第196話 バドミントン

 アルミスライムを金切りバサミでギザギザの山のような切り方をして、生クリームを絞る時に使う口金を作った。


 生クリームを塗りまくってフルーツをのっけるだけのケーキだけでなく、綺麗なデコレーションケーキができる訳だ。


 スイーツは見た目も大事だものね。


 クリームを入れる為の円錐形の絞り袋は、固まる樹液を薄く広げ、シート状の物を柔らかく固めて作った。

 シートが円錐形になるように端っこは樹液でまた接着剤のように結合させた。

 繰り返し洗って使える少し厚手のビニール袋っぽい仕上がり。


 ラップスライム製の絞り袋も一瞬考えたけど、円錐形の繋ぎの部分でどうしようって困ったのだ。



 先日バドミントンの納品も来た。

 なので今度の騎乗部の遠乗りのおやつに生クリームのホールケーキとバドミントンを持っていく予定。


 * * 


 騎乗部部室内。

 ラナンは部屋の隅に待機している。


 今日の私のコーデは騎士風の騎乗服にポニーテール。


「今日も騎乗部内でどこかに行くのか?」

「はい。広い野原とか、平地が良いです。 少し運動をするつもりなので」

「騎乗が運動ではなく?」


「バドミントンと言う運動というか、遊びが出来るものです」


 私はラケットとシャトルを出した。


「これで?」


「はい。このラケットでこの先の丸い羽の付いたシャトルを打ち合うのです。

私の場合は人と勝負をするより、出来るだけラリー、ええと、シャトルを地面に落とさないように相手と長く打ち合いたいのです。

まず、私がラナンとやってみせますので、興味があったら一緒にやってみましょう」


 校庭でやっても良いものだけど、私は目立ちたくないので騎乗部の活動として翼猫で外部の平地に移動した。

 そしてなるべく草の生えて無いスペースを選んだ。 土の上。


 ついて来たのは殿下とエイデンさんと、他、騎乗部のワイバーン組の二人組。


 騎乗部は馬に乗る人もいるから、ほかの竜騎士コースの人達はそっちとも交流会というか、お茶会をする為に残っていた。

 乗馬の方は私以外にも令嬢が数人居るからね。


 * *


 ラナンと私でラケットを持ち、シャトルを頭上少し手前に放り投げてラケットで打った。

 少しの間、軽い打ち合いをしたが、私がうっかりミスで落とした。


 今度はシャトルを放り投げず、左片手で掴んで、右でラケットを握って下からポンッとラナンの方向に打ち上げる、またしばらく打ち合い。


 今度も私がうっかりシャトルを打ち返し損ねて終わりとなった。


「返し損なったけど、楽しい! やっぱりラナンは運動神経が良くていいね」

「申し訳ありません、我が君。私の打ち返す場所が悪かったのでは」

「私の集中力が途中で切れたのよ、遊びだから気にしないで。久しぶりだったし」


「それ、楽しいのか?」


 見物していた殿下に問われて答える。


「男性にはラリーだけじゃ物足りないかもですね。一応本来のルールも簡単にも教えておきます。

バドミントンは、ネットを挟み、決められた枠内、範囲内で1対1のシングルス、もしくは、2対2のダブルスでシャトルを打ち合う競技です。

得点方法はシャトルをネットを挟んだ反対側の相手陣地のコートに落とすと得点が入るというもの。

ざっくり言うと、先に30点取った方が勝ちって事でいいと思います」


「ここにはネットも枠も無いが」


「じゃあ、地面に棒で線を引きます。

……真ん中、ここにネットが有ると思って下さい。

枠は、自分の陣地はここまで」


 私はちょっと良い枝ぶりの棒でガリガリと地面に線を引いていった。

 お父様のインベントリにあったコレクションの乾いた薪にもなり得る棒を、一本貰っていたのだ。

 10本くらいあるって言うから……。


「ふむ」


「私は少し疲れたので、ギルバート殿下はエイデンさんとやってみますか? 

