです」
感極まったのか、アリーシャは泣いてしまった。
私は綺麗なレースのハンカチをアリーシャに渡した。
「あ、ありがとうございます。こんな綺麗なハンカチを」
「いいのよ、あげる。
自分の大事なメイドに美しい物をあげるのが夢だったの、今思い出したわ」
「美しいもの……それは……とっくにいただいていましたよ」
「聖者の星祭りに贈った髪に飾る花の事かしら? あれだけでは足りないわ」
「沢山、いただきました」
よく分からないけど、何かを貰ったらしい。
詩的な考え方だと、思い出……あたりだろうか?
この夜は、そんな事を考えながら過ごした。
そして、天蓋付きベッドの中で、ふわふわ猫のアスランを抱っこして眠った。
私の大切な皆が幸せになりますようにと、願いながら……。
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