青き春の章

第186話 王立学院

 王立学院。


 10歳になったから学院に通わねばならない。

 お父様と離れてる時間が辛いから帰宅部で、なるべくすぐに直帰したいなどと考えている。

 でも帰り道に買い食いしたくなる店があったら、そこにはたまに寄るかも。


「……行って来ます」

「行っておいで。ティア、制服姿も可愛いのに不服そうだな?」

「これも社交の一種なのよ、ティア。諦めて行ってらっしゃい」

「はい……」


 王都の教会の転移陣から学院までの道。

 そこには桜並木の代わりにアーモンドの花並木があったので、そこだけは良かった。

 アーモンドはバラ科サクラ属の花なので桜に似た可憐な花だ。


 アーモンドの花を見ながら花吹雪の中を歩く。

 春風を纏うように歩くと制服のスカートがひらりとなる映えシーンのはずなんだけど、自分以外に制服女子が目の前を歩いて無いのが無念。


 一応貴族だし、馬車も呼べたけど、なんとなく最初は道を覚えようと、護衛騎士と一緒に歩いている。

 暖かい日で気持ちが良いし。


 馬車移動をしていないのが貴族らしくは無いからか、道行く人もおや? って顔して制服姿の私を振り返る。


「お嬢様、綺麗な花の並木道ですね」

「ええ。道はとりあえず気に入ったわ」


 お供は学院に一人だけ連れて行けるから、今日はポニーテールの女騎士のリーゼを連れている。

 髪色はオレンジ系だ。

 彼女はエンチャントの強化魔法がかけられるスキルを持っている。


 王都の王立学院の前まで来た。

 貴族の通う学院だけあって、立派な建物だった。


「おはよう。セレスティアナ」

「ギルバート殿下。おはようございます」


 見知った顔を見つけて少しほっとした。

 殿下の側にはいつもの赤茶髪のエイデンさんもいる。


 殿下も私を見つけ、花がほころぶような笑顔を見せてくれた。


「制服。なかなか似合っているな」

 殿下は明らかに、はにかみながら言っている。


「ありがとうございます。ギルバート殿下もお似合いですよ。

ところで、殿下は竜騎士コースなんですよね」


「そうだ」

「では、授業は全然別でしょうか」

「いや、重なる部分は有るぞ。お昼は一緒に食べないか?」

「食堂でしょうか?」


「今日の所はそうだな」

「分かりました。所で、小さな教会が学院敷地内にあるようですが、あそこには転移陣は無いのでしょうか」

「規模が小さくそんな大層な物は無い」


「では、もしや教会の近くにピンク色の花が咲いてたりはしないでしょうか?」

 某乙女ゲームみたいに。


「ピンクの花? チューリップやビオラならあったと思うが」


 流石にあれは無いか。サクラソウ。

 でもステンドグラスのような物は有るのでは?


「色付きガラスのような絵は?」

「あるぞ」


 ワオ!


「その絵はお姫様と王子様をモチーフにしてますか?」

「いや、普通に神様と天使だ。あそこでは聖歌部の者が歌ったりしている」


 そっかー。


「では伝説の木などは」

「伝説は知らないが敷地内に大きなイチョウの木なら有る」

「あ……! あれでしょうか?」


 私は渡り廊下の向こうに巨樹が見えるので指差した。


「ああ、あれだ。姉上情報だと秋はなかなか綺麗らしいぞ」


 そこって告白スポットじゃないのかしら。

 ──ともかく、後々噂が有れば聞けるでしょう。


 殿下と並んで歩いていたら、いつぞやの金髪巻毛のエイミル男爵令嬢が現れた。


 冬の狩りで、御守りの刺繍ハンカチを殿下に受け取り拒否されてた令嬢だったなと思い出した。


 邪魔な女ね! と言う風なガンを飛ばされた。


 でも流石に殿下の前にして暴言を吐く事はしなかった。

 なんとなく昔の少女漫画に出て来そうな意地悪ライバルキャラを思い出しつつ教室に向かった。


 魔力量測定と属性検査が有るらしい。

 水晶球が二つ教卓に並んでる。

 これに軽く触れ、女子と男子でそれぞれ分かれて計測するみたい。


 まず家門が下の者から。


 男爵令嬢は金髪なので属性なんだろ?って思ったらなんと錬金術らしい。

 創作系なんですか。

 へー! ちょっと感心していると、なんか凄いドヤ顔でこっち見てくる。


 最近になって操作可能なゴーレムの魔導具を作って売ってる家の子で、危険な鉱山発掘を代理でさせたり出来るらしい。

 やるじゃん。

 辺境伯より下の家門の割に強気な態度はお金が有るせいか。


 物作りと言えば私の作ってる乙女ゲームはもうじき完成しそうなのだ。

 天才錬金術師に板型クリスタルを量産して貰わないと。


 考え事をしていると自分と殿下の番が来た。

 殿下の水晶はかなり輝いた。

 うわ! 眩しい!


「ギルバート殿下の属性は風と水です」

 だよね。知ってる!


 私も手の平で水晶に軽く触れる。

 眩く光ったと思ったら、ビキっとヤバめな音がして砕けた。

 おお、水晶よ! 砕けてしまうとは情け無い!


「ああっ!!」


 検査技師らしきおねーさんが悲鳴を上げた。

 周囲もざわつく。


 漫画やラノベでよく見る展開だ。ベタ過ぎる。

 極端に魔力が多い者が触ると測定器が壊れるやつだコレ。


「……申し訳ありません。何故か割れました」


 私は一応謝罪した。


 でもこれ私のせいでしょうか? 弁償? いや、この水晶がやわいのよ。

 強度が足りない!


「私の属性は光と土と緑……植物の3つです」


 ざわわ。またざわめきが教室内に広がった。

 属性一つが普通らしいからね。


 結局水晶が壊れたので私は自己申告をしたのだった。


「は、はい。代わりの水晶を持って来てちょうだい!」


 検査技師のおねーさんが慌てて後ろに控えていた助手っぽい人に指示を出した。


 私の後にはまだ侯爵令嬢と公爵令嬢が検査を待っているのだ。

 私は席に戻って着席した。


 席は好きな所に座って良いらしいので、窓際一番後ろに座った。

 前世の漫画アニメでは居眠りをする運動部エースの席と言われていた気がする席だ。

 私は帰宅部ですけど!


 殿下は身分的になんとなく前に座るかと思ったけど、私の隣に座った。

 まあ、冷静に考えると最前列センター付近とか教師に近すぎて嫌よね。


 残りの上級貴族の令嬢も流石にそこそこ光らせていたようだ。

 新規入学した子を集めたこのクラスは少し女子のが多いみたい。


 女子はなんか身分が高い方は前の方か真ん中あたりの席に座っている気がする。

 別に良いけど。


 魔力測定検査が終わって、早速算術の授業開始。

 早速実力を見る為かテストを配られた。


 教卓の近くに大きな砂時計が置かれている。

 あれで時間を測っているのか。

 余裕を残してサクサク終わった。


 時間が余ったので私は机に突っ伏して寝た。

 前世の学生時代と同じ事をやっている。


 しかし、自分で選んだんだけど、席が一番後ろで良かったと思いました。

 ──マジで。

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