第173話 オースティン伯爵領へ。お母様の里帰り。
大地に、冷たい風が吹く。
──冬が訪れた。
「ティア。そろそろお婆さまとお爺さまに会ってみる?」
「え? つまり、お母様のご両親ですか?」
「そうよ。長い間、節約生活をしていて、ドレスも古い物ばかり着てて、心配をさせたくなくて、ずいぶんと会って無かったけど、ティアのおかげで新しいドレスも宝石も今ならあるし」
う! そう言えばお母様は苦労して耐えていたんだ。 涙出そう。
「会います! 会いたいです!
お絵描きの道具やドレスをいただきましたし!
直接お礼も言いたいです」
「そう。良かったわ。
最近は実家の伯爵領も魔獣被害が増えているらしいから、ジークが顔を出せば心強いだろうし、ティアやウィルの、孫の顔を見たら元気を出していただけるでしょう」
「お爺様とお婆様は元気が無いのですか!?
今すぐでも私は行けますよ!」
「いえ、言葉選びを間違いました。
孫に会えたら喜ぶでしょう。と言う事よ」
「お二人に新しいコートか何かをお土産に買って行きましょう!
先触れを出してる間に私がちょっと王都で買って来ます!
あ、でもお母様が選んだ方が好みが分かりますよね?」
「派手過ぎない色なら大丈夫よ。
私はウィルとお留守番をしているから、護衛騎士と買って来てくれるかしら」
「分かりました」
お母様の許可が出たのでラナンとアシェルさんとライリーの騎士を連れて行く。
いつも通り、教会の転移陣経由で王都の服飾店へ。
店員が声をかけて来た。
「何をお探しですか?」
「祖父と祖母に軽くて暖かいコートがあればと」
「まあ、愛らしい上にお優しいお孫様でいらっしゃるのね。
こちらなど、とても暖かいですよ」
「襟と袖口と裏地がふわふわな毛で肌触りが良いですね」
「そうなんです。気持ち良くて暖かいのです。
お色も上品なネイビーです」
「でも少し重いような」
「内側に暖かい羊の毛を使っておりますので、多少重くなります。
暖かさを優先しますと、どうしても」
「やはりそうなるのね」
ダウンジャケットってやっぱり軽くて暖かいし、優秀なんだな。
軸が無いふわふわの羽毛。
少量なら作れない事も無さそうだけど、中身はガチョウやアヒルから採られた物で、水鳥の胸部分は少量しか生えない希少な素材なんだよね。
今からだと軽い素材探して作ってる時間も無い。
年配の貴族は冬に長時間外にいる事もあまり無いだろうから、大丈夫かな。
豪雪地帯の平民なら年寄りでも雪かきとかあるかもだけど、伯爵や夫人がそんな事する訳ないし。
とりあえず包む前に宝珠で撮影だけしておこう。
そうすれば開封しなくてもお母様が中身を確認出来るし。
私は借りて来た丸いペンダントに見える記録の宝珠を握り込んだ。
「ふわふわで気持ち良いからこれと、向こうの男性用の茶色のコートを買います」
「ありがとうございます。すぐにお包み致します」
* *
ライリーに戻ってお母様に確認用の映像を見せようとしたら「信頼してるから別に見せなくても良い」
とは言われたけど、せっかくなので見て貰った。
そして問題は無かったようだった。
* *
数日後。
転移陣より、お母様の実家のオースティン伯爵領へ行った。
「まあ、まあ、よく帰って来てくれたわね。お帰りなさい。シルヴィア。」
「ジークムンド。久しぶりだな。可愛い孫も連れて来てくれてありがとう」
「本当になんて愛らしいのかしら! この子達は」
お爺様とお婆様は上品な顔立ちで、若い頃はさぞかしモテてたのだろうという感じ。
とても喜んで迎えてくれた。
「初めまして。お爺様。お婆様。セレスティアナです。お会い出来て嬉しいです」
「それにしてもあなたは天使みたいに可愛いくて綺麗ね。抱きしめてもいいかしら?」
「はい」
そう言いつつも、私からお婆さまに抱きつきに行った。
「ああ、本当に可愛いわ」
お婆様は懐いて来る孫に感激している。
「其方、さっきから可愛いばかりを連呼しているぞ」
でも可愛いから仕方ないんだ。毎日、鏡で自分を見てれば分かる。
お婆様は私とウィルの頬にキスをくれた。
もちろんお母様とは再会のハグも。
「さあ、皆。サロンで一緒にお茶でも飲みながら寛いでくれ」
* *
私達はサロンに移動して、お茶やお菓子をいただき、贈り物のコートをお二人にお渡しして、喜んでいただけた。
「お爺様、立派なお髭ですね。
贈り物のコートは白やシルバーの毛色の物がお似合いだったかもしれませんね」
私はお爺様とお婆様に挟まれるようにソファーに座った。
なのでお爺様は隣りにいる。
お爺様は見事なシルバーのお髭を蓄えていらっしゃる。
「いや、ブラウンで大丈夫だよ。白は汚さないように気を使うからな」
「伯爵様でもそういう事を気にされるんですね」
「するとも。領民の大事な税金で買っているからな」
あ。この発言だけで誠実で立派な方だと分かる。
良い領主様だ。
「うちの贈り物の資金源は発明品の売り上げなので多少汚しても大丈夫ですよ。
井戸のポンプとか」
「おお、凄いな。あれは水汲みが楽になったと、うちでも好評だ。
ライリーは偉大な発明家を見つけたのだな」
「!……うふふ」
私は笑って誤魔化した。 が、その時──
バタン!!
急にサロンの扉が無遠慮に開かれた。
「大変です! 旦那様! ブロゲです!
山間部の村に小型とはいえ竜種の魔獣ブロゲが多数出現したと報告がありました!」
急な知らせで礼儀を守っている余裕が無かったと見える。
執事と騎士らしき男が慌ててサロンに飛び込んで来た。
「何!? 群れで動くブロゲが出ただと!?」
恐竜のクリトンサウルスに似た背中がゴツゴツした魔獣がいる。
サイズは犬のシェパードくらい。それがブロゲだ。
「討伐隊は!?」
「行っていますが手が足りません!」
それを聞いてお父様と私が立ち上がって言った。
「すぐに救援に向かいます!」
「私も行きます!」
「ティア! 危ないでしょう!」
お母様がそう叫んだけど、
「きっと怪我人がいるでしょう!? 私の治癒魔法の出番です!」
譲る気は無かった。絶対に救援に行く!
「く! 言い争う時間が無い! ティア!
危ないから、なるべく負傷者のいる後方だぞ! 後方支援!」
「はい! お父様!」
にわかに戦闘準備である。
大人しくしていたリナルドもポシェットから顔を出し、ラナンもライリーからついて来た護衛騎士も、戦う者の顔をして魔力を高め始めた。
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