第200話 再びオースティンへ
午前の授業だけ出て、学院から帰城後、着替えをして伯爵領へ。
転移陣で移動したので晩餐の誕生パーティーには間に合った。
この伯爵領の後継ぎの親御さんは子供のために毎年誕生日を祝うようだ。
伯爵領には数日間、滞在予定。
お母様のお兄様は流石にイケメンだった。
お母様に似た青銀の髪でクールな雰囲気。
誕生日らしく豪華な料理が並んでいる。鳥の丸焼きとか。
ケーキはフルーツタルトかな。
艶々したフルーツが美味しそう。
招待客もだいたい揃ってるようだ。
騎士の子の男の子達も来てるみたいでこちらをチラチラ見てる。
今日は深い緑色のドレスを着ている。
今日の主役は私ではないから、落ち着いた渋めの色のドレスである。
が、その分上品で高貴さが出てしまっている気がする。
「私達からのプレゼントです」
プレゼントは合同って事にしておいたので、お人形は代表でお母様に渡して貰った。
「わあ──っ! 凄い! 綺麗なお人形!
ケイティ、こんなの初めて見ました!
ありがとうございます!」
ケイティちゃんはちゃんと御礼の言える良い子だ。
愛らしいピンク色のドレスを着ている。
フリルもリボンも沢山付いてて本人もお人形さんみたい。
「大事に可愛がってあげてね」
お母様は女神の微笑みである。
「はい! もちろん大事にかわいがります!」
「ケイティ、良かったわね。こんな美しいお人形は私も初めて見ました」
「凄いな、手足も動くとは」
伯父と伯母も驚いている。
「そのお人形は関節が動いてお着替えが出来るので、服の型紙もお渡しします。
違う服を着せたくなったらこの型紙を写してどこかの針子に依頼すると良いでしょう」
ゴミと間違えられて捨てられないように型紙を別にしていたので手渡した。
「まあ、ありがとうセレスティアナ」
「ケーキもどうぞ」
今度はお父様がインベントリから預けていたケーキを二つ出した。
「まあ、二つも?」
「やった──!」
「生クリームとチョコケーキの二種類です。どちらかは口に合えば良いのですが」
「美味しそう!」
「ケイティ、落ち着いて。お上品にね」
「まあ、まあ、誕生日ですし」
お父様もフォローに入る。
お爺さまとお婆さまにも再会のハグをしてもらった。
「よく来たね。前回の里帰りはとんでもない事になったが、今回はゆっくりして行きなさい」
「お爺様、お婆様、ありがとうございます」
和やかな雰囲気のまま、パーティーは盛り上がりをみせた。
「ケーキ白いのも茶色いのもどっちも美味しい! 凄い!」
「本当に美味しいわねえ」
「貰ったケーキもう食べ終わっちゃった」
「皆で食べてるから仕方ないでしょう。でもまだフルーツタルトが」
生クリームの苺ケーキもチョコレートケーキも大好評だった。
ライリーの商品も招待客に紹介出来たし、注文も入った。
また冷蔵庫の注文だ。
新商品の企画にも興味を持ってくれる人がいた。
化粧品事業と印刷事業のやつとか。
昔お母様が使っていたお部屋はそのまま残してあるらしく、私はお母様と同じ部屋で寝る。
弟のウィルはお父様と貴賓用の客室に泊まる。
リーゼとラナンは同室でこれも客室。
お風呂上がりにお母様の髪をエアリアルステッキミニで乾かしつつ、雑談。
乾かすのはリーゼが代わりにやると言ったのでエアリアルステッキだけ持たせた。
櫛を通すのは私がお母様の美しい髪に触りたかったので譲らなかった。
サラサラのロングヘアー大好き。
「エイミル男爵令嬢が流された島って、どういう所なのかお母様はご存知ですか?」
「海が綺麗で新鮮なお魚が美味しくて島民は素朴で、あそこに送られると毒気が抜かれて、性格が丸くなると聞いたわ。美しい自然で浄化されるのかしら」
おや?
