第192話 翼猫と騎乗クラブ
「私、騎乗部に入ります」
朝イチの教室で宣言した。
「セレスティアナ! 本当か!?」
「ええ。アスランに乗って野苺狩りに行きたいので。春が終わる前に」
「の、野苺狩りの為に?」
「他にも有ります。 ペットはダメでも騎獣なら学院に連れて来ても怒られないらしいので」
「ああ。それは確かに」
「あ! オリビア嬢。おはようございます」
「おはよう」
教室の入り口でオリビア嬢を見つけたので、私と殿下から挨拶をした。
「おはようございます。殿下。セレスティアナ嬢」
私は窓際の一番後ろの席を今日もゲットしたので、前をどうぞのジェスチャーでオリビア嬢を誘導した。
隣りは殿下だからだ。
オリビア嬢は後ろ向きになって話をして貰う事になる。
「お身内とチョコと鯉のお話は出来ましたか?」
「ええ、両親も兄も是非にと。手紙も預かってまいりました」
そう言ってオリビア嬢は手紙を鞄から出して来たので、私はありがたく受け取った。
「それは良かったです」
私は上機嫌で微笑んだ。
「おはようございます殿下。セレスティアナ嬢」
挨拶の声が聞こえて振り返ると、次々に教室に入って来る令嬢や令息が挨拶をしてくれた。
「おはようございます。皆さん」
「皆、おはよう」
一通り挨拶が終わると、各自それぞれ好きな席に散らばった。
私は殿下に向き直り、先程の会話を再開した。
「今日はラナンと弟の翼猫のブルーも来たので、早速王都周辺の野苺狩りに行こうと思います」
「え! もうか!? 早いな」
「問題があるなら、ライリーの方で地元の皆と行きますが」
「いや! 大丈夫だ! 竜騎士に聞いたが、教会近くの森に野苺スポットはあるらしいし」
ラナンは教室の近くの侍従待機室にバスケットを持って待機している。
バスケットの中にはアスランとブルーとリナルドが小さくなって入っている。
バスケットを開けたら可愛いが詰まっているのだ。
ちなみに殿下の側近のエイデンさんは王族の護衛だからか、教室の後ろに保護者参観のように椅子が用意されているから、そこに座っている。
「まあ、セレスティアナ様は騎乗部なのですね」
オリビア嬢は私が書いている入部届けを見て言った。
「ええ。オリビア嬢はクラブを決めたのですか?」
「読書クラブです」
「素敵ですね。 どんな本を読まれるのですか?」
「生物の本とか……れ、恋愛小説なども」
「良いですね! 私も好きですよ。そういうの。どちらも!」
恋愛小説が好きなら素質がありそうだ。
発注したクリスタルの納品が来たら
乙女ゲームのテスターでもやって貰おうかな?
感想が聞きたい。
その時、予鈴の鐘が鳴った。
おしゃべりタイムは終了。
しばらくして教師が教室に入って来て、クラブの入部届けを集めたので私も提出した。
そして一限目の授業が始まり、午前の授業を受けた。
* *
ランチタイム突入。
昼はお弁当を殿下とエイデンさんとラナンの分も用意して来た。
ラナンは同席して食事をしないので、授業中に別室での早弁を許可してた。
ライリーの城で作って来たのは鴨肉のパッパルデッレ。
材料はオリーブオイル。胡椒。セージ1束。トマトソース。赤ワイン。玉ねぎ。にんじん。ほうれん草。
細い麺が作れるパスタマシーンはまだ開発していないので、平打ちでリボンのように幅広麺にしたパッパルデッレを使用。
幅広い麺はくっつきやすいので、ほぐしながら茹でる。
皮に付いている鴨油は弱火でゆっくり抽出したので、旨味たっぷりジューシーな鴨肉のパッパルデッレが出来たのだ。
教会近くのガゼボで春の花壇や教会を眺めながらお弁当。
お弁当はインベントリから出したので、温かいまま、出来立て状態で提供できる。
「ギルバート殿下。エイデンさん。お二人とも、お弁当をどうぞ」
テーブルの上にいわゆるパスタ弁当のような物と果実水を出した。
「ありがとう」
「ありがとうございます。いただきます」
まずエイデンさんが一応形式だけでも毒見する。
「セレスティアナ嬢。とても美味しいです」
それから殿下も食べる。
「……うむ。 鴨肉か。肉もジューシーでソースも美味しい」
「お口に合ったなら良うございました」
