第205話 葡萄踏みの乙女と歌

 王都のライリー出張店舗に絵描きを二人呼んで契約をした。

 乙女ゲームに関連有絵を描いて貰って、店舗で展示販売する。


 小さめキャンバスと中くらいのサイズならお求めやすいだろう。


 それでも貴族の令嬢の部屋に飾られても違和感無いような上品な花の絵を描いて貰う。

 ゲームにハマると関連商品が欲しくなるものだ。


 作中で宝石をプレゼントされたら同じ宝石が欲しくなるし、キャラや話にまつわる花とか有ればそれのアクセサリーとかも欲しくなる。


 今回はアクセサリーとかは間に合ってないから絵を用意する。

 印刷機はまだ完成していないのでトレカとかの代わりですよ。


 ライリーに来たら部屋とアトリエの用意もあるし、家賃と食事は無料ですよと、お城に呼んだら画家は大喜びでライリーに来た。


 心おきなく美しい絵を描いて欲しい。


 着替えも用意しておいた。

 汚れても良い服と綺麗な服。



 * 


 秋の始まりの頃。


 まだ残暑で半袖余裕なんだけど、私は自室で葡萄園への遠征の準備中。

 遠足みたいでわくわくする。


「葡萄踏みの用意はこれでいいかな。まあ、ほぼ樽と桶と衣装だけど。

後は体を拭く為の布とか食事とか」


「楽しみですね」


 私はドイツの民族衣装であるディアンドルに似た服を着て、ラナンと一緒に葡萄踏みをするので、リーゼも私の着替えを畳みながら手伝ってくれている。


「ええ。護衛騎士の皆んなも荷物があれば私の亜空間収納に入れるからって男性陣にも言っておいてね」

「はい、お嬢様。ありがとうございます」


 * *


 葡萄園出発の日。


 今回は殿下も成人したので、お父様はライリーに残る。

 代わりにアシェルさんを連れて行く。

 竜騎士も相変わらず何人かは護衛騎士を連れてく為に呼ぶ事になっている。


「竜騎士の皆さん。今回も宜しくね」

「はい、お任せ下さい」


 私は翼猫のアスランにアシェルさんと乗る。

 ラナンとリーゼは弟の翼猫のブルーを借りて一緒に乗る。


 殿下はエイデンさんとワイバーンに二人乗り。

 秋も深まった頃には竜の谷に自分のワイバーンを探しに行くらしいけど、今はまだレンタルワイバーンだ。


 よく晴れた秋空の中を飛ぶのは気持ち良かった。


 現地に着いてテントを用意して、私とラナンは騎乗服からディアンドルに似た服に着替えをする。

 髪型はポニーテール。


「わあ、お二人とも可愛いですね」

「撮影係は私にお任せ下さい!」


「撮影係はリーゼに頼もうと思っていたけど、ローウェがせっかく張り切ってるから、貴方に頼むわね」

「ありがとうございます!」


「……」


 休憩しつつ水を飲み、黙ったまま、こちらの様子を見守っている殿下。


「ギルバート殿下も葡萄一緒に踏みますか?」

「まさか。乙女の仕事だろう」


 イケメンが踏んで作った葡萄酒もどっかに需要はある気もするけど、まあいいか。


 美しい秋晴れの日。


 葡萄園には紫色のぶどうの他に黄緑色の葡萄もあった。

 種類が違うのだろう。


 リナルドは殿下の肩に乗ってこちらを見守っていて、アスランやブルーは小さくなって私の男性護衛騎士に抱っこされている。



 葡萄踏みの乙女達は足を清めてから、素足を晒して大きな樽の中で歌い踊る。


 楽師がテンポの良い笛や太鼓の音を響かせはじめた。


 リーゼは作業を見守る観客と一緒に手を叩いてリズムを取っているし、アシェルさんは楽師に混ざって笛を吹いている。


 赤いスカートをたくし上げながら歌を歌い、軽やかに……。

 楽しみながらやる圧搾作業だ。


 貴族の令嬢の私まで参加するものだから、流石に見栄えの良い乙女達が選ばれている。


 意気揚々とクリスタルを構えて樽の周りをぐるぐる回りつつ、いろんな角度から撮影するローウェ。


 参考資料を集める目的ならそれで正しい。

 でも、他の葡萄踏みのお嬢さん達はなんだこいつって思ってるかも。


 そして、私が収穫を言祝ぐ歌まで歌うなら撮らない訳にはいかないと、ギルバート殿下も撮影をしたけど、極力上半身から上を撮っている紳士であった。


 踏む度にポニーテールは弾み、葡萄もどんどん液状化してくる。

 秋空に私達の歌声も響く。



「……ん? 何か葡萄が発光している?」

「この葡萄はそもそも発酵をさせるものでしょう?」


 一緒に踏んでるワイン娘が素でそう言った。

 彼女は足元を見ていなかった。


「そのうち発酵もするはずだけど、足元で何か光っているの!」


『大地の恵みを言祝ぐ歌で祝福が歌に乗ったせいだね』

 

 リナルドが事もなげにそう言った。


 これはプレミアムワイン!


 ギャラリーが一層わいた。


 歌と作業が終わって、しばらく後に足を洗って木陰で休憩してると殿下が私の側に来て言った。


「セレスティアナ、満足か?」

「はい!」


 私は早速ローウェが撮ってくれた映像をクリスタルで確認しつつ、喜色満面でそう答えた。


「ふ……。其方が満足ならそれで良い」


 殿下は華やかな笑顔でそう言った。




 テーブルセットをインベントリから出してセッティング。

 葡萄園を見ながらの食事も良いものだと思う。


「ところで、昼食は何を食べるのだ?」

「お昼は甘酸っぱくて美味しい杏のパイと、テリヤキピザとサラダを用意して来ましたよ」


 わ──っと喜ぶ騎士達。


「米……が良い人はそぼろご飯と漬物もあり、デザートにはチョコレートを用意しています」

「やった──っ!」


 貴重な体験をさせていただいたので、葡萄踏みの乙女達や農園の人や楽師にも食事を振るまった。


「美味い!」

「ああ! うまいな!」


「杏のパイ。甘酸っぱくて美味しいですね」

「やはりテリヤキピザが至高」


「サラダにはトマトとチーズ。

それにオリーブオイルとバジルをかけるのか。え? 高価な胡椒もかけて良いの?」


「こっちにもスプーンくれ」

「細かいひき肉に良い味が付いている。これはショウガ?」

「卵の黄色が可愛い」


「これがチョコレートと言うものですか? 凄く美味しい!」

「甘くて濃厚……至福」


 皆思い思いに食事を楽しんでいたし、充実した1日になった!

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