「綺麗な所なんですね。でもまだ小さいのに両親と会えなくなるのは寂しいですね?」
「母親は一緒に島について行くそうよ。
父親はゴーレム事業があるので領地に残っているけど月に一回は時間を作って島に娘に会いに行くらしいわ」
「あ、母親とは一緒で、父親とも月1は会えるんですね」
「ドレスだの宝石だのの貴族的な贅沢は出来ない場所だけど、環境はいいらしいのよ。
罪が許されて領地に帰って良いと言われてからも、拒否して島民と結婚して平凡で幸せな家庭を築いた人もいるくらいよ」
「じゃあ、環境として酷くは無いんですね。まだ成人もして無い少女には過酷すぎる状況かと思っていました」
逆に私も行きたくなったわ。
毒気抜かれるほど綺麗な海に囲まれた島とは。
海に囲まれている島ならお魚は当然新鮮獲れたてで……。
「綺麗な海に囲まれた島に美味しいお魚……」
「ティア、貴女まさか島に行きたいとか言わないでしょうね?」
「い、行くなら違う島にしますので!」
「全く……どこかの島には行きたいのね」
「明日はケイティとバドミントンで遊ぶ約束をしましたけど、夕方は市場に行っても良いですか?」
「市場は明後日でも良いのでは無いの? わざわざ夕市に?」
「他領の夕方の市場も風情があるかと」
「全く、この子は好みが渋いのだから……」
あはは。
夜中にウィルがお父様の所からお母様を恋しがって部屋にやって来た。
私はお母様のたわわに顔を埋めて至福な状態で寝てたのだけど、可愛い弟の為、ポジションをチェンジしてあげる事にした。
私はお父様の部屋で寝ます。
「弟と場所の交代なので仕方ないです」
そう言って私はお父様と同じベッドでくっついて寝た。
自分の年齢的にお父様の隣で寝れるのは最後のような気がして切なくなった。
私の頭を撫でてくれる手は、相変わらず大きくて暖かい。
きっとお父様も私が「呪われ」と言われたせいで傷ついていると思って、慰めるように優しく頭を撫でてくれているんだろう。
その夜は、お父様の温もりを感じながら眠った。
翌日の午前中に従姉妹と楽しくバドミントンをした。
バドミントンを気にいったようなので、手持ちの分をプレゼントした。
午後からは変装して護衛騎士と夕市にも行った。
地元の騎士が道案内について来てくれた。
人も多く、ざわざわと活気が有る。
仕事終わりに大人達が飲み屋に集まり、お酒と料理を楽しんでいる。
王都の市場とはまた違う香りがするし、地元民か旅の者か分からない楽士のかき鳴らす楽器と音楽も聞こえる。
市場を照らすオレンジ色のランタンも綺麗。
謎のスープ。謎のパン。
「凄い、あの謎の煮込み、醤油かイカ墨入れたみたいに黒い」
「何かの臓物煮込みだと言ってましたよ」
リーゼが答えてくれた。
「へえ……」
何かとは何なのか。
まあ、食べないから良いけど。
某聖杯みたいなゴブレットが沢山並んでるお店も有る。
二個程買ってみた。 衝動買い。
お酒の代わりにこれでジュースを飲もうかな。
手の甲にレースのようなものを絵筆と謎の絵の具のような物で手描きする女性の職人もいる。
へ──、オシャレ。
興味深くじっと見てると、「お嬢ちゃんも描いてあげようか?」と、訊かれた。
「どちらかと言うと描く方がやりたいです」
「ははは、良いよ。 この筆で描いてごらん」
お言葉に甘えて道具を借りてリーゼの手の甲にレースのような柄を描いた。
「綺麗ですね。ありがとうございます」
「おや、上手いもんだね」
おばさんに褒められた。
次に地元の騎士の手の甲を借りたけど、男性の手にレースの柄とか描けないから神学で教わった祝福の言葉と蔦模様を描いた。
「ありがとうございます!」
なんか喜んで貰えたし、夕市も楽しかった!
* *
そう言えば伯爵領からライリーに戻ると殿下から手紙が届いていた。
「いや、やっぱり10日に一回くらいは一緒に昼食を食べても良いのでは?
別に他の者も同席しても構わないから」
──的な内容だった。
距離を取るのはお互いの社交の為であり、殿下を傷つけたい訳では無い。
気の毒になって来たので、ひと月に2回くらいなら良いですよと次に会ったら言おうと思う。
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