第197話 家族とピクニック

 朝、鳥の声で目が覚めた。

 空は青く澄み、命の輝きを内包した地の緑は色鮮やかで、目を楽しませてくれる。

 ピクニック日和り。

  

 結局バドミントンのネットと支柱は工房に依頼して作って貰う事にした。

 商品化すれば元は取れるでしょう。


 今日のコーデはおさげ……三つ編みにエプロンワンピース。

 でも騎乗が出来るよう、下には短パンを穿いている。

 平民の街娘か村娘のような服だけど、汚れても良い服だ。


 本日はお母様にはブラウスとパンツスタイルで、ベストの後ろ部分が長く、広がっていて、お尻を覆い隠すようなデザインの服を着て貰った。


 そしてライリー城の近くの平地の野原に、家族と護衛騎士とで、ピクニックをしに行った。

 近くには川もある。


 私は翼猫のアスランに乗って、私の選んだ男性護衛騎士のレイナードと空を飛んだ。


 ラナンは弟のウィルを自分の体の前に、先日作った抱っこ紐を使い、しっかりとガードした状態で、翼猫のブルーで同行。

 お父様はグリフォンで、お母様は初めて霊獣うさぎのクロエに乗って飛んだ。


 可愛い!


 念の為、うさぎのクロエにはお母様を支える為に、私の女騎士のリーゼが同乗した。


 男性の護衛騎士は地上で馬を走らせ、頑張って追って来る。


 そしてお母様にバドミントンを渡し、一緒にやってみる事にした。


 まだ発注したばかりで出来上がってないバドミントン用のネットは、漁師の使う網を改造して作った。

 ネットを引っ掛ける支柱は即席土魔法で作れる。


 コートの線を引く代わりに、赤く染めたロープを地面に目印として置いた。


 お母様とラリー目指して打ち合う。


 ──が、し、しまった! たわわが! 

 お、お胸が揺れてしまう! 大きいから……!

 スポーツブラを早めに作らないと!


 私は揺れるたわわに気を取られながらも、運動は大事なので、しばらくバドミントンを続けた。


「──ふう。 久しぶりに運動をして……少し疲れました」


 少し息を乱したお母様が爽やかな笑顔でそう言ったら、私達のラリーを側で見守っていたお父様が声をかけて来た。


「シルヴィア。あそこにピクニック用の布を敷いて居るから、そこで休んだらどうだ?」

「ええ、そうさせていただきます」


 すると、何という事でしょう!

 お父様がインベントリから出し、敷き物の上のピクニックゾーンにて、お母様は小休止にデトックスウォーターをくいっと飲んだ。

 その後に、


「柔らかくは無いが、枕にして休んで良いぞ」

「まあ。ありがとうございます」


 お母様があぐらをかいて座るお父様の膝……と言うか、太ももに頭を預けた。


 ひ、膝枕だ──っ! お父様の膝枕だ!


 男性が女性にしてあげる逆バージョンだ!

 尊いの極み──っ!

 私はすかさずクリスタルを構えて撮影!

 尊い! ラブい!


 春のピクニック最高! 私の脳内で祭りが開催されていたら、護衛騎士のリーゼが急に声を上げた。


「ウィル坊ちゃま! あまり遠くへ行ってはいけませんよ!」


 私もウィルを探した。

 

 ウィルは青々とした草原をかき分け、しゃがんで何かをじっと見ていた。

 草丈はふくらはぎの真ん中ほど。

 私は何かな? と弟の近くに寄って見たら、草の上に卵がいくつかあった。


「あら、鳥か蛇の卵かしら?」


 ウィルは「わかんない」といった風に首を傾げる。


「魔物の卵じゃありませんよね?」


 このピクニックの場所まで馬で来た、男性護衛騎士カーティスが心配して声をかけて来た。


「リナルド──! この卵、何か分かる──!?」


 私はその辺を自由に飛び回っていたリナルドを呼んでみた。


『普通の鳥の卵だよ! 向こうで親鳥がソワソワしてるから離れてあげたら?』


 見ると確かに草の中に鳥がいた。


「あ! 本当だ! 普通の鴨系の鳥だわ。 ほら、ウィル。

お母さん鳥が卵を心配するからあっちでおやつを食べましょう」


「あい」

 素直に返事をしてくれた弟の手を引いて両親の元へ行く。


 お父様はお母様に膝を貸しつつ、何かの書類を見ていた。


「お父様、ピクニックに来てまでお仕事ですか?」


「井戸のポンプと馬車の座面の注文の方は落ち着いて来たが、時計、ミシン、冷蔵庫、ハンドミキサー。

ひき肉機にセイマイキ。菜種油。米。チョコに砂糖。加えてバドミントン。

どんどん商品が増えて確認事項が多いからな。

石鹸、シャンプー、リンスの方は販売してる商社のシャッツがしっかりやってくれて、もう手がかからないから楽だが」



 すみません! お金の為です! 許してください!



「お父様。時計、ミシン、ハンドミキサー、精米機とかもまとめて機械部門課を作りましょうか?」

「そうだな。それを作るとだいぶ楽になりそうだ」


「ミシンの方は王都に人をやって講座を開いて欲しいらしいそうですから、人を選んで場所の予約なども手配中で、温泉地の人員の話は両親とお兄様とも今度、親戚の誕生会に少し顔を出すので、その時に詳しく話をしておきます」



 お母様はそう言ってむくりと体を起こした。

 膝枕ボーナスタイムがもう終わってしまった。



「お父様にもお母様にも、お手数をおかけいたします」


「ティアの商品のお陰でお金の心配は無くなっているから良いんだよ。

助かっている」


「そうよ。私も私の仕事をしているだけなの。

今度お兄様の9歳になる娘に誕生日プレゼントも贈れるし、感謝しているのよ」


 今まで貧乏で、贈りたくても贈れなかったのか……。


「ああ、伯爵領の跡継ぎのエラード伯父様。

お母様の里帰りの時は奥方の実家に行ってたせいで、すれ違いで会えなかったという」


「そう。あのティアの従姉妹にあたる子に、今年こそ贈り物をしようかと思っているの」


「お母様。まだ贈る物が決まっていないなら、私が作ったお人形を贈りましょうか?」


「もしかして、あの手足が動く、美しいお人形を?」

「ええ。お人形はちょうど二人目を作っている所でしたし」


 9歳くらいにもなれば、高級っぽいお人形は、それなりに大事に扱ってくれるのではないかな。


「それなら、きっと喜ぶでしょうね」

「せっかくならチョコケーキも贈ったらどうかな?」

「ええ、良いですね。チョコの宣伝にもなりますし」


 私もお父様の提案に同意した。

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