第201話 星を撒く風

 学院に入学して二年が経った。

 春が終わり、もうじき夏が来るし、温泉地には殿下の別荘が完成した。


 グランジェルド王国の第一王子もようやく立太子となった。

 第一王子は温厚系の性格だが、イマイチ覇気が無いと王に思われていて、なかなか王太子を決めて無かったが、ようやくである。


 温厚だけどカリスマ性が足らなかったみたいな……。


 第二王子のロルフ殿下は戦闘センスと覇気のある王子であったが、兄と王位継承で揉めたくなくてわざと、たわけみたいな言動をしていたらしい。

 言動が軽いと言うか。


 とにかく、王太子も決まり、殿下も安心したようだ。

 ライリーに殿下の部屋と側近の部屋も用意した。

 別荘も有る。


 この夏には殿下は15歳になる。成人とみなされる年齢だ。

 しかし、王族としての恩恵をギリギリまで受けていて欲しいので、また説得してライリーに降りて来るのは私の成人後、また三年ほど待ってくださいとお願いした。


 ライリーには既に別荘も部屋も用意してあるのだからと、なんとか宥めた。


 王都の成人式のお祝いの式典は私は社交界デビューがまだな為、

 不参加だけど、ライリーの城の方で夜に殿下の成人祝いの宴を用意して、それに参加する。


 宴用のドレスを作る為に、今日は殿下をライリー城内の工房に呼んだ。


 濃紺から黒のグラデーションの効いた布地を眼前に広げてある。

 白い布用インクも用意した。


「これをどうするのだ?」


「この白い布用インクをその夜色の布地の上で星のように……ギルバート殿下の風魔法で散らしてください。

ちょっと黒い紙でイメージを再現しますから見ててください」


 私はアナログ漫画技法のスパッタリングを黒い紙の上でやる事にした。

 ぼかし金網と言われる金属製の正方形の網の持ち手を持ち、白インクを付けた歯ブラシで勢いよく引っ掻くように動かす。


「えいっ!」

「ほう……」


 弾かれた白いインクは黒い紙の上に星のように散らばり、星空が出来た。


 スパッタリングはぼかし金網が無ければ筆や歯ブラシにホワイトを塗って、紙の上に歯ブラシを直接インクまみれ覚悟で指で弾くようにバシャっとやるか、定規の上で筆を叩くようにしてホワイトを飛ばす方法もある。

 ただ細かい粒を綺麗に飛ばすのは難しい。



「このようにこちらの白い布用インクを夜色の布の上で、夜空に星を散りばめるようにして飛ばして下さい」

「魔法でやるのが難しいなら諦めて歯ブラシか筆を使います」

「で、出来るとも!」


 殿下は意気込んで魔力を練り上げ、しばらくイメージを脳内で固めて、風魔法で白いインクを布の上に撒き散らした。


 お見事!


「初めてなのに上手にできましたね! 綺麗な星です!」


「すぐ目の前に見本があったからイメージもしやすくて、一応出来た。

しかし、星を作るなら宝石を使った方が輝くのではないか?」


「でもこの布は世界で一つだけの、ギルバート殿下が手ずから星を散りばめた、星のドレスになるのですよ」

「……!!」

「わあ、ロマンチックですね! 王子殿下に星空を作って貰って、それを身に纏うなんて」


 作業を壁際で見守っていたリーゼが感激したのか、声をあげた。


「後は布を乾燥させてドレスにします」

「星を纏う……ドレスか」

「ええ、そうです。殿下の成人のお祝いの、晩餐会に着ますよ」


 私はそう言ってニッコリと微笑み、リナルドもアスランも機嫌良さそうに布上の星空を眺めていた。


 *


 夜は未だ乙女ゲームを制作中。


 シナリオを何度か修正したせいで完成が遅れたけど、そろそろゴールが見えて来た。

 最近は今まで撮って来た映像を参考資料に乙女ゲームの作画をラナンと二人で描いたのを最終調整中。


 仮画像から本番の絵に差し替える。

 表情の大事なキャラのアップなどは主に私が書いた。

 立ち姿や背景はラナンが担当。


 BGMも付いている。

 ハープ演奏BGMの音源は贅沢にもお母様に演奏を頼んだもの。

 名前は伏せて協力して貰った。


 選択肢と分岐のあるビジュアルノベルゲームを冬の聖者の星祭りに合わせて販売予定!

 せっかくなら印象的な日に販売をと言う事である。


 ゲームの端末となるクリスタルも100個用意。

 口コミで既に宣伝は出来ている。


 とりあえず二年ほど社交を頑張っていたので、仲良くなった読書クラブの恋愛小説好きの方2名にテストプレイをして貰ったので、口コミはここから広がっている。


 マジで大好評だった。きっと娯楽に飢えていたんだね。

 オリビア嬢も大絶賛してくれた。


 久しぶりに萌えできゃーきゃー言ってる若い娘さんの姿を見て、生き返るような、寿命が延びるような感動を覚えた。

 オタク冥利に尽きる。


 王都にはライリーの商品を売るシャッツの店舗を構えた。

 建物の3階で乙女ゲームは販売する。


 1階にはカフェがある。

 チョコと美味しいパンなどが食べられるので主に女性に大人気。


 2階に主力雑貨品等の石鹸、シャンプー、リンス、日焼け止め、化粧品、冷蔵庫、挽き肉製造機。ハンドミキサー。馬車の座面と精米機は受注生産。


 3階は娯楽系。高級な関節が動く樹脂製のドール、バドミントン。乙女ゲーム(予定)

 4階は服飾装飾系。アクセサリー、時計、下着、水着等を売っている。


 その隣にはミシン教室と食堂も構えてる。

 食堂では腹持ちも良く、味も良い、米や醤油で作られた美味しい料理で老若男女に大人気。


 ライリーの城の朝。

 殿下は昨夜ライリーに泊まったので学院へは一緒に登校する。


 ライリーは鯉農法もはじめたので教会から学院までの馬車の中でその話をした。


 鯉により雑草対策ができて、泥の攪拌等で米も美味くなる。


 鯉はたんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル類を多く含み、胃炎、便秘にも良い。

 血液循環・肝機能の改善、頭痛、冷え性改善の他にもあり、魚類の中でも薬効が高いという情報も、最初に鯉を提供してくれた恩があるので、リーバイ子爵領には提供した。


 その後、あちらでも売れ線の選別から外れた鯉は一部は食用としても提供されるようになったが、リーバイ子爵領は基本的に鑑賞魚として美しく高級な鯉を育てているので、うちの見栄えは割とどうでもいい鯉農法用の鯉とは用途が違うので深刻な競合はしない。


「稲の収穫後には、畑の鯉の掴み取り大会をするんですよ」

「鯉を掴んでどうする?」

「泥抜きをした後に食べます」


「……そうか。ちなみに掴み取りはどんな格好でするんだ?」

「水着か短パンを予定しています」

「……」


 殿下は顔を覆った。


「鯉の掴み取りを一緒にやるなら、泥まみれになっても大丈夫な格好を推奨しますよ」


「今年は葡萄踏みもやると言っていたではないか。スカートをたくし上げてやるやつだろう?」

「中に水着を穿くので大丈夫です」

「大丈夫って……」


「夏にはプールでも海でも水着姿を見てるのにまだ慣れないのですか? 

嫌なら無理して付き合わなくても大丈夫ですよ」


「行くとも! どうせ他の者も見るのだから!」


 殿下は真っ赤になって叫ぶようにそう言ったのだった。

 未だ女性の水着姿に慣れていないらしい……。

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