第183話 妖精の花園と誓いの儀式

 空を飛ぶ時の対策。


 レザークの風スキルの力を借り、魔石に魔力を注いで貰った。

 イヤリングに目や顔に吹き付ける風を避ける魔法を仕込んだのだ。


 ゴーグルを作ってもいいけど、とりあえずイヤリングを四人分。

 両親と私とラナンの分。


 まあ、お母様はそうそう飛ぶ事も無いだろうけど、いつお父様と空のデートをしたくなるか分からないから。


 お母様と言えば、メイドがお母様の部屋ですっごく可愛いものが見られると興奮気味に言うので、記録のクリスタルを持って行って見れば、ウィルが大きくなった霊獣兎のクロエに体を預ける様にして、ふわふわ毛皮の絨毯の上で寝てるではないか!


 めちゃくちゃ可愛い〜〜!!

 ふわふわのもふもふ兎にくっついて寝てる!


 思わず私も撮影した。


「お、お母様もちょっとウィルの隣りに座っていただけませんか?」

 クリスタルを構えたまま、おねだりした。


「撮影するの? だったら後で私と交代してね」

「はい」


 私は美女と大きな兎と弟をしっかりと撮影した。

 可愛い! 至福。

 次にお母様と交代で次に私がウィルの隣りに座って撮影された。

「可愛い……」

 お母様が頬を染めてぽそりと呟いた。


 ──ええ。さぞ愛らしい絵が撮れたでしょう。

 私、容姿だけはSSRなので。


 殿下に猫タイプの霊獣の騎獣を手に入れた事等を手紙で報告した。

 絵も描いた。

 翼猫に乗る私の絵もデフォルメで描いておけば、どんなのか分かるだろうと思って。


 無論両親の分も報告はしておいた。

 特にお父様のグリフォンとか魔獣と間違えられて攻撃されないように。


 * * *

 

 しばらく霊獣と飛行訓練などをしながら日々を過ごし、殿下との約束の日になった。


 * * 


 転移陣から殿下といつもの側近達、竜騎士達と竜が移動して来て、

 私はお決まりの貴族風挨拶の後、たわいも無い雑談を始めただけだったはずだったのだけど……、


「こう寒いと春や夏の鮮やかな、光るような緑の葉っぱが恋しくなります。

 あの美しい緑色が見たくなると言いますか……」


「その光るような緑色なら鏡を見れば良いのではないか?」

「鏡……」

「其方の瞳の色だ」


 ……………


「も──! ギルバート殿下ったら! 何を言っているんですか!」


「年末の星祭りでは其方と会えなかったからな。

俺も早くこの新緑を見たいと思っていた」


 助けて! 何か私を見つめて急に甘いセリフを言って来る!!

 照れる!!


「そ、そんな事より、私の翼猫を見て下さい。可愛いのですよ」

 私は庭園におっきい猫が鎮座している方向を指差した。


「大きくてふわふわの可愛い猫だな。あれに乗れるとは……私があの子に触っても大丈夫か?」


「優しい子なので大丈夫ですよ」


 殿下がふわふわのアスランの毛を撫でた。


「ふわふわ……春になって暖かくなれば、共に昼寝などすれば気持ち良さそうだな」


「弟がお母様の兎と室内ですが、一緒にお昼寝しています。

とても可愛いので撮影もしたのですよ」


 私はクリスタルの記録を殿下に見せた。

 殿下が私のすぐ近くに顔を寄せてクリスタルを覗き込んだ。


「ほう。確かに愛らしいな」


「寒い中、外での立ち話しはその辺で止めて、そろそろサロンでお茶でも飲みつつ移動スケジュールの話を致しましょう」


 アスランは手乗りサイズに戻して、我々はお父様の言う通りにサロンに移動した。


 私はドキドキし過ぎて、寒さを忘れていたのだった。


 * *


 サロンで打ち合わせの後、軽食を食べてから出発となった。

 お父様はグリフォン。私は翼猫。護衛騎士と竜騎士達。

 殿下はワイバーンに乗って妖精の花園のある森へ向かった。


 お母様は城の守りにアシェルさんとお留守番。


 * *


 風を切って翼猫と冬空を飛んだ。

 リナルドは私のマントの下の胸元に入っている。カイロのように温かい。

 空を行くアスランの背中から見た地上は、白く輝く雪景色だった。


 現地まで半分位の距離を飛んだ所で一旦地上へ降りて、キャンプで一泊した。

 

 エアリアルステッキでテント内を暖かくして、ふわふわのアスランに寄り添って寝た。

 翌朝朝食を食べて、また森へ向けて飛んだ。


 到着した森も白く、氷の芸術品のようになっていた。


「一面の樹氷! または霧氷と言うのだったかしら。

木々が凍っています。とても綺麗な銀世界ですね」


「ああ、美しいな。

こんな見事な冬景色なのに春のような花畑があるとは誰も思わないだろう」


 皆、樹氷の銀世界にしばし見惚れたけど、本来の目的地は花畑なので、移動を開始した。


 リナルドの先導で白い森の中を進み、滝の前まで来た。


「わあ! 滝も凍っているわ!」

『かえって裏側が通りやすい、ほら、あの岩と氷の隙間から……』


 リナルドに誘われるまま、滝の裏へと踏み出した。

 青白く光る苔に覆われた洞窟を進むと光りが見えて来た。

 蔦のカーテンが有るけど、それを潜る。


 いざ、未知の領域! 妖精の花園へ! すると目の前に、


「わ──っ! 色とりどりの春の花が一面に! なんて綺麗なの!」

「これは凄いな。樹氷も見応えがあったが、真冬にこのような花園が」



 周囲の花畑にはオーブ型の輝きがシャボン玉のようにふわふわと飛んでいる。

 もしかしてこれが妖精なのだろうか。


 ここは洞窟の中だと思ったのに、青い空も見えて、木まで生えてるし、凍っていない。

 ここだけ春。

 不思議な空間と繋がっているのかな。


 美しく幻想的な花畑を早速クリスタルで撮影してたら、終わったらお父様が預かると言うので渡しておいた。


「リナルド、ここの花って摘んだりしても怒られない? 

花冠とか作ってもいい?」


『花冠と祭壇に飾る分くらいなら大丈夫だよ』


 やった──!


「花冠か。俺も作ってみる」

「じゃあ一緒に作りましょう」

「ああ」


 ──しばらく後。


「出来たぞ、セレスティアナ」

「上手に出来ましたね! 綺麗です!」


「ああ。これで剣をくれる其方にお返しが出来た」


 殿下は花が咲くように笑った。


 *


 ──水のように澄んだ瞳が、私を見つめていた。


「貴方が心から、そうなると願うのであれば、永遠、未来に渡って、私のこの誓約は真実であり、

いずれ来たるべき日に、貴方を私の騎士とすると、ここに誓います。

そしてその証として、この剣を授けます」


 私は殿下に両手で持った剣を渡す。


 殿下は両手で恭しく受け取った後に、腰に装備した。


 そして側に待機していたエイデンさんに視線を送った。

 彼から預けていた花冠を受け取り、私の頭に、ティアラのように飾った。

 その後、殿下は私の前で膝をついた。


「天の神も地の神も照覧あれ。

セレスティアナ・ライリーを我が命の主として、盾となり、剣となり、この命ある限り、

守る騎士となると、ここに誓約致します」


 天から輝く光が降ってくる。大地からは輝くオーラが立ち昇る。

 吹き込んで来た風は、木々の枝葉を揺らした。


『本当に天と大地の神に照覧されちゃったよ』

「真実だから、問題ない。俺の未来もこの誓いは変わらないから」


 私の方は、そうなると願うのであればと、逃げ道も残しておいてあげたのに……。

 本当に頑固な王子様だわ。


『ずっと開かれるのを待っていた恋文が、ようやく開かれたかのようなその瞬間を、神は祝福した』


「き、急に、何を言い出すの、リナルド。それって何かの詩?」

『そうかもしれないし、違うかもしれないよ』


「ま、まあ、とにかく、儀式は終わったので次は食事の後に温泉地へ行きましょう」


『この花の蜜が美味しいよ』


 ピンク色の花を摘んで、花のガクを外して吸うリナルドの姿を見て感動した。


「え!? 本当に? 妖精っぽい!」

「本当だ。甘い……」

「あ! 殿下、毒見もせずに」

「落ち着けエイデン。妖精が吸ってるから大丈夫だろう」



 その後、せっかくなのでお花畑でピクニック。

 花冠は大事にインベントリに入れた。


 部分的に花の咲いていない緑色の草の上に敷き物の布を敷いた。


 お父様が私の隣りに座ってクリスタルを返して来た。

 もしかしなくても儀式を撮影してたのかも。

 照れる。


 皆で仲良く食事をしてから、出発する事になった。

 インベントリから出して食べたのは、ほかほかのグラタンコロッケパンとハムチーズサンドとパンケーキ。

 おやつにレーズンをチョココーティングした物。

 飲み物はホットレモン。


 個人的にメープルシロップとパンケーキの組み合わせが妖精の花園に一番似合う気がした。


 皆、温かくて美味しいと言ってくれた。



 花園から出て、森に戻る前に、殿下の新しい佩剣には、以前私の贈った御守りの飾り紐がつけなおされた。


 これからはこの御守りと、ミスリルの宝剣が殿下の身を守ってくれるだろう。

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