第215話

 ある寒い冬の朝の食堂にて。


「ティア、今日はいつにも増して、もこもこの暖かそうな格好をして可愛いな」


 朗らかに笑うお父様に声をかけられた。


 確かに私の今朝のコーデは、だいぶもこもこしたケープを着ている。

 そして次に言った私の発言で周囲に激震が走った。


「赤ちゃんがいるので」


「「は!?」」


 一気に周囲の空気が冷える。

 暖炉の火もちゃんと着いているのに。


 顔色を無くした皆が一斉に、同じく食堂にいたギルバート殿下を見た。


「ち、違う! 俺では無い! え、では一体!?」


 慌てふためいた殿下も真っ青な顔で、私を見て問うた。


「ピヨ」

「え!?」


 私の胸元から鳴き声がした。


「育児放棄されていた鶏の赤ちゃん、ひよこを懐で温めています」

「……っ!! ま、紛らわしいだろう、俺がすごい顔で見られたぞ、セレスティアナ」


「申し訳ありません」


 凄い勘違い。

 この寒い朝に、何となく何かに呼ばれた気がして鶏小屋の近くの茂みに行ったら、寒さで凍えて死にそうになっているひよこがいたのだ。


「よ、よかった、驚いた。殿下、申し訳ありません」

「申し訳ありません殿下」

「あ、ああ、別に、分かって貰えれば問題無い」


 思わず皆も、殿下に謝罪した。

 私は懐からひよこを出して見せた。


「驚かせて申し訳ありません。でもほら、可愛いでしょう」


 ピヨピヨ……。愛らしく鳴くひよこ。


「ははは。確かに可愛いな!」


 殿下はやけくそみたいに笑っていた。


「ティア、ひよこを温めるなら、私のウサギのクロエにお願いしたらどう?」

「あ、お母様、それ、良いですね」


 きっと絵面も可愛いだろうな。



 * *


 夕方には今日もまた乙女ゲームの反応が凄くて、学院の冬休み中にもお手紙で感想が届いた。

 表向きシナリオ担当はラナンになっているので、この城に来るのだ。


 そんな訳で今は感想のお礼に乙女ゲームの追加シナリオを考えている。

 どこで起こるエピソードにするか、悩むな……。


「我が君、あの、私からファンレターのお礼状を出すべきでしょうか?」


「作家が個々にお礼をしていたら大変よ。

でも相手は貴族の令嬢ですし、こちらからカードとチョコレートを贈るわ。

表向きラナンからと言う事にしておくわ」


「はい」

「護衛中人に作品について何か問われたら、どうしましょうか?」

「護衛任務中なのでと断るか、夢で見た内容をシナリオにして書いたとでも言っておけばいいわ」


「分かりました」


 *


 乙女ゲームシナリオ用メモを紙に書き出す。


 学校(学院)付近 ロマンスときめき発生イベントスポット関連。


 図書室   (出会い:図書カード:本棚:高い場所の本(届かない)静か:密会)

 屋上    (お弁当:昼寝サボリ:日向ぼっこ)

 渡り廊下  (移動中にすれ違う。出会いの場所。

       裏庭、中庭。校庭を眺める事が可能)


 校門前   (待ってる。送る:登下校:下校デート)

 下駄箱付近 (雨。傘が無い時。下校デートの誘い。)日本じゃないから無し。

 家庭科室  (調理実習:お菓子差し入れ)

 保健室   (保健医不在事イベント:不慮の怪我:体調不良:ベッドでサボリ)

 中庭    (お弁当:噴水:待ち合わせ:ガゼボ。映え)


 並木道   (登下校:桜:アーモンドの木。映え)

 大木    (伝説:告白:待ち合わせ場所。映え)

 河川敷   (登下校の道:土手:寄り道。映え)

 教会    (伝説:告白:待ち合わせ場所。映え)

 校庭    (スポーツ。訓練中。密かに眺める:応援)


 ……いや、貴族の学院に調理実習は無いか。


 でも料理クラブとか有る設定なら……。無理が有るかな。

 うーん……。

 などと考えていると、メイドから声がかけれた。


「お嬢様、奥様の新しいドレスデザインの方は針子に渡しておきました」

「ありがとう。これで春にある王太子殿下の結婚式用のドレスはなんとかなるわね」



 ようやく立太子されたので第一王子のアーバイン様と公爵令嬢の結婚式をされるので、両親はその式に招待をされている。

 お二人の結婚式は喜びの春に行われるから、固める樹液で藤の花のイヤリングも作る。


「我が君、そろそろ本日のお仕事は切り上げて、お休みになって下さい。

書類仕事とドレスのデザインを描いただけでもお疲れでしょう」


 ラナンが気使わしげにこちらを見て言った。


「学院が休みだと思うとつい、時間を忘れてしまうのよね」

「時間を忘れると言えば……乙女ゲームに関するお手紙の内容ですが」

「うん」

「気の病で元気の無い友人に貸してあげたら、元気になったと言う内容の」

「ああ、あれ、良かったわよね」


「ゲームというものは凄い力がありますね」


「ゲームというか、物語とキャラクターかな。

何にせよ好きって気持ちで心が満ちると力がわいたり、癒されたりするから、私は創作物が好きよ」


「私の産み出した物じゃないのに、私が感謝されたり、称賛されて良いのでしょうか」

「普通の貴族令嬢はああいうのは作らないから、気にしないで」

「そうですか」


 ラナンに休んでくれとせっつかれたので、今夜はお風呂の後、早めに寝る事にした。

 お母様の言う通り、ひよこはウサギのクロエに預けて来た。


 私はいただいたファンレターに心がぽかぽかになり、感謝しながら、ふわふわ猫ちゃんのアスランと一緒に寝た。


 その夜は、身も心も、ふわふわのぽかぽかだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る