第212話
収穫祭の類いであれば、社交界には縁のない平民でも強く凛々しい邪竜殺しの辺境伯や美しい辺境伯夫人と令嬢が見れるとあって、多くの人が見に来て盛況だった。
大地の浄化後はまともな収穫を得られるようになり、多くの人を雇い、仕事の無い者には仕事を紹介し、新しい発明品と産業は人々の役に立ち、徐々に豊かさをもたらし、孤児院や病人の支援も行う領主は領民から敬愛されていた。
特に蘇った温泉は遠くからも湯治に来る者もいて人気の観光地となった。
水着も宿で売っていたり、貸し出しも有るので着用すれば、知らない人とも湯に入れる。
温泉には滑り台のような物もあり、若者にも人気があった。
貴族は転移陣の有るギルバート殿下の別荘に転移陣使用料と宿泊費を支払い、ゲストルームを借り、優雅な時を過ごしているらしい。
花木も至る所に植えられて花を眺めつつ食事も出来る。
温泉卵、唐揚げ、フライドポテト、串焼き、チョコレート入りクレープ屋などの店もあり、いずれも大好評であった。
通常の宿には食事の際、遊山箱なる、美しい藤の花やスミレ等の絵の付いた箱に詰められた食事が提供され、見た目も愛らしく、また、味も良かった。
「……というような内容の話を酒場で聞いたよ」
「アシェルさん、噂を流しているのはどういう職業の方?」
私はお城のお庭バーベキュー中にお父様とアシェルさんが焼いているお肉を眺めながら聞いた。
収穫祭にまつわる内容は去年あたりの話だろう。
「旅の商人だと言っていたよ」
「流石、商人は情報通ですね」
「ティア、この肉焼けたぞ」
「お父様、ありがとうございます! いただきまー・・・」
「ティア、かぶりつくのはダメですよ」
はっ! 今日はお母様の目があるんだった!
「お嬢様、私が串から外しますので。奥様の分も」
メイドが慌てて声をかけて来る。
「殿下の分のお肉、私が外しましょうか?」
殿下の隣にいたエイデンさんが気を使って聞いて来る。
「レディじゃないし、不要だ。野営の時も普通に食べているではないか」
「そうですか。分かりました」
香ばしい香りのする牛肉を美味しく食べる。
調味料もちゃんと使ってある。
「この肉、柔らかくて美味しいな」
ギルバート殿下も美味しそうに串焼きを食べている。
「下拵えの段階で、舞茸を使って柔らかくしてあるんですよ。
ヨーグルトでも良いのですが」
「ほう。そんな工夫がされていたのか」
「その下拵えに使った舞茸はそちらでアルミスライムの器で包まれ、
チーズと一緒に料理になって……あ、ほら、お母様が今食べています」
舞茸にオリーブオイルをかけ、さらにチーズを乗せて焼き、仕上げに塩、粗挽き黒胡椒を少しかけるだけという、簡単な物。
「良い香りがするな」
「これは美味しいですわね。お酒に合いそうな感じです」
「……どれどれ?」
お父様がそう言ってお母様の隣でパクリとお口を開けたので、お父様の口の中にスプーンで舞茸チーズを食べさせてあげてた。
ラブラブじゃん!
く、クリスタル構えて無かったのに! 今お肉に夢中で!
もったいない!
悔しくてうっかり思わず唇を尖らせてしまい、殿下にそれを見られてしまった。
「何を拗ねているのだ?」
「今、お母様とお父様がお口あーんって……」
「ああ、羨ましいのか」
違う!
「ほら、あーん」
殿下にフォークに刺したお肉を差し出された!
ち、違うんですってば!
私は美男美女のイチャラブを撮影したかっただけで!
が、しかし!これをスルーすれば傷つくかもしれない!
……パクリ。
親の目の前で自分でコレをやるのは恥ずかしいけど、仕方ないので食べてあげた。
「どうだ、美味しいか?」
「……はい」
……もぐもぐもぐ……。
ううっ! お肉は美味しいけど、やはり両親の前でこれはちょっと辛い……。
怖いから親の方は、見ない、見ないぞ。
「まあ」とも「ほう」とも言わない両親の沈黙が怖い。
もしや見て見ぬフリをしてくれているのか。
驚異のスルースキルか。
目を閉じたまま咀嚼してたら、空気を読んだメイドが気を逸らしてくれたようだ。
「旦那様、奥様、ワインです」
「いただこう」
「では、いただくわ」
そっと目を開けて見たら、両親にゴブレットを渡すメイドさん。
「ボクもジュース!」
「ほら、ウィル、りんごジュースよ」
私は弟にテーブルの上のジュースをコップに注いであげた。
「坊ちゃま。こぼさないように前かけをしましょう」
「あい」
弟のウィルには枕カバーとシーツに御守り刺繍をしていたけど、くたびれて来たので、小さなアクセだと無くしたりするかもしれないので、スカーフとベストに御守り刺繍をしてあげた。
今はその刺繍入りベストを着ているのでメイドが汚れ防止に前かけを付けた。
「舞茸ご飯もありますよ。痩せる効果も有るとか」
私がそう言ったらメイドの肩がビクリと反応した。
ダイエット効果の有る舞茸ご飯はメイドにも後で提供される筈だ。
ダイエットと言えば、休日の従業員用にバドミントンセットも休日にレンタルしているけど、なかなか好評。
ライリーは食事が美味しくてつい、食べ過ぎる人も多いから、良い運動になるとか。
「コイにもたべものあげていい〜?」
「ウィル坊っちゃま、ここにパンがありますから、千切ってあげても良いですよ」
「あい!」
ウィルは離席して鯉のいる池に向かったので、騎士もついて行った。
食後には殿下やアシェルさんとバドミントンをした。
こうして本日は秋のお庭バーベキューとバドミントンをのんびりと楽しんだのだった。
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