体を鍛えてる騎士があまりに力いっぱい打つと道具が壊れかねないので、ほどほどの力で打ちあって下さい」


「じゃあ、やってみるか。 先に30点取ったら勝ちなのだな」

「はい、頑張って下さい」


 バドミントンセットはまだあるので、私とラナンのラリーを見学していた騎乗部の二人にも渡してみた。


 結果は……わりと白熱してた!


「これはなかなか、楽しいな。 エイデン、次は俺が勝つぞ」


 男性陣は運動をして暑くなったのか、上着を脱いで腕まくりをした。

 筋肉質な腕がかっこいい。


 私も肌に触れる春の陽の暖かさを、もっと肌で感じたいけど、女性がブラウスを腕まくりしたら、はしたないって言われるかな。

 


 ──それにしても、接待バドミントンで殿下に勝たせるかと思いきや、普通に勝っているエイデンさん。

 私は思わずこそっとつっこんだ。


「あの、殿下相手に勝ってしまって良かったんですか?」

「わざと手を抜く方が失礼かと」


 ……なるほど。



 私は野の花の咲く原っぱに移動して、インベントリからテーブルセットとケーキセットを出した。

 春の風が甘い香りで鼻腔をくすぐる。


 ケーキの他には一晩冷蔵庫で寝かせて来た、氷入りデトックスウォーターも用意した。


 水に果物や野菜やハーブを潰したりせず、そのまま入れてエキスを加えたドリンクである。

 普通の水より美味しいし、美容効果も有る。

 綺麗なガラスの容器から透けるフルーツが映えて、前世では海外セレブから流行りが伝わったんだったか。

 うろ覚え……。



「じゃあ勝負に勝ったエイデンさんには、今日のおやつのケーキを少し大きめに切ってあげますね」

「え、良いのですか? 私の方を大きくなんて」


 ちらっと殿下の様子を窺うエイデンさん。


「俺は負けた。其方は勝者として堂々と受け取れば良かろう」

「では、遠慮なく」


「今日のおやつは苺と生クリームのケーキです」


 じゃーん! ホールケーキである。


「ほう、綺麗だな」

「「うわ! 美味そう!」」


 竜騎士コースの二人もケーキに反応した。


「はい! こっちは俺が勝ちました!」


 騎乗部仲間の男子も勝負がついていたようだ。


「じゃあ、あなたもケーキ大きめに切ってあげます。ラナンも」

「いいえ……私は」


「いいから。いいから。

ラナンも貰わないと、ほかの人が気にされるかもしれないでしょ」


 そう言われてはラナンも引き下がるしか無かった。


「この苺と生クリームケーキ、見た目が前より華麗になっていますね。

クリームの部分がくるくると渦を巻いていて」


「そうなんです、先日ようやく先がギザギザの口金を作ったもので」


「セレスティアナ様、とても美味しいです」


 勝者のエイデンさんが一番に食べた。まあどうせ毒見でそうなるけど。


「見栄えも進化させるとは、流石だな。セレスティアナ」

「はい。とても綺麗で味も美味しいです。我が君」


「俺達もついて来て良かった〜〜! 今日もおやつがめちゃくちゃ美味しい!」

「負けたけど、ケーキが美味しいから悔いなし!」


 殿下達も騎乗部の二人も、ケーキとバドミントンを気に入ってくれたみたいで良かった!

 


 * 


 学院に戻らず、今日は直帰。

 私は教会の転移陣付近で帰り際、殿下に箱に詰めたお土産を渡した。


「ギルバート殿下。これ、お留守番組の側近さん達の為に用意したお土産のきんぴらです。

ピリ辛なので、お酒とも合うかもしれないと伝えて下さい」


「!! ありがとう! 助かった」

「ああ! セレスティアナ様助かります! ありがとうございます! 本当に!」


 助かった? 

 殿下とエイデンさんはお留守番組に嫉妬でもされていたのかな?

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