第199話 二人の距離
「ギルバート殿下。私達、距離をおきましょう」
「え?」
「そもそも休み時間もランチも殿下の隣に私がいたから、入る隙間が無さすぎて令嬢が嫉妬してあのような悲劇が起こったものと推測されます」
「あの家門は既にゴーレム数体提出と技術者派遣も決まったし、エイミル本人の退学と国からの罰として罪人の流刑地とは違うが遠くの島で暮らすようにする事まで決定しているぞ」
島流しだコレ!
思いの外、厳しい処分が下っていた。
家族からも遠く離されるのか……修道院行きとどちらがマシかな。
島がいい所ならまだいいだろうけど。
「同じような事が違う人との間で起きないとも限りません。
予定の合う休日、長期休暇や騎乗クラブでは普通に私とも普通に交流すればいいと思いますが……、
とにかく、いつも二人並んで隣にいると殿下と交流したい人も、私と交流したい人も、声をかけにくいみたいです」
「う、それは確かに。 しかし、距離を置くのはいつまで?」
「ひとまず二年くらいでしょうか」
「な、長くないか?」
「挨拶くらいはいつでも出来ますし、クラブでも会えますし、長期休暇にも予定が合えば会えますから、
そんなに深刻になる事は無いですよ。
他の人とも会話や交流する余地が有れば良いのです。
とにかく私が暴言を吐かれて傷ついたと、両親が私を心配して心を痛めてしまうのは私としても辛いので」
「わ、分かった……。それなら仕方ないな」
「そ、そんなにガッカリしなくても……。
殿下が竜の谷にて自分専用のワイバーンを得て戻られた時は、私もお祝いに参加させていただきますよ」
「……そうか。 分かった」
「数日、親戚の誕生日で他の領地に参ります。
この件は手紙で伝えようかと思ってましたが、直接会って話した方がいいかと、今日は登校しました。
そういう訳で後日、学院を少しお休み致しますが、落ち込んでる訳では無いので気にしないで下さいね」
「ああ。気をつけて」
「はい。あ、そうだ!
いただいた金魚ですけど、本当にヒレが長くて優雅で美しい、赤い金魚でした。
ありがとうございました」
「そうか。気にいったなら良かった」
私は笑みを作って、ギルバート殿下から距離を取った。
教室の席も殿下と離れて座った。
リーバイ子爵家のオリビア嬢の隣に座り、休み時間は育てている鯉の話などが出来た。
休み時間の度に、少しずつ、殿下や私にも話かけてくれる令嬢や令息が増えていった。
やっぱり話かけたくても殿下と一緒にいる間は邪魔できないなって思っていたのかもしれない。
ライリーから販売されている商品のお話とかもあったし。
ライリーに戻って執務室にいるお父様とお話する。
「ゴーレムは鉱山以外にも温泉地の力仕事の復興作業に協力させるとか、水田の見回りの付き添いとかにも使えたらいいなと思いました。
畑の持ち主以外の者が勝手に鯉とかを盗んで行かないように、たまには見回りもいた方がいいかなと」
畑において、ワイバーンのおしっ◯は獣避けが出来ても人間の盗賊は避けられない。
特に鯉はまだ増やしきれて無いから。
「なるほど。しかし、ゴーレムは鉱山の他に国境付近や魔の森近辺の見回りにも使いたいと思ってる」
「そうですね、危険のありそうな場所の警備ゴーレムとしても使えますものね」
重要度的には確かにそちらの方がいいか……。
「とにかくどこに何体ゴーレムが使えるか、検討してみる」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
執務室を出て自室に戻り、今度は別のお仕事。
伸縮性の有るアラクネーの糸を使ってスポブラを作る為にデザイン画を描いた。
レースのセクシー下着なら既に作ってるけど、ストレス減らしに締め付け緩めに作ってるんだよね。
これ本当はぎゅっと胸の所閉めないと絶対たわわが揺れる気がするけど、あんまり締め付け過ぎたら苦しいだろうし。
難しいな。
夏は汗もかくだろうし締め付けたら痒みが出る心配もある。
でも締め付け若干緩めでも無いよりはマシだよね。
ホック付きブラと紐で調整可能なレースアップブラと三種作ってみよう。
デザインを描いて服飾屋に依頼する。
そして作業が終わって猫をもふる。
ふわふわに顔を突っ込む。
抱きつく。
は──癒し。
明日はお母様と一緒に従姉妹の誕生日のお祝いに行くから、早めに寝ないと。
〜 (ギルバート殿下視点) 〜
セレスティアナから「距離をおく」とかいう衝撃的な言葉を聞いて、一瞬、目の前が暗くなったようだった。
あの時は朝だったというのに……。
午前の授業が終わった後、セレスティアナはクラブでは会えると言っていたのに誕生会のケーキの用意があるとかでクラブ活動を休んで帰って行った。
今は晩餐後の夜だ。
自室にて側近達といる。
「殿下、声もかけるなと言われた訳では無いのですし、休日とクラブが有るではないですか」
落ち込んでいる俺にエイデンが慰めの言葉をかけてくるが……、
「一緒にランチという、ささやかな幸せの時間が消えたんだぞ」
「体を鍛えましょう!
セレスティアナ様も魅了出来るような、見惚れるような体型になるのです! 男は筋肉です!」
「ブライアン。
そんな筋肉が全てを解決するみたいな話があるか」
「しかしブライアンの言葉も一理有るかもしれません。
自分磨きは大事ですから」
リアンまで真面目な顔でそんな事を言う。
「令嬢の理想が辺境伯なんですよ、ある程度の筋肉は必要です」
「そもそも体は鍛えているのだが……」
「今まで以上に、食事にも気をつけて頑張っていきましょう」
どの道、彼女の騎士になるのだし、言われずとも体は鍛えるとも。
「閃きました。逆に密会のような事を楽しめば良いのでは?」
「密会って……セス。お前いきなり何を」
「例えば学院内の図書館などで偶然会う事も無くはないのでは?
令嬢は背が高く無いので、届かない位置に有る本を、スッと殿下が取って差し上げたり」
「セス、さてはお前、恋愛小説を読んだだろ?」
「女性はそういうのに、ときめくらしいです」
「らしいですって……」
「いや、確かにそれは有ります」
「リアン。其方さては経験者か……」
リアンは肯定するかのように、ニヤリと笑った。
「図書館での偶然の出会いが無理でも、夏には一緒に海に行く確実な約束も有るのですから、希望はあります」
エイデンがまともな事を言った。
「そうだな差し当たり、それを希望にして生きよう……」
「殿下……図書館……」
「分かった! 図書館にも行くから!」
意外にもセスが図書館を諦めずに推してくるな。
まあ確かに図書館という場所は、セレスティアナがいかにも好きそうな場所だと、俺も思った……。
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