「そうだ。クラブに野苺狩りの申請も出しておいたぞ」
「ありがとうございます。楽しみですね」
「ところで、そちらの、ラナンと言ったか、食べないのか?」
殿下がガゼボのそばに立っているラナンに声をかけた。
「もう済ませております」
「食事時に同席をしないので、授業中に食べるように先に渡していたのですよ」
「そうなのか。なら良いが」
*
騎獣クラブで歓迎を受けて、竜騎士コースの皆様と教会裏手の森までご一緒する事に。
春風を感じながら青空の中を翼猫で飛ぶのは気持ち良い。
私とラナンは翼猫。
殿下や他の竜騎士コースの人はワイバーンで教会の裏手の森まで飛んだ。
殿下の側近のエイデンさんは竜騎士コースの人が同乗して乗せてくれている。
空を行くので障害物も無く、あっという間に到着。
事前情報通り、泉の近くに野苺や木苺を見つける事が出来た。
籠を持って可愛い野苺や木苺を摘んでいく。
リナルドも小さい体で健気に採ってくれてるし、ラナンも私の隣りで採ってくれてる。
せっせと野苺を摘む私の姿をクリスタルで撮影してる殿下。
カメラマンになってしまっている。
被写体が良すぎるせいか。
他の竜騎士コースの方々も「可愛い〜〜」とか言いつつ、微笑ましい雰囲気で我々を見守ってくれて居るけど。
君達も野苺や木苺を採りなよ! こっちを眺めてないで!
「見てばかりの人! 野苺や木苺摘むのを手伝ってくれたらおやつの甘味のアイスを食べさせてあげますよ!」
「「はい! 手伝います!」」
おやつの甘味と聞いてようやく本気を出す男達。
おかしいな、野苺も木苺も甘味なのに。
特別珍しく無いからかな?
ふいに、騎乗部の先輩っぽい人がラナンに近寄って声をかけて来た。
「ラナン殿、とてもお綺麗ですね。婚約者とかはもう、いらっしゃるんですか?」
スタイル抜群で綺麗なラナンに目をつけたっぽい。
他の人達もあいつ行きやがった! みたいな反応してる。
マジで、ものすごくストレートに聞いて来るじゃないの!
「私の存在は我が君、セレスティアナ様の物です。婚約者などいません」
「数の少ない貴重な女騎士を、主から引き離す要因になりそうな行為は止めるんだ。
男性騎士がついて行けない場所も同行出来るんだぞ」
ラナンの言葉の後に間髪入れず、この場で一番身分が高い王族の殿下が釘を刺した。
「いえ、なんと無く聞いてみただけです! 殿下! 深い意味はありません!」
「そうか。ならばいい」
社交辞令ですよ! みたいに慌てて取り繕う部の先輩。
即、恋愛禁止令になっちゃってるけど、普通の人間に見えても、実はヒトガタだもんなあ。
好きになっても寿命とかも違いそう。
男衆を動員してしばらく後。
「かなり集まりました。皆様ご協力ありがとうございます」
籠に集まった艶やかで可愛い赤い野苺と黄色い木苺。
急遽、泉を眺めながらのピクニック。
敷物を敷いて、その上に座り、インベントリから皿とトレイとスプーンも人数分出した。
ライリーの城で作って来ておいたバニラアイスをお皿に盛って、水で洗った野苺と木苺を添えたものを振る舞った。
うーん! 可愛い! 映える!
「舌の上で溶けた」
「このアイスと言う甘味、とても美味しいですね!」
「竜騎士の先輩に聞いたこれが噂のアイス! 本当に口の中で溶けた!」
「やったぜ、この奇跡の味を友達に自慢しよう」
もちろんバニラアイスはとても美味しいのだが、「野苺も美味しいでしょ?」
男性陣があまり苺に言及しないのでつい突っ込んで聞いてしまう私。
「野苺も甘くて美味しいし、木苺も優しい甘さで美味しいですよ」
「「はい!」」
「美味しいですね!」
「……皆様が可愛い野苺にも木苺にもたいして執着しないなら私が貰ってもいいのでしょうか?」
「「アイスを貰ったので、どうぞ! どうぞ!」」
「ありがとうございます」
左様か……。 私はとりあえず礼を言った。
苺は帰って家族と食べようっと!
アイスに夢中で自然の恵みの印象が薄くなってしまったようだった。
野苺、木苺が弱いんじゃない。
アイスが強すぎるんだ。
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