第171話 ➕ギルバート殿下側近護衛騎士達

「あれ? お嬢様、何故こちらの食堂でおやつを食べておられるのですか?

辺境伯と夫人は城におられないのですか?」


 食堂で騎士のナリオが声をかけて来た。


「お二人は今、お部屋デート中なの。

あちらも今、チョコパフェを運ばせたのだけど、私は邪魔にならないように、こちらでラナンとパフェを食べる事にしたの」


 そう。私は今、騎士や使用人が使う方の食堂に来てラナンとパフェデート中なのだ。


「そ、そうなのですか。ご両親を二人きりにする為にこちらへ。

お嬢様はお優しいのですね」


「たまにはお部屋デートも良いと思って」


 ふふふ。


「ところで、そのパフェと言う同じ物、我々騎士も食べられるのですか?」

「今日のおやつだから厨房に注文すれば1回は食べられるわ」

「ありがとうございます!」


 すぐさまオーダーに行くナリオ。

 いつの間にか食堂に来たローウェもオーダーに行った。


 男性騎士二人は隣のテーブルで、仲良くチョコパフェを食べ始めた。


「甘い! 美味い!」


 ナリオの語彙はシンプルだな。


「これは美味過ぎる。神の食べ物では無いだろうか?」


 ローウェは天啓を受けた人みたいな顔をしてそう語った。


「神が下さった植物に入っていたのだからそうなのでは?」

「はっ! 正しくそうだった! あの不思議植物!」

「アイスだけでも美味しいのにチョコレートまで入っている」


「ナリオよ、我々はまるで王族のような贅沢をしているのでは」

「そうかもしれないな。ところでローウェ。食べ終わるの早いな」

「美味し過ぎてあっと言う前に消え……食べてしまった」


 二人の騎士の感動っぷりを眺めつつ、私もラナンとチョコパフェを仲良く食べた。


「ラナンも美味しい? 今日は豪華にアイスとチョコの共演よ」

「はい。甘くて冷たくて、とても美味しいです」


 ラナンも花のように微笑んでそう言ってくれた。


 *


 本当にチョコレートが美味し過ぎた。


 両親も晩餐の時にチョコパフェの感想を聞いたけど、やはり美味しいと言ってくれた。

 しかし、美味しい物ばかり食べるとやっぱり気になる。

 カロリーが。


 そんな訳で、やっぱり保留していたバドミントンの道具を作る事にしようと思った。

 カロリーを消費する為に楽しく動きたい。

 できれば遊びながら。


 前世販売されているガットはほとんどの物がナイロンで出来ていた。

 昔は羊の腸を細くねじって糸状にしてガットを作っていたらしいのだけど、後に羊では生産も間に合わないこともあり、牛の腸が主流となったらしい。


 つまり牛か羊の腸を仕入れてガットを作って貰う。


 そしてラケットの長さは成人女性の腕の長さくらいでオーダー。

 およそ67か68cm位かな。


 それと羽根、シャトルの方はシャンパンの栓に鳥の羽根を刺したものを使っていたらしい。

 コルクのような物に羽根を刺して、コルクが何度も打たれてぼろぼろにならなように、布か何かで覆って固定して貰おうと思う。


 ラケットとシャトルを図に描いて遊具を作る工房に依頼をした。

 なんとか頑張って完成させて欲しい。


 *


 活版印刷の方もこういう意図で使うからこういう物が欲しいと計画書と図面を書いて職人に依頼をした。

 金属活字の材料として比較的簡単に鋳造できる金属が有れば良いのだけど。

 細かい所は創意工夫して頑張って欲しい。

 可能なかぎり相談には乗るから。



 *


 数日後。


 またも冬支度の事でお母様と打ち合わせとお茶の時間。

 バドミントンの道具を作る為、工房に依頼をした話などもしていたら……


「そのバドなんとかが出来上がるまでは、ダンスレッスンをすれば運動になるから、そうなさい」


 お母様は教育熱心でいらっしゃる……。


 お茶菓子として、ポテチにチョコをかけた、とても美味しいけどカロリーが凄そうな物を食べている時にそう言われた。

 確かに運動をした方がいいのは分かるのだけど。


「でもここには私の身長に合う子供がいませんし」


 城の使用人に同じ位の子供がいても、彼等に貴族のパーティー用のダンスレッスンは必要無いだろうし。


「騎士のアーノルド・グレンにティアと同じ年齢の騎士の子供がいます。

今度レザークが休みの日に交代で息子のセドリックと一緒に城に来るので彼とレッスンをするのですよ」


「何故グレン卿は子供と一緒に出勤を」

「あちらも息子のダンスの練習の為に相手が欲しいらしいのよ」


 逃げ道は無かった。

 ダンスレッスンって照れるんだよね。

 手は繋ぐし、顔や体も近いし。


 でも将来パーティーとかで恥をかかないようにという親心があるのは分かるので、

「分かりました。お母様」

 と、言う他なかった。


「そう、良かったわ。ところで、お人形のケープが編めましたよ」

「わあ! 可愛い! ありがとうございます!お母様!」


 紫色の毛糸で人形サイズのケープができていた。

 胸の前で紐で結べるように作られているから勝手にずり落ちないで良い。


「お人形のお洋服は出来たの?」

「バドミントンと印刷機の絵を描くのに忙しくて……まだ布を巻いています」

「忙しかったなら仕方ないわね」


「でも冬支度の燻製は私がやらなくても、料理人達がもうやり方を覚えてやってくれてますし、なんなら騎士も手伝ってくれてますから助かっています」


「なるほど。冬の暖炉前で燻製を一番、美味しく食べているのは騎士達ですものね」

「暖炉前でお酒を飲みがら、燻製を食べる男前って最高に絵になるんですよ。

見てるだけで楽しいという」


 私はキリっとした顔で、そう言いきった。


「……ティア。あなた、好みが渋過ぎるのではない?」


 はい! 否定出来ないです──!!

 でも冬ごもりも美味しく、楽しく過ごしたいよね!


 * * * *


〜(ギルバート殿下側近護衛騎士達のだべりの回)〜 


(オマケの小話)


酒を飲みながら、騎士達五人はたわいない話をする。

皆、将来は殿下についていって、ライリーに移住したい。

だが、殿下とセレスティアナ様の恋の進展がかなり遅いような気がする。



リアン  「問題はどこにあると思う?」

チャールズ「普通は娘溺愛の父親がさ、

      俺を超える男にしか娘を預けられないとか言う所だよ」


ブライアン「あー、でも辺境伯は本当に優しい方でさ、

      娘が選んだ人なら、娘がそれで幸せになれるならって、

      相手によっぽど酷いとこがなければ許してくれそうな訳」


エイデン 「ギルバート殿下はいい方だよ。

      第三王子で正室の子じゃないから王位継承権無いからって、

      上二人殺して王になりたいとか言う野心は無いし、

      今、欲しいのはセレスティアナ様だけなんだよ、純愛だよ。

      つい、応援したくなる」


チャールズ「青春、眩しいよな」

リアン  「卿ら、自分の青春は?」

チャールズ「殿下の青春見てる方が今は楽しい」

ブライアン「殿下の青春をツマミに酒を飲むなど不敬では?」

チャールズ「これはかなりの贅沢かもしれない。見逃してくれ(笑)」


セス   「私はポテトをツマミに酒を飲んでいるだけだ。 

      卿らと一緒にしないでくれ」

ブライアン「顔に似合わず食欲があるよな、セス卿は」


セス   「美味しい物は正義だ。美味しいものを作れる人も正義だ。

      故に正義はライリーにあるのだ。

      故に私はいずれライリーに住む為にも殿下をお支えする」


チャールズ「ライリーに行きたい理由がほぼ食欲なのがウケる。

      だが、真理かもしれない」

ブライアン「食事の美味い地域に出張すると帰りたくなくなるやつな」


リアン  「話を戻すが、一番の障害はセレスティアナ様の謎の頑なさだ。

      もっと他にいい娘がいると思いますよ。っていうあの態度。

      別に殿下を嫌っている風では無いのに」


エイデン 「殿下の為だけには生きられない。

      優しい方だし、家族と領地民が何より大事なんだと思うんだ。

      領地に対する責任感も強く、

      それを守るのに命をかけてしまいそうな所だろう」


リアン  「つまり令嬢はまだ父親への愛と領地愛が強すぎる訳だ」

チャールズ「それじゃやはりメインの障害は父親って事になるな」

エイデン 「偉大なるドラゴンスレイヤーに勝つのは容易ではないのだな」


セス   「令嬢は幼い頃、一度邪竜の呪いで死にかけた事があるから、

      またそんな事になったら、と、

      優しい殿下を残していくかもしれない事を

      危惧されている可能性もある」


エイデン 「殿下は母君を早くに亡くしたからな。

      大切な人を失う辛さは相当なものだったろう。

      その喪失感で、王城に来たばかりの時はほぼ無気力だったし」


チャールズ「それで気晴らしになるかと、城下街にお忍びに誘って、

      そこで運命的な出会いがあった訳だ」

ブライアン「そうとも、この運命は守り通さねば、騎士の誇りにかけて」


セス   「そのチキン、最後の一つ、私が貰っていいか?」

リアン  「セス卿……今ブライアンがいい事を言ったというのに……」


エイデン 「ははは、いつものセス卿だ」

チャールズ「ぶれない所が長所だな」


* *


このようにして、ギルバートの護衛騎士達の談合と談笑の夜はふけていくのであった。

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