第188話 別れの季節
「ただいま帰りました」
転移陣近くのガゼボでお母様とリナルドが私を待っていたので帰宅の挨拶をした。
「お帰りなさい。ティア。学院生活初日で少し心配だったから、果物と美しいレースとお茶を祭壇にお供えしてお祈りをしていたら、入学祝いと書かれたカードと箱が出て来たの。
引き換えのように果物とレースとお茶は消えました」
「わあ! 私の為にお祈りして下さったのですか!
ありがとうございます! そして贈り物が来たなんて凄いですね!」
本当にびっくりだ。サプライズプレゼントだ。
護衛騎士のリーゼも驚いてる。
『入学祝いなら確実にティア宛だ。
神様は見てて面白い子が好きだからさ。とりあえず、開けて見たら?』
み、見てて面白い!? 私の事!?
ま、まあいいわ。とりあえず確認。
「うん。あ! 懐中時計!……と時計の設計図とバラバラのパーツと魔石まで」
「時計。砂じゃ無い時計なのね。
レースや果物やお茶と引き換えにずいぶん立派そうな物を頂いたわね」
私がまともな時計を欲しいと思ったから!?
でも入学祝いに時計って父親か親戚みたいだわ。 いや、そんな考えは不敬よね。
申し訳ありません!
「えっと、動力は……魔石のようですね。
この時計は広めた方が便利ですね。砂時計よりも時間が数字で分かりやすいので」
予備電池ならぬ魔石までが有る。
お優しい。
ミシンと同じくバラバラパーツも有るので、真似て作れば良いわけだ。
「どこに発注して量産すべきかしら。
とりあえず城内には大きい時計と、取引先や知り合いには渡しておきたいですね。
また新しいドワーフを探しましょうか」
「今までお願いしているドワーフの親方は忙しいの?」
「護衛騎士の剣の依頼も終わったばかりで休みも欲しいでしょうし。
ミシンパーツと馬車のパーツ作りもありますし」
お母様とそんなお話をしていると、お父様とコーエンが来た。
「お帰り。ティア」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま帰りました。お父様。
そしてコーエン。私の最後のわがままを聞いてくれてありがとう」
老執事コーエンの引退日、私の誕生日を見届けた後すぐの予定だったけど、何とかお願いして学院入学後の今日まで引き延ばしたのだった。
入学日のお祝いの晩餐をお別れパーティーにはしたくないと言われ、ここでお別れとなる。
最後になるから、殿下には誕生日プレゼントに金魚の卵を貰ったとか、明日は学院主催のピクニックがいきなり有る報告などをしていたら、静かで優しい声でコーエンが言った。
「本当にようございました。
そして、今までありがとうございました。
このライリーで執事としてお仕え出来て、光栄でした」
「コーエン。こちらこそありがとう。今までご苦労だった。体を労えよ」
「ええ、ジークの言う通り、体を大事にしてね。城にはいつでも遊びに来てくれても良いから」
両親からも労いの言葉が贈られた。
私も今は泣くまい、笑顔で送ってあげないと。
「コーエン。本当に今までありがとう。これは餞別の御守りと私が作ったポーションよ」
コーエンは私から、首から下げられる御守り袋とポーションを受け取った。
そして執事仲間からは花束を貰い、深々と頭を下げてから、馬車に乗り込み、荷物と共に去って行った。
春は……別れの季節でも有るから本当に切ない。
「さあ、晩餐前にお風呂に入って着替えていらっしゃい」
お母様に言われたように、私はまずお風呂に行った。
私は頭からお湯をかぶりながら、コーエンとの別れを惜しんでひっそりと泣いた。
最後に、抱きしめるなり、手を握るなりすれば良かったかな?
でも、そんな事をしたら感情が制御出来ずに大泣きしてしまったかもしれない。
──だから、きっとこれで良かった……。
お風呂から上がると、殿下からの贈り物の壺が部屋に運びこまれていた。
ひとまず大きな壺に金魚の卵を入れ変えておいてと執事に指示を出した。
後から固める樹液で水槽を作って用意するか、ガラスの水槽が有ればいいな。
池を作れるならそれも良いけど。
餌も用意しないと。
ブクブクと酸素を出す石も有るし、これは……成長が楽しみ。
金魚の卵を見てると、笑顔になれた。
誕生日プレゼントを貰うタイミングが少しずれてたおかげで、だいぶん慰められた。
……そう言えば誕生日プレゼントは直接渡したくて、間に合うようにこちらに送りつけて来なかったのかな。
もしかして、喜ぶ顔を見たくて直接渡したかったとか。
殿下のやる事だし、ありうるな。と、私は思った。
可愛い人なんだ……。
料理長に指示を出してピクニック用のお弁当を用意して貰う。
お弁当には唐揚げに卵焼きにミートボールにウインナーにベーコンとほうれん草のソテー、ミニトマトがおかずのおにぎり弁当。
ハムチーズレタスサンドとカツサンドと卵サンド。ウインナー。コロッケ。ブロッコリーとミニトマト。
おにぎり弁当とパン系の二種類。
おやつはスイートポテトと一口サイズにしたチョコレートを箱に沢山詰めた物。
飲み物は紅茶とジュースと水とか亜空間収納に入ってる。
お弁当は殿下に好きな方を選んで貰うけど、側近のエイデンさんと分け合えば両方とも食べれるとは思う。
晩餐の後にピクニックのプリントを両親に見せた。
ピクニックの場所の地図とか、食事処のメニュー。
そして、警備員が黄色い腕章を着けてどの辺に何人配備されているとかの情報も有る。
貴族が多くいるから護衛は必須だよね。
明日の私の護衛騎士はラナンである。
今夜は翼猫のアスランを私より少し小さいくらいの大きさにして、天蓋付きベッドに入れた。
ふわふわの抱き枕のようにして、一緒に眠って貰った。
だんだん瞼が重くなる……。
本当に、暖かい……。
まるでお父様やお母様の腕の中にいるみたいだった。
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