第216話

 食堂で晩餐の最中、家族と殿下が揃っている。


 今夜はお鍋で水炊きである。

 最近白菜と柚子と青唐辛子を親交の有る領地の交易品で見つけたのだ。

 では柚子胡椒を作って鍋を食べようと言う思考になった。


 鍋には骨付きのもも肉やすね肉と白菜とキノコと豆腐が入っていて、良いお味が出ている。

 コレをポン酢と柚子胡椒でいただく。


 豆腐はアズマニチリン商会に依頼して、大豆とニガリで作って貰った。

 味噌汁の具にどうしても豆腐が欲しかったから。


 本当はライリーの海で塩を作る企画が脳内にあったから、そのついでに副産物のニガリで豆腐も作ろうかと思っていたけど、私に味噌をもたらしてくれたありがたい商会なので制作方法を伝授して、業務提携する事にした。


 人との繋がりも、また財産であるはず……。


 そのついでに温泉街の宿で出す一人サイズの鍋セットのお試し中なのだ。

 囲炉裏鍋コンロと言えば良いのか……前世の修学旅行の宿で見たやつを再現。

 だだ、固形燃料は魔石に変更してある。


 これが有れば温かいままの料理を提供出来ると言う物。


 やっぱり冬には温かい料理が良いよね。


「温かくて美味しい」

「柚子胡椒というものが、またいい感じだな」

「ええ、いい香りで……上品な辛さが気に入りました」


「こちら、皮を削って残った柚子の実をハチミツに漬けて炭酸で割った飲み物です。

美味しいですよ、どうぞお試しください」


 ついでに飲み物も勧める私。


「うん……これも美味しいな」

「ええ」

「同感」



 こんな風に食事を楽しみつつ、付け合わせのレンコンのきんぴらを食べていた時、お父様に訊かれた。


「ところで、ティア。

増やしたいと言っていた二箇所目のレンコンはどこで育てるつもりなんだ?」


「水持ちがいい、粘土質の所でしょうか。カタツムリの死骸の有るところが粘土質と言われてるんですよね」


 おっと、うっかり食事中にカタツムリの死骸の話などしてしまった。

 誰か違う話題を振って下さい。


「カタツムリの……まあ、新たな畑候補地は探させてみよう」

「お願いします」


「ところでセレスティアナ。

冬休み中に令嬢達の間でノートの貸し借りが最近よくあると聞いたのだが、何故なんだ? 

勉強でも教え合っているのか?」


 転移陣にしょっちゅう使者が来るのでなんだ? と思われていたのかな。

 そんな事を今度は殿下に訊かれた。

 ともかく殿下がカタツムリ以外の話を振ってくれて助かった。


「ギルバート殿下。あれは実は3人の令嬢と一緒にやっている、交換日記なのです」


「交換……日記? 日記を交換してどうするのだ?」

「他の令嬢が日々どうやって過ごしているのか、何に夢中なのかとか、知れるでは無いですか?」


 アナログな交換日記ではあるが、市場調査まで出来るので馬鹿には出来ない。


「夢中……好きな男の事でも書いてあるのか?」


 殿下は少し緊張した感じで訊いて来た。


 乙女ゲームの推しの話が多いので好きな男と言われたら、それも合ってはいる。

 ゲームの攻略情報のヒントなどもたまに書いてる。


「そういう事を書く人もいるでしょうが、あれはお友達と交換するものなので、知られても問題無い内容の事が多いですよ。好きな物語の登場人物とか」


「な、なるほど……」


 何故かソワソワしてる殿下。

 まさか、私と交換日記したいとか?


「ティアはどんな事を書いているの?」


 今度は内容が気になるらしい、お母様にズバリと問われた。


「主にその日食べた物の話とかですが、読んだ令嬢達からのコメントがお腹が空いてしまいました。

って言うのが多いですね」


「それは……罪深いわね……」


 お母様は苦笑いだ。


「私の番が回って来た後は、なるべく夜に読まないようにするそうです。

でもおかげでチョコの人気も衰えませんよ」


 うふふと笑ってみせる私。


「まあ……そんなに」

「ティア。手心を加えてやるんだぞ」

「確かにそんな内容ばかりでは腹も減るだろうな」


 苦笑する両親と殿下。


「でもリナルド情報ではライリーの瓢箪砂糖とチョコに限っては神様のくれた食材だから、甘いのに太らない奇跡の食材らしいのですよ。

太らないよう、気を使ってわざわざバドミントンとか作った後で、そんな事をしれっと言うから驚きました」


『遊び道具が増える分にはいいと思って……』


 ナッツを齧っていたリナルドの弁明がコレである。



「まあ! 甘い砂糖とチョコでも太らないですって?

それは私も初耳なのだけど」


 驚くお母様。

 さもありなん。


「でもお米とかは普通らしいので、やっぱり運動はした方が良いのですけど」

「……そう。お米は普通なのね」


 お母様がガッカリしてしまった。


「お肉、お魚、お野菜を普通に食べて、お米やパンを少なめに食べるという体型維持方法もありますよ」


「お野菜は分かる気がするけれど、お肉を沢山食べて大丈夫なの?」


「極端ですけどお肉ばっかり食べて減量する方法は一応存在するんです。

お金がかかりますし、健康で長生きしたいならバランス良く食べた方が良いです」


「そうよね……」


 そんな雑談をしつつ今夜も晩餐を終えた。


 * *


 夜に樹液で作った紫色の藤の花イヤリングの花弁に金具を取り付ける作業をした。

 可愛くできた!


 靴の方もミュールの踵部分、透明な樹液に本物の藤の花を閉じ込めた物を作った。

 とても綺麗で可愛い!


 皇太子殿下の結婚式で着るお母様の衣装の準備は着々と進んでいた。



「お嬢様、湯殿の支度が整いました」

「はい」

「指示通りに柚子を浮かべていますよ」

「ありがとう」


 別に冬至じゃ無いけど肩こり、腰痛、冷え性、むくみ等が緩和されるらしいし、香りでリラックス出来るから試しに湯に柚子を入れてみて貰った。


 これも最近追加された交易品の一部。


 私は温かいお湯にゆっくりと浸かって、柚子を一つ掴んだ。


「……いい香りで爽やか」


 私は爽やかな香りに包まれて、柚子を浮かべたお風呂を満喫した。


 *


 寝る前に今後の予定を考える。


 お酒作りの為に蒸留器の絵を描いて、天才錬金術師のヤネスさんに相談してみよう。


 いつかお世話になっているドワーフのおやっさんの為にも、お酒を作ると言う約束を叶えなければと思っている。


 頭の良い人なので、発酵させたお酒、液体を用意して、蒸留器に入れる。

 液体を熱し、気体、水蒸気にして成分を集め、蒸気が管を通る途中で冷える。

 冷えればまた液体になる。


 その液体がお酒になる。


 このような原理を話せばなんとかドワーフと協力して上手く作ってくれるのではないかなと、期待している。

 企画計画書と図面……。

 明日書こう……。

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