第190話 それぞれのクリスタル試写会
王立学院は10歳から入学して18歳まで在籍可能。
(途中入学可)
グランジェルド王国は15歳で成人となるので、15歳で必須科目のテストを受けて全て合格出来るか、結婚をするならスキップで早期卒業も可能。
勉強や人脈作り、モラトリアムを望むならば婚約期間を長く取り、18歳で通常の卒業をする。
私は出来たらスキップで早めに卒業したい気がする。
今の所は……多分。
私はそんな事を考えながらライリーに帰宅した。
* *
「「ピクニックはどうだった?」」
まずは両親からのありがちな問いかけ──からの──、
「藤棚が綺麗でした」
「そう。良かったわね。それで、お友達は出来たかしら?」
うっ! お母様からの辛い質問。
「最初、殿下は私の側にいました。
でも殿下とお茶したいと言う令嬢がいたので私は席を外しました。
その間、ワミードのモーリス殿と会いましたよ」
「……女の子の友達は出来なかったと言う事かしら?」
「ええ、まあ……」
はあ。と、お母様から、ため息を吐かれた。
す、すみません。不甲斐無い娘で。
「まあ、これからだろう。 ティアは可愛いから何とかなるさ」
お父様……前向きなコメントをありがとうございます。
『ティアはキラキラした王子様を独り占めしてる令嬢として、嫉妬の視線を向けられてたから仕方無かったよ』
リナルドがフォローをしてくれる。
「ティア。
ではもしかして、その殿下とお茶をご一緒したいと言う令嬢から、酷い事を言われたりしたの?」
「たいした事はありません。
相手も子供ですからまだまだ感情の制御が下手なようです。
要らぬ摩擦を起こさないよう、殿下とのお茶の時間を一杯分くらい譲りました。
まあ、あれですよ。そのうち、なるようになりますよ」
私は希望的観測を述べた。
「そう。焦っても仕方ないものね。お疲れ様」
「あ! 殿下から金魚鉢と餌と水草の種を追加でいただきましたよ!」
「そうか。無事に育つといいな」
「とりあえず、ぎゅーってしてください!」
お父様の目の前で両手を広げ、ハグを希望する。
「うん? 突然の甘えたさんだ」
そんな事を言いつつも、お父様はちゃんと私を抱きしめてくれた。
それから私を抱え上げて言った。
「花畑の記録は撮って来たのだろう? 晩餐時に一緒に見よう」
「はい!」
そして晩餐の時。
クリスタルで記録したピクニック映像を流しつつ。
「まあ。
この花園には以前行った事がありますけど、お花の種類が増えているのね。
本当に綺麗な紫色の花」
お母様が藤棚を見て感心している。
「そのうちお母様にあの藤の花モチーフの髪飾りかイヤリングを作りますね」
「あら。私に?」
「はい。お母様も紫色がお好きでしょう?」
「シルヴィアになら、似合うだろうな」
「ありがとう。ティア」
そう言ってお母様は女神のように美しい笑顔を見せてくれた。
「ところで今夜はお母様のクロエと一緒に寝ても良いですか?」
「私はかまわないけれど、まさかアスランに飽きたの?」
「あんなに愛らしいのに全く飽きるはず無いですよ!
ただクロエはお母様に似た香りがして、一緒に寝てるとお母様に包まれているようで安心します」
「あら……」
お母様は口元に手を添えてお上品に驚いた。
「シルヴィアに似た香りだと?」
「お父様はクロエに抱きついた事が無いのですか?」
「無いな」
「あれ、そう言えばお父様のシュバルツは?」
今お父様の側にいない。
ちなみにお母様のクロエはよく城で働いてる使用人達の子供達の相手をしてくれて、大人気癒し系アイドル状態だ。
可愛過ぎて大好評。
デメリットがあるとしたら子供が親と家に帰る場合、「いやー! うさちゃんと離れたくない!」と泣かれる事だ。
「シュバルツは体を小さくしている時は庭園の木の枝の上にいて、大きい時は城の屋上にいる事が多い。
外が好きなのかもしれない」
「お父様。それはもしかして、城を守ってくれているのでは?」
「もしかしたら、そうかもしれないな」
『風を感じるのが好きなのも有るんだけど、基本的に城を守っているんだよ』
「わあ! えらい〜〜! 良い子!」
正解はテーブルの上で苺を食べていたリナルドが教えてくれたのだった。
〜 (ギルバート殿下サイド) 〜
晩餐後の夜。
王城のギルバートの私室にて。
王子と側近は一つの大きな大理石のテーブルを囲んで座っている。
「殿下。我々にもお土産を分けていただけるんですか?」
「リアンの言う通りに金魚鉢とか贈って喜ばれたからな。
これが一口サイズになったチョコレートだ」
ギルバートは花園の入り口付近で待機していた側近達の為に、テーブルの上にお土産を置いた。
中身は綺麗な紙の箱に敷き詰められたチョコレートだ。
主たるギルバートが食べても良いと促すと、皆、素直に手を伸ばした。
「これは美味しい。癖になりそうな味ですね」
「……はあ」
ため息をつくギルバートに側近は気使わしげな声をかけた。
「殿下? どうなさったんですか? ピクニックは楽しくありませんでしたか?」
「ピクニックは、部分的にはとても良かった。でも邪魔も入った……」
ギルバートは天井を仰ぎながらそう語った。
「さらに殿下は、令嬢に黄色い花咲く花畑に行くのに誘われなかった事に、ガッカリされているんだ。
記録の転写複製はさせていただけたんですよね?」
「ああ。今映してやる」
ギルバートの部屋の壁に設置されている白いスクリーンには、菜の花畑とセレスティアナ達の映像が大きく映し出された。
それを見たギルバートの側近達はそれぞれ感じた事を話す。
「黄色い花があんなに沢山……綺麗ですね」
「あの菜の花とか言うのは油が取れるらしい」
「へ──、それは良いな」
「花畑とエルフ、めちゃくちゃ絵になるな。流石の美しさ」
「あの水車も見映えが良いじゃないですか」
「ほう。あの綺麗な花の絵の描かれた箱、遊山箱と言う物。
良いですね。景色の良い花畑の側で食べ物の容器まで気を使っていて」
「令嬢のふわふわの大きな猫に寄り添って寝る姿がなんとも愛らしい」
「……ん? 貴族の令嬢があんな外で無防備に寝ても良いものか?」
「その為の護衛だろう」
「……お前達、知っているか?」
やおら問いかけるギルバート。
「殿下。何をですか?」
赤茶髪の側近のエイデンが首を傾げる。
「あのふわふわのアスランと言う猫。
何故かセレスティアナと同じような香りがするから、くっついて寝ると、その香りに包まれて安らかに眠れる」
「えっ!? それは逆に目が覚めてしまうのでは!?」
「おい、ブライアン。品のない想像は止めろ」
「はっ! すまない。つい……」
ブライアンはギルバートの最側近のエイデンに叱責されたが、ギルバートの方は少し頬を染め、ため息をついただけで特に怒りはしなかった。
「ああ──。早くライリーで生活したい」
「せっかく同じ学院で生活出来るようになったばかりではありませんか」
「それはそうなんだが……」
「夏休みにはライリーの海にも行くのでしょう?」
「ああ。今は学院で重なる授業とランチタイムと海を生き甲斐に生き延びる……」
ギルバートはそう言って長椅子に突っ伏し、クッションを抱きしめた。
「それにしてもこのナッツ入りのチョコ美味いですね。
無限に食べられそうです」
「ちょっと待て、セス。お前一人で食い過ぎ!」
わあわあと年甲斐もなく賑やかに騒ぐ騎士達。
「ついでに言うがあの猫、朝になったらぷにぷにの肉球で頬を優しく押して起こしてくれる、めちゃくちゃ可愛いくて最高の起こし方をしてくれるんだぞ! 俺も早くあの生活になりたい!!」
「殿下。別にライリーの騎士全てが愛らしい猫霊獣を貰える訳じゃ無いじゃないですか」
「待て、チャールズ。それは令嬢と結婚して共に寝たいと言う意味なのでは?」
「「あっ!!」」
「あっ! じゃない! お前達、察し! みたいな顔をするな!」
ギルバートは自らの失言に気がついて、今度こそ顔を真っ赤にした。
このようにそれぞれ言いたい事をぶちまけた会話をしつつ、王城の夜は更けていった。
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