第179話 少年の宝物

 冬の夕刻。自室にて。


「お嬢様、細工師からの納品でございます」

「ありがとう」


 私はアリーシャから箱に入った注文の品を受け取った。


「そう言えば、秋に聞き忘れていたけど、アリーシャは収穫祭で、歌の時に降って来たお花は拾えた?」


「はい! オレンジ色の花のコサージュを見事に受け止めました!

 他にもお花を掴めたメイドがいましたよ! 大喜びでした」


「そう。ギルバート殿下からの贈り物よ。良かったわね」

「はい、後で聞いてびっくりしました! お嬢様のは机の上にある青い花ですね」

「そうよ。可愛いくて綺麗だから飾ってるの」


「祭りの終わり間際の夜空に咲いた、青い花の魔法も綺麗でした」

「ふふ」

「殿下と言えば、お渡しする剣も完成されたのですね」


「情報が早いわね」

「騎士様が祭壇の間からかなり強い魔力を感じるって騒いでいたので」

「あらあら」


 私は微笑んで、晩餐の為に食堂へ向かった。

 今夜は寝る前にサロンに行って、お父様に完成させた剣をお見せしよう。

 

 * *


 夜のサロンにて。


「お父様、見て下さい。剣に魔力を込めて完成しました!」


 私は自分で魔力を込めたミスリルの剣をお父様にお見せした。


「あれ、このミスリルの剣はゴドバルの」

「分かるんですか? やはり名工の業物なんですね」


「この剣のミスリルは、昔冒険者だった頃、私やアシェルが苦労して入手して、ゴドバルに納品したミスリルで鍛えられた剣だから、製作の途中経過を見せて貰った事が有る」


「え!? これってお父様とアシェルさんのパーティーが冒険して手に入れたミスリルで作られた剣なのですか!?」


「そうだ」

「ええ〜〜! 殿下が羨ましいです! お父様が取って来た素材の剣が貰えるなんて」


 私もそう聞くと急に欲しくなったけど、ろくに剣を使えない私が持ってても宝の持ち腐れだし。

 やはり剣が使える殿下に渡さないと……。


「ふっ。羨ましいって……。自分で選んだんだろう?」

「ゴドバルさんはお父様が取って来たミスリルだなんて、言いませんでしたよ」

「これを受け取るときに酒を渡したんだろう?」


「渡しましたが」

「おやっさんの意識はほぼ酒に行っていたんだろう」


 あら〜〜。


「お父様が取って来た鉄鉱石で作られたペーパーナイフとか無いんでしょうか」

「ペ、ペーパーナイフって……!」


 そう言ってお父様は笑っている。


「それくらいなら私だって扱えるんですよ」

「ああ、そうだ、良いものがある」


 お父様は笑いながらインベントリから何かを取り出すので期待が湧き上がる。

 しかし、目の前に出されたこれは──、


「なんですか、これ?」

「良い感じの木の枝の棒」

「これはイチイの木みたいな特別な木の枝の棒なのですか?」

「森で拾った、ただの枝」


 これって小学生男子とかが、良い感じの棒を見つけて拾って喜ぶ感じのあれ!?


「何でそんなのを大事そうにインベントリに入れているんですか!?」


「良い感じの棒だったから。いざと言う時には薪になるし。

乾いた薪は冒険者には大事なんだぞ」


「そうですか……。まあ、くれるなら貰いますけど!」


 むくれつつも受け取る私。


「ははは、ティア。怒らないでくれ。悪気は無い」


 お茶目なんだから! でも好き!


「よく燃えそうな棒を、ありがとうございました!」


 私はそう言って、自分のインベントリにお父様が拾った棒を入れた。


「ちょ、何それ」

「アシェルさん!」


 いつの間にかアシェルさんがサロンに来ていた。


「と、途中から見てたら、拾った木の枝の棒を渡すって、お前……

あははははは!」


 堪えきれずに爆笑するエルフ。


「ふんだ。今年の聖者の星祭りのプレゼントですが、お父様には私が育てた松で取れた松ぼっくりを差し上げますよ! キャンプの時にもよく燃えて使えますよ!」


「ああ。どんぐりでも松ぼっくりでも構わないよ」


 お父様はアシェルさんと一緒に笑ってる。


「ま──、節約が捗りますわ!

そう言えばゴドバルさんはお酒あげたら剣の代金を取らなかったから、予算はお返ししますね」


 私はインベントリから預かっていた予算の入った袋を出した。


「持っていて良いぞ」

「じゃあ、この金貨と銀貨の入った袋にリボンでも付けて聖者の星祭りで私に渡して下さい」


「プレゼントが金貨か──。夢があるのか無いのか分からないな」

「ティア。本当にこれでいいのか?」


 お二人が苦笑した。


「夢あるでしょう! 金貨と銀貨ですよ! 好きな物に使いますので!」


 ──もはや、やけくそな私であった。

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