第210話
ルーエ侯爵の襲撃後。
魔王信者に命を狙われた経験を得て、心配事が出来た。
お母様は最近は社交で茶会やパーティーに行っているし、孤児院へ慰問、視察など、辺境伯夫人として外出する事もあるので、とても心配になって来た。
お父様はご自身がとても強いからまだいい方だけど、自分よりやはりお母様が心配。
ひとまず家族分の御守りを作る事にした。
お母様には魔石に守護の魔力を込めて指輪を。
お父様には組紐を編んで、アシェルさんとお揃い、色違いの石付きのブレスレットを。
* * *
〜(ギルバート殿下サイド)〜
朝起きて竜の谷に向かう前に朝食の用意。
その日は朝から何となくザワザワと嫌な予感がした。
薪を調達に行った者から魔物の報告が上がった。
「キラー・ビーだ!」
「チッ、飛ぶやつじゃワイバーンに乗って空中でやり過ごすのも難しいか」
「応戦する!」
『刃風よ! 切り裂け!』
『穿て! ストーン・バレット!』
俺は味方の呪文詠唱を聞きながらも魔力を練り上げ、風魔法で速度を上げ、疾風のように蜂を斬り割いていく。
セレスティアナのくれた剣は切れ味が抜群だ。
「山の中では火魔法が使えずに厄介だな!」
「私の水魔法で消火するからいざとなったら使え!」
「俺の土魔法で消火に砂かけてもいいぞ!」
「「応!!」」
打てば響くがごとく、そう答えた火魔法使いの者達。
しかし、やはり剣で相手をするには数が多い!
飛ぶのもうざい!
「エイデン! 合体魔法だ! 炎を使え!」
「はい!」
『炎よ!』『風よ!』『『竜巻となれ!』』
ゴオッっと音を立てて燃え盛る炎の竜巻となってキラービー達を巻き込む。
「「燃え尽きろ!」」
灰になって落ちるキラービー。
落ちてくる燃えカスは水魔法と土魔法で消す。
誰かのワイバーンが尻尾でバシバシと叩いて地面に落ちた火を消してくれている。
「火種は全て消えたか?」
「火の精霊に確認したら、火種になりそうな物は消えたようです」
「そうか、ならヨシ!」
戦闘の興奮も冷めやらぬまま、軽く朝食を済ませてからワイバーンで飛び立つ。
敵は倒したのに何か重苦しい気持ちで食はあまり進まなかったが、紅葉する谷は美しかったので、しばらくしたら少し落ち着いて来た。
谷に着いて自分の竜を選ぶ。
草食の竜に花を贈って食ってくれたら成立する。
山で摘んだ花を贈ろうとするも、ぷいっとそっぽむかれた竜騎士コースの見習い騎士がガックリ来ている。
やはり振られる事もあるようだ。
緑色のワイバーンが群をなしている所なのに、何故か白いのがいた。
変異種か?
しかも左の翼を怪我しているようだった。
俺はインベントリからセレスティアナの作った上級ポーションを出して、白い竜の怪我をした箇所にかけてやった。
患部が光り輝いて傷をあっという間に癒した。
白い竜は潤んだ翡翠の色の目で俺を見た。
妖精の花畑で取っておいた花を亜空間収納から出して問うた。
「俺の竜になってくれないか?」
竜は花の香りを少し嗅いでから、花を食べた。
「成立! 契約成立ですね!」
「ギルバート殿下! おめでとうございます!」
「白くて綺麗な竜ですね」
「ちゃんとぬかりなく、さっきの光景も記録しました」
「エイデン、いつの間に!」
「ああ、皆、ありがとう」
側近達のみならず、竜騎士や同じ竜騎士コースの者達も祝福してくれた。
何度か竜に振られては挑んでいるやつが三人くらいいた。
不憫に思えて、妖精の花畑の花を分けてやったらようやく成立したようだった。
あの花畑の花は美味しいのか?
「殿下! ありがとうございます! 竜をえられないまま帰らないといけないかと思いました!」
「この恩は忘れません!」
「なんかあったらいつでも呼んで下さい! 駆けつけますので!」
三人には泣きながら感謝されてしまった。
「さて、新人の皆も竜を得た。 これより帰還する!」
先輩竜騎士が指示を下した。
「早速背に乗せてくれるか? ライリーに帰って、俺のレディに早くお前を紹介したいんだ」
賢いワイバーンは頷いて了承してくれた。
白いワイバーンに乗って俺は空に舞い上がる。
何故怪我をしていたのかも分からないくらい力強い飛行だった。
雲を割く勢いで俺は自分の竜と大空を飛んだ。
待ってろよ! セレスティアナ!!
* *
最寄りの転移陣から王都に帰還する組とライリーに行く我々で別れた。
ライリーに行くとセレスティアナが出迎えてくれた。
「お帰りなさい。ギルバート殿下。白い竜ですか……綺麗ですね」
俺の竜を見つめるセレスティアナは優しい笑顔だった。
「殿下、お帰りなさいませ。
本当は盛大に竜を得たお祝いをしたかったのですが、ちょっと事件がありまして、
城の中だけで晩餐会を行います」
辺境伯が少し硬い表情でそう言った。
「何があったのだ?」
「ルーエ侯爵が魔族と契約して、ダイレル領でうちの娘を襲ってきました」
「な、なんだと……!? セレスティアナ! 怪我は無いのか!?」
慌ててセレスティアナに向き直ったが、少し寂しげな笑顔で言った。
「私は護衛騎士のお陰で擦り傷すらもありませんよ」
「しかし、怖かっただろう?」
「……いいえ。
むしろ私よりお母様の方が心配なので、王都で士官先を探している女性騎士の情報が有れば教えて下さい」
いいえって本当か!? 強がりか? 何か麻痺しているのか!?
やや混乱しつつも俺は新しく女性騎士を探す協力をするのには了承した。
「わ、わかった。女性騎士は王都でも募集をかけておく」
「殿下、お手間をおかけして申し訳ありません」
シルヴィア夫人もそう言って、やや青い顔をしている。
「気にしないでくれ。娘が襲撃されたならさぞかし心配だったろう」
「怪我がなくて本当に良かったですわ」
そう言って夫人は娘の手を握った。
本当に夫人の方が元気が無く見えた。
何とか二人を励ましてやれないものか……。
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