第181話 霊獣誕生
新年1日目。
リナルドの言う通り、ウィルに霊獣の卵と唇を触れさせ、しっかりとキスをさせ、主認識後にラナンは卵を懐に入れた。
卵を温める3日間の開始である。
今年は新年の華やかなパーティーの代わりに、教会や神殿に寄付をして、参拝者が食べられるように、炊き出しのようなものを行って貰った。
ライリーの城の庭園でも同様に謁見に来た者達に、具の多い味噌汁とおむすびと漬物を振舞った。
寒い時には温かい物が良いよね。
*
朝から謁見の間にて、新年の挨拶をされ続けて忙しそうなお父様の短い休憩時間に、お茶と軽食を届けに行く役をメイドに代わって貰った。
お父様とリナルドが会話してるのをお茶を淹れつつ、聞き耳を立てる私。
『辺境伯。新年で年が変わった。大地に満ちていた神聖な力も大分薄れた。
ライリーの魔物出現状況もほぼ通常に戻ったよ。
他領より多少マシってくらいでね。
森やその近くの道を通る者達は、油断しないようにと注意しておいてね』
「分かった。もはやライリーは安全圏では無いのだな。
所で魔獣被害が増えている他領では何が起こってるのか、リナルドには分かるのか?」
『至る所にいる魔王信者が魔王の復活を狙って悪さをしてるんだろ。
結界石を壊したり、わざと魔物が増えるように汚れた魔石を用意したり』
「汚れた魔石とは? どこにあるんだ?」
『人死にが多い所じゃ無いかな。魔物被害が多い場所とか。
邪悪なオーラを放つ何かがあると思う。詳しくは分からないけど』
「なるほど。ありがとう。各地に不審な物が置かれてないか注意喚起をしておく」
「ルーエ侯爵ってまだ見つかって無いのですか?」
「未だ行方不明だ。魔王信者は見つかると極刑だから必死で隠れてるだろう」
魔王信者が暗躍して匿っているのかな?
「お父様。炊き出しで少しでも人々の神様への信仰心が上がれば良いですね」
「そうだな」
*
──そして三日後の朝。
私の卵に、ピキっとヒビの入る音がした。
「え!?ヒビ!? もしかして産まれる!? ど、どうしよう!?」
袋から卵を出してベッドの上に乗せ、慌てふためく私にリナルドが声をかけてくれた。
『落ち着いて、卵から産まれる子をじっと見てて』
パキンと殻が砕けて中から姿を現したのは──可愛いらしい小さな翼の有る猫。
「ね、猫ちゃん? 長毛種で翼の有る猫ちゃん!! なんて可愛いの!」
興奮を隠せない! 念願の猫ちゃん! 白とグレーのハチワレでラグドールに似てる!
「ミャア」
「わあ──っ! 鳴いたわ! 小さくて可愛い手のひらサイズの子猫!」
『名前を付けてあげなよ』
「え、あ、名前!? じゃあまず、男の子か女の子かは」
『性別は無いよ』
「えっと、それじゃあ。……アスラン」
私はRPGゲームをやる時に、よく自分で主人公に付けてる名前を咄嗟に言った。
「ミャア!」
「返事したのかしら。可愛い」
『今は小さいけど、大きくなれと念じて魔力を注げば背に乗せて飛べるサイズになるよ』
「本当に!? 背中に乗せて飛んでくれるの!?」
『そうだよ。霊獣の大きさは大きくしたり、小さくしたり出来る。
竜騎士を呼ぶ人数を減らせるね。護衛騎士の分はいるけど』
わ──っ! 凄い嬉しい!
「この子の食べ物は何?」
『霊獣のエネルギー源は魔力だよ。
移動や飛ぶ必要がない時は、魔力節約で寝かせておけば良い。
連れまわしたいならそれでも良いけど』
「あ!」
「どうしたのラナン?」
「今、こちらも微かにピキっと音が」
『ウィルの元に行って! 顔見せて来て!』
「はい!」
言うやいなや、ラナンは走ってウィルのいる部屋に向かった。
最初に見たものを親、いや、主と思い込むのかな?
私もアスランを胸に抱いたまま、慌てて後を追った。
産まれたのは私の翼有る猫に似た、小さな翼有る猫の霊獣だった。
私の子は瞳の色が緑色でウィルの猫ちゃんは青い瞳だ。
「……?」
何だかよく分かって無い様子のまま、ウィルは目の前の愛らしい猫を撫でている。
「可愛い。私のと同種?」
『うん。同じウイングキャット系みたいだね』
「我が君。この子の名前はどうしましょう?」
「そう言えばウィルに命名は難しいかも。
とりあえず目が青くて綺麗なので仮名としてブルーにしておきましょう」
安直でごめん!
「リナルド、この後、どうすれば良いの?
ブルーはウィル坊ちゃまの側においておけば良いのかしら?」
『そうだね。
今日の所はウィルのそば、枕元にでも寝かせておけば良いよ。
飛行訓練は明日からで良い』
「飛行訓練?」
「ティアもアスランに乗って移動する訓練しないと」
「そうだわ! 確かに!」
『とりあえず、辺境伯と夫人の卵の様子も見に行こう』
「うん!」
私はまたもアスラン抱えたまま、両親の元へ向かった。
早歩きで廊下を移動する時に、見つけた執事に聞いた。
「おはよう! お父様とお母様はまだ寝室かしら!?」
「はい。先程顔を洗うお湯をお持ち致しましたので。お部屋だと思います」
「ありがとう!」
いざ、お父様の寝室へ!
普段ならお父様は早朝から鍛錬をしているけど、この三日間は卵の為にゆっくり寝る事にすると言っていたから、本当にいるんだろう。
私はノックした後、「入ります!」と言って、返事も待たずに扉を開けて入った。
執事も入ったなら起きてるはず!
すると、いきなり──、
「あ! う、産まれましたわ! うさぎ!?」
ベッドの上にいるお母様の目の前には、愛らしい真っ白な子うさぎが!
「お母様! 産まれたんですね! わあ! 可愛い翼の有る小さなうさぎ!」
「あ、こっちも産まれるみたいだ!」
お父様も声を上げて卵を凝視してると、産まれたのは──、
『これは、グリフォンタイプの霊獣だね』
獅子の胴体に、ワシの頭と翼を持つ姿をしている!
「流石お父様の霊獣、かっこいい系でしたね!
翼有る霊獣は我々を乗せて飛んでくれるそうですよ! 空を!」
「空を!?」
「はい、なので明日からは飛行訓練らしいです。
大きくなれと念じて魔力を注げば乗れるくらいの大きさにまでなるそうです」
『また、今の小さな大きさにも出来るから邪魔にもならないし、霊獣だから抜け毛の心配も無いよ』
ありがたい。
ドレスが毛まみれになる懸念すら無いとは。
「とりあえず名前をつけてあげて下さい」
「え、性別はどちらなんだ?」
『辺境伯のはオスで夫人のはメスだよ』
え? 両親の霊獣の方には何故か性別が有るんだ。
「……ええと、それでは……このうさちゃんは、クロエにしますわ」
そう言ってお母様はうさちゃんの頭を優しく撫でた。
可愛い。良い名前だ。
「うーむ。急に名前か。良い名は無いかな?」
「ではお父様。好きな英雄の名前とかはどうですか?」
「うーん。シルヴィアやティアにはいるか?」
「私の一番好きな英雄はジークムンドなので困りましたわね」
「!! ははは」
突然惚気るお母様と嬉しそうに笑うお父様!
でも、本当に邪竜を倒した英雄だもんなあ。
「じゃあ英雄でなくても、何となく飛ぶのが速そうなイメージの名前とか……シュバルツなどは」
シュッとしてバッと飛びそうだし、お目目が黒いし。
「なかなか強そうで良いのではないか? ではシュバルツと」
お父様がミニグリフォンの頭を撫でると、クルルッと愛らしく鳴いたのだった。
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