第170話 お花のお茶とお嬢様

 突然ライリーにリズを連れて帰ったけど、両親も多くを持つものは持たざる者に与えると言う、慈善を施す美徳、ノブレス・オブリージュの精神を理解されていたので、特にお咎めは無かった。


 いくつかの職場を見せて、一番興味が持てて、少しでも楽しくやれそうな職場があるか聞いてみたら、メイドの制服とミシンに興味を惹かれたみたい。


 やはり女の子だから、メイド服や、綺麗な服を作る事もある針子の仕事が気になるみたいだった。


 とりあえず針子のミシンとメイドの見習い研修期間を二週間ずつ設けて、実際に体験して貰う事にした。



 お昼過ぎ。


 私はリズとラナンを誘って、午後の柔らかな日差しの中でマリーゴールドの花を摘む事にした。


「美しい乙女達が花を摘む様は絵になりますね」

「確かに詩的で美しいかもしれないわ」


 花を摘んでいる最中に、通りすがりのナリオがそんな事を言って来たけど、

 ラナンとリズの顔を見て私も納得する。


「この綺麗なお花をどうするんですか?」

「マリーゴールドティーにするの」

「お花のお茶を飲むんですか?」


「そうよ」

「……お花を飲む……だからお嬢様は、妖精のように綺麗なんですか?」

「そ、それは違うわよ」


 あまりにも純粋で可愛い事を言うので私は笑ってしまった。



 マリーゴールドの花弁を千切る作業はガゼボで行った。

 後で花弁を袋のような網に入れ、吊るして干す作業をする。


 またも上機嫌なのか、秋風と共にリナルドが庭園を『ぶーーん』とか言いつつ飛んでいる。



 夕方にはリズの為にお洋服を作り始め、5日くらいで完成した。


 既に型紙が有る、シンプルな形だけど上品で清楚な群青色のワンピース。

 白いブラウスとエンジ色のスカートも。

 初めて自分の為の贈り物を貰ったと、リズはまた泣き笑いをしていた。


 新しい洋服の他にはペンとインクとレターセット。

 そして鉛筆と消しゴムと紙もあげた。

 リズは貴重な物なのにと恐縮していたけど、嬉しそうだった。



 *


 翌日にはドールのお顔を描いた。

 眉、目のライン、まつ毛、口元などを。


「あら、愛らしいですね。お人形さんですか」

「ありがとう!」


 アリーシャも褒めてくれた。

 美少女に出来たと思う。


「しかもこのお人形、手足が動くんですね」


「そうなの。アラクネーの糸を使って関節が可動式になっているから、着替えも出来るの。

まだ服が出来て無いから布を巻いているだけなのだけど」


「世の多くの少女達が憧れそうな、見事なお人形ですね」


 えへへ。

 少女どころか大人になっても私はドールが好きだったけどね。


 今度はドールのお洋服を作ろう。



 * *


 数日後。


 良く晴れた日に近くの森までラナンとリズと男性護衛騎士二人を連れて栗拾いに行った。


「それで、マイラさんが親切にミシンの使い方を教えてくれるんです」

「じゃあ感謝の気持ちを表す為に今度一緒にケーキを作って、差し入れしてみる?」

「ケーキ……私に作れるでしょうか?」


「私の手伝いをすれば良いだけなので大丈夫よ」

「はい! 頑張ります!」


 栗拾いをしている最中にミシンを教えてくれる針子のマイラと仲良くなれたとリズが嬉しそうに言ってくれた。


 良かった。


 食べられるきのこも発見して摘んで行く。

 毒の有無はリナルドが鑑定してくれる。


 食べられないきのこは画像だけ記録。

 見た目だけなら可愛いのになと、などと思いつつ。


 夕食はきのこの炊き込みご飯にした。



 * *


 翌日。


 リズと一緒にモンブランケーキを作った。

 栗の処理は厨房の料理人達が手伝ってくれた。


 完成したマリーゴールドティーとケーキを執務室で仕事中のお父様に持って行く。


「お茶菓子のケーキはリズと一緒に作った栗のケーキですよ」


 栗大好き。


「そうか。今回もとても美味しく出来てるな。ありがとうティア」

「どういたしまして」

「ところでティアは食べないのか?」


「この後、お母様と冬支度のお話をしながら一緒にいただく予定です」

「なるほど」


 お父様は柔らかく微笑んで、お茶とケーキを召し上がって下さった。


 今頃はリズもマイラと一緒に可愛い服を着て、マリーゴールドティーとモンブランケーキを楽しんでいるかな。


 今日はお休みなので草原で草紅葉を見ながらお針子仲間達とピクニックに行くと言っていた。

 


 私は執務室を出て、今度はお母様のお部屋で一緒に冬支度の打ち合わせ。

 お父様に伝えた通り、私はお茶と栗のケーキをお母様と一緒に食べた。


「秋と言えば栗だものね。とても美味しいわ。ありがとう」


「ふふふ。私は栗もかぼちゃも好きです。今度はパンプキンパイを料理長に頼みます」

「楽しみね」


 ついでに出来上がったお人形を見せたら、出来栄えに大変驚かれた。


「まあ、すごい。精巧で綺麗だし、手足が動くし、瞳は宝石みたいