第191話 コイとオリビア

 殿下と食堂で昼食をご一緒した。

 昼からステーキとか食べちゃった。わはは。


 その後、殿下は用事が有るらしく、一旦別行動になった。


 まだ昼休みは終わっていないから、私は本日のお供のリーゼと図書館まで行こうと廊下を歩いていた。


 ふと、視線を感じると思ったら、女の子が私を見ていた。

 悪意的なものは全く感じられない。

 とりあえず挨拶でも。


「こんにちは」

「こ、こんにちは! セ、セレスティアナ嬢!

わ、私はリーバイ子爵家のオリビアと申します。竜騎士ジェイクの妹です」


 めちゃくちゃ緊張した感じで声をかけてくれたのは、なんと竜騎士ジェイク様の妹さん!


「オリビア嬢……竜騎士のジェイク殿に、こんなに可愛いらしい妹君がいらっしゃたのですね。

ジェイク殿にはいつも大変お世話になっています」


 ジェイク殿は畑の側に獣避け対策としてワイバーンのおしっ◯をかけてくれる、ありがたい人だ。


「ええ!? 私など、たいした事はありません。

セレスティアナ嬢こそ、天使みたいに綺麗で……。

あ、あの、突然申し訳ありません。

ピクニックでも話しかけたかったのですが、タイミングを逃しまして」


 この子、もじもじと赤くなっててマジ可愛い。


「オリビア嬢。何かあれば気軽に声をかけて下さいね」


 私は怖がらせないように、フレンドリーな笑顔を作ってそう言った。


「ご迷惑で無ければ、今からお茶をご一緒しても良いでしょうか?」

「勿論どうぞ。仲良くして下さると嬉しいわ」

「こ、光栄です。 嬉しいです!」


 凄い興奮状態だ。


 お茶する為にオリビア嬢とリーゼを連れ、談話室に来た。

 学院の世話係が紅茶を入れてくれた。クッキーなども用意されている。

 リーゼは護衛らしく扉近くに待機した。


 広い談話室なので他にも生徒達がいて、チラチラとこちらを気にする人もいた。



 とりあえず目の前のオリビア嬢に集中して、適当に話題をふってみよう。


「オリビア嬢は普段、お館では何をされて過ごして居るんですか?」

「お庭の鯉など眺めています」


 鯉ですって!?


「鯉が居るんですか!? 素敵ですね!」


「兄が遠くからワイバーンで鯉の卵を運んで来て、育てて増やして居るんです。

今は貴族間で金魚が流行し初めてるようですが、うちの鯉も色んな色があって綺麗なんです」


「もしかして赤や金色がいますか?」

「ええ、よくご存知ですね。赤も金色も黒もいます」


 やった! 鯉だ!


「うちのチョコレートと鯉の卵を交換致しませんか?」

「チョコレート……兄がとても美味しかったと言っていたあの……」


「ちょうどチョコがあります。おやつにどうぞ」


 私はリーゼに預けていたバスケットから箱詰めのチョコを出した。


「ありがとうございます。いただきます」


 オリビア嬢は一つつまんで口に入れた。


「……わあ! 美味しい! 甘くて濃厚で、口の中で溶けてしまいました!」

「ええ。ライリーの特産品です」

「うちも鯉を特産品にするつもりなのです。 こんな素晴らしい食べ物と交換で良いのでしょうか?」


「鯉は鑑賞用としても素敵ですが、食べる事も出来るではないですか」

「え!? あのお魚が食べられるんですか?」


「ええ、食べられます」


 しかも魚類としては薬効も高い方であるし、他にも使い道がある。水田で田魚として使える。


 環境に優しい農法、鯉農法が使えるのだ。

 

 農薬を使用せず、鯉を田んぼで養殖し、稲を栽培をする。

 鯉は泥を巻き上げる生き物だ。

 これが田んぼの中を泳ぎまわれば泥が撹拌され、雑草の生育と発芽を邪魔してくれて除草剤が不要となる。


 美味しいお米が栽培できる上に、鯉も食べられる。


 前世の地球でも昔に使用されていた農法みたいだけど、効率重視で農薬を使う畑が多くなり、廃れていったが、外国でも日本でも一部で再注目されてきていた。


 ただ、交渉を有利にする為に、この情報は一旦後出しにしておこうと思う。

 ごめんね。

 でもご両親も良い人で、もしうまくいったら何かで優遇したいとは思う。


「わあ! 食べる事も出来るって知りませんでした」

「ええ、鑑賞用として育ててる分は食べにくいでしょうが」


「両親と兄にも知らせておきます! チョコレートと交換して欲しいと」

「ええ、是非に。残りのチョコはお土産にして、お身内の説得に使って下さい」


「何やら楽しそうだな」



 殿下がエイデンさんと談話室に入って来た。

 用事は終わったのかな?


 私や周囲のソファに座っていた生徒も、席を立って頭を下げた。

 オリビア嬢も慌てて立ち上がって挨拶をした。


「で、殿下。リーバイ子爵家の娘。オリビアがご挨拶申し上げます」

「ああ。オリビア嬢か。 よろしくな。 皆楽にしてくれ」


 ハイ、みんな! 着席!

 私達も座りなおして会話を始める。


「ギルバート殿下。

今、オリビア嬢の所に鯉が居ると聞いて、ライリーのチョコと交換出来ないかうかがっていたのです」


「コイ?」

「ええ、鯉は綺麗なお魚ですが、食べられるのです」

「ほう。美味いのか?」


「良い水で育てれば、美味しいと思いますが、泥臭いと多分美味しくはないです。小骨も多くて」

「なんだ。 条件が難しいのか」

「でも民の貴重な食料になり得ますよ」


 そんな訳で今度は殿下も交え、お茶を一杯飲んだ所で、昼休みは終了となった。

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