第175話 消せない炎
歌の後に、疲れてる皆に食事を振る舞った。
せっかく生き延びたのだから、生きねば。
ライリー産のお米をゲットしたので、シンプルな塩おむすびを作ってインベントリに沢山入れていたのだ。
漬物と一緒に、生き残りの村人達と騎士、冒険者達に配った。
美味しいと言って、涙をこぼす村人もいた。
*
夜の山道は危険なのでテント泊をした。
10人も満たない竜騎士の数的に全員をワイバーンで運ぶのは無理なので、下山は陽が登ってからという事に。
「そう言えば、下山して伯爵邸に着いたら、辺境伯に相談がある」
「はい、分かりました。ギルバート殿下」
殿下はお父様に何か大事なお話があるようだった。
私が間に合わず、助けられ無かった人達を思って、またしょんぼりしていたら、お父様が抱きしめてくれて、同じテントで添い寝もしてくれた。
「お父様、男性達がほぼいなくなった、この村の女性や子供や老人達はどうなるんでしょう」
「危険だから、山を降りて暮らすように言われると思う」
「そうですよね。また同じような事があったら大変ですし……」
*
朝になって、ギルバート殿下達も一緒に伯爵邸に帰還した。
「ギルバート殿下。救援、誠にありがとうございました」
お爺様が殿下にお礼を言った。
「いや、到着が遅れたゆえ、犠牲者は出た」
「山中の村に竜種が多数出たのです。生き残りがいただけでも奇跡みたいなものです」
「あなた! ティア! 無事で良かった!」
お母様にぎゅっと抱きしめられた。
心配させてしまってすみません。
「辺境伯も伯爵領の民の為に、着いた早々にこんな事になるとは申し訳ない」
「いいえ、妻の実家ですから、当然の事をしたまでです」
「各地で魔物の出現は増えている。別の場所でも魔獣が出て、第二王子の、ロルフ兄上まで救援に行っている」
「そんなに……」
「とにかく皆様。ゆっくり休んで下さいませ。食事と湯殿の用意も出来ております」
お婆様が気使って声をかけて下さった。
「では、休憩にするか」
貴族用のお風呂は二つあった。
後は使用人用。
私は女性用にラナンと一緒に入った。
リナルドは何故か殿下に連れて行かれた。
*
一息ついて、軽食とティータイム。
殿下がお父様にお話があるらしい。
「ライリーの地に別荘を建てたい」
別荘! 流石上流階級!
「そうですか。具体的にはどこあたりをご希望なのですか?」
「出来れば、以前行った温泉地が良いのだが、難しいだろうか?」
温泉地! 良い所を!
「まだ再建中ですし、空きは有ります。可能です」
「転移陣設置は悪用を避ける為、高額な上に、神殿、教会、高位貴族と自宅以外にはなかなか許可されないが、王族の別荘は設置が可能だ。
私が温泉地に別荘を持つ事で、其方達も別荘に遊びに来れば、遠方でも温泉に行きやすくなるだろう」
え!? まさか、私達の為にわざわざ別荘を!?
「なるほど」
「まあ……」
両親もびっくりしている。
「姉上、いや、エーヴァ公爵夫妻もライリーに別荘を持つなら、部屋をいくつか用意する条件で、資金を半分出すと言って来た。気軽に遊びに来たいのだろう」
「あ、なるほどですね。流石シエンナ様です」
人生を楽しむのに躊躇が無い。
思わず感心してしまうと同時に、なんだか元気が貰えた気がする。
心の癒しに甘い物も追加しよう。
私はインベントリからチョコレートケーキを出し、振る舞った。
伯爵夫妻には初めての味だろう。
「まあ、とても美味しいわ……」
お婆様の反応はシルヴィアお母様そっくりだった。
流石親子。
「そうだな。濃厚で味わい深い。この黒い物はなんだ?」
「黒いのはチョコレートです。お爺様。ライリーの特産品で作りました」
「ほう」
「お土産として残していきますね。
いくつか蓋付きの小さな壺に入れておきました。
冷蔵庫ごと差し上げます。
パンやクッキーや苺などにかけるだけでも美味しいですよ」
「冷蔵庫?」
「自室に置いて置ける小型の氷室のような物です。
夏などすぐに冷たい飲み物などが飲めて便利です。今は冬ですけど」
「ああ。冷蔵庫は良い物だ。
部屋にいてすぐに冷たい水やジュースが手に入る。
いちいち侍女を呼ぶのも面倒な時に助かる」
「ほう。殿下もそうおっしゃるなら良い物なのでしょう。
ありがとうセレスティアナ」
お爺様は私にお礼を言いつつ、隣に座ってる私の頭とお膝の上のウィルの頭を交互に撫でていた。
*
両親とお爺様達は執務室へ移動した。
弟もお父様が抱えて行った。
先日の魔獣襲撃の件で色々あるらしい。
事後処理?
──何故か暖炉の前で殿下と二人きりになった。
側近も扉の向こうだ。 寒く無いかな?
私は暖炉前に立ち、手を温めたりしながらそう思った。
「このように各地で魔物が増えているし、前回のキラー・ビーの襲撃の件もある。
冬の魔物減らしとクイーンを決める狩りへの、レディの招待は取り止めだ。
騎士や傭兵だけが討伐隊を組んで参加となった」
「そうですか。そう言えばギルバート殿下、ご自分の竜騎士はもう選ばれたのですか?」
「慎重に選んでいる。
俺が王城から出ても、ついて来てくれる者を選ばなければならない」
「……どこかの貴族と結婚するからですか……?」
「結婚は出来るかは不明だが、守りたい人がいるから」
「守りたい人……」
「其方は10歳になれば自分の騎士を何人か選ぶと聞いた。
その枠を一つ。俺にくれないか?」
──え?
思わず顔を上げて殿下を見た。
「……殿下が王城を出てまで守りたいのは、私という事ですか?」
「そうだ」
殿下はゆっくりと片膝をつき、私の片手を掴んで手の甲にキスをした。
──そう。
騎士の誓いのように膝をつき、私を見上げたのだ。
「……」
「其方が、誰よりも大切なんだ。セレスティアナを守りたい」
──真っ直ぐな瞳で、そう言われてしまった。
暖炉の火が爆ぜる音が聞こえる。
殿下の蒼い双眸には、消せない炎が宿っているかのようだった。
鼓動が跳ねた。
私はドキドキして、「少し考えさせて下さい」と、言うので精一杯だった。
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