第176話 剣と短剣
──どうしよう。
人の人生を左右する選択は難しい。
殿下の告白めいたお願いを、つい、保留にしてしまった!
こういうの誰に相談すればいいの?
母親?
でも半分位、告白の恋バナみたいだから親には相談しにくい!
思えば同性、同年代の友達いない!
でも同年代の女子いても小学生位の年齢じゃどうにもならない!
しかも王族の将来に関わる!
お受けしないと失礼に当たる!?
でもうちに来るなら王族から降りて来て、しかも私の護衛騎士なら逆に私の立場が上になっちゃうの!?
ああ〜〜選択が難しいよママ──!!
いや、来年、学院に行ったら可愛い子と出会って気が変わる可能性もある。
まだ、慌てないで。
この件は一旦、社に持ち帰り、検討させていただきます!
……保留。
殿下達と竜騎士達は一足先に王城に帰りました。
王に色々報告しなければならないので。
──故に、次の議題に移ります。
*
伯爵家のサロンにて、私はお爺様達にお話をきりだした。
「夫であった男性、働き手を失った女性達に、生活に困るようなら、職業支援をと思っております」
「あのような所で生きていたなら蓄えもろくにあるまい。
当然困窮すると思うが、それをするのはライリーでか?」
「そこは本人達に選んで貰います。
故郷を離れたく無いなら、出来上がった品をライリーに納品して貰います。
冬の手仕事として、遊山箱、ピクニックなどで使う綺麗な絵の付いた箱なんですが、それの絵付けを出来そうな人を数人選べますか?
絵付けが無理な方は、他の仕事を紹介できます」
「他とは?」
「石鹸やシャンプーを作る工場を伯爵領にも作っていただけたら」
「石鹸やシャンプー作りはライリーの大事な産業では?」
「お金に関しては双方良い感じになるように応相談で。
どの道ロイヤリティは当方に入ります。
それに清潔を心がけた製品と生活は各地に広まってくれないと、どこで危険な疫病が流行るか分かりませんし」
「……それはそうだな。疫病は恐ろしい物だ」
お爺様は真面目な顔で腕を組んだ。
「ライリーへの移住が可能な方には温泉地で働く仕事も用意出来ます。
当面は掃除や大工、建築技師達の食事の世話や洗濯などになると思います。
それと、しばらくは温泉に入って、心の傷をも癒せたらとも考えています。
最寄りの教会から現地まではそれなり距離を荷馬車で旅をする事になりますが、転移陣使用と護衛のお金は支援します」
「大きな祭でもないのに平民に転移陣を使わせるのか?」
「貴族や騎士の同行する、人道的支援による移民政策なら教会から許可が出るらしいです。
寄付金は必要ですが」
「分かった。本人達の意向も聞いてみよう」
お爺様は承諾して下さった。
「温泉ならそのうち私達も入りに行きたいわね」
お婆様がお爺様を見つめてそう言った。
お、おねだりだ!
「温泉街は急いで再建中なので、いつかお二人も遊びに来て下さい」
「ありがとうジークムンド。準備が整ったら誘いの手紙でも出してくれ」
お父様からも誘っていただいて、良い感じに話し合いは終わった。
冬は日脚が短くて、すぐに暗くなる。
晩餐には私の方から食事を出させていただいた。
せっかくなので、神様から頂いたカレールーで作ったカレーを食べさせたかった。
なんとなく神様から頂いた食材ならば、寿命も多少延びたり、健康効果でもあるのではないかと思ったから。
お母様のご両親には健康で長生きして欲しい。
お父様のご両親はもう亡くなっているらしいから。
カレーライスはお爺様やお婆様にも好評だった。
流石カレーである。
*
とりあえず、殿下にはお手紙を書こう。
要点としては……
【 ライリーの別荘の件ですが、転移陣設置のような事が王族の特権ならば、急いでそれを手放すのはもったいないと思います。
ギルバート殿下が私の騎士になるのは成人後、15歳になってからでも遅くないと思います。
私の守護騎士の枠は一つ、ギルバート殿下の為に取っておきます。
今は密かに内定済みという事で、ご了承ください。
内定の証に、冬の魔物減らしの狩りでクイーンとなった時にいただいた短剣を、殿下に贈ります。
私は私の選んだ騎士に、剣を贈るのが夢でした。
本当は短剣ではなく、普通の大きさの魔剣や名剣を贈りたかったのですが、自分の手持ちに立派な剣はこの美しい装飾の短剣しか持っていません。
本当はダンジョンなどで強くて珍しい剣など手に入れたいと思っていますが、今はまだ年齢的に、流石にダンジョンに潜る事はお父様もお許しになられないと思うので。
つきましては、剣の受け渡し場所として、相応しい場所を検討しますので、
しばらくお待ち下さいますよう。 】
──こんな感じかな?
〜 ギルバート殿下サイド 〜
「セレスティアナ様からのお手紙はどうでした?」
側近のエイデンが、先程ライリーから届いた手紙の内容を聞いて来た。
先日、俺は自らセレスティアナを守る騎士にして欲しいと頼んだから、皆、結果を気にしている。
「守護騎士の内定を貰った」
「内定……」
「成人となる15歳まで待てば、騎士にしてくれるみたいだ」
「おめでとうございます!」
「とりあえず、今すぐではないが、ダメとは言われて無いので、ほっとした」
「しかし、自分の騎士に剣を贈るのが夢で、それを渡す場所にこだわりたいみたいだ」
「ライリーの城で良いのでは?」
エイデンは首を傾げて言った。
「相応しい場所を検討するとあるから、城では本人的に何かが足らないのでは?」
俺もイマイチ趣向が分からないが、あのセレスティアナの言う事だから……。
「ライリーの令嬢なのだから、城が一番相応しいだろうに」
チャールズも首を傾げている。
「まさか殿下の心変わりを待っていて、引き延ばしの為にそんな事を」
「ブライアン。不吉な事を言うな」
「殿下、申し訳ありません。ライリーの騎士がまた王城にでも来れば情報を聞けるのに」
「騎士が令嬢の心中を知っているとは限らない。
エイデン殿。いっそ貴殿が茶会を開いて辺境伯か夫人を呼ぶとかはどうだろう」
「チャールズ、よく考えてみろ。冬なので社交シーズンじゃない。
星祭り以外では普通領地を出ないと思うぞ。
外出しても里帰りや別荘地だ」
「そう言えば、まさに先日、夫人の実家へ里帰り中だったじゃないか」
俺はつい最近の事を思い出して言った。
「殿下。もしかして令嬢は星祭りの時に渡して驚かせようというお考えでは?」
「そうか? エイデンはロマンチストだな。
俺はまず、星祭りにも誘われてないのだぞ」
「あ……」
エイデンはいらん事を言ったとばかりに手で口を覆った。
俺も何度も自分から冬の夜にある祭りに誘うのは、父親の心証を悪くしそうで出来ない。
「それと、本当は普通の長さの剣を贈りたかったが良い剣を持ってないから、冬の狩り大会で貰った短剣を渡すけど、実は魔剣をダンジョンに潜って手に入れたかった。とか言うような不穏な内容が」
「「ダンジョン!? 貴族の令嬢が!?」」
「とんでもないですよ。辺境伯もお許しにならないでしょう」
いつも冷静なリアンも流石に驚いた。
「セレスティアナ的には年齢的に今は無理だと思ってるようだ。
つまり成人したら可能だと思っているのではなかろうか」
「「無茶な……」」
皆、一様に頭を抱えた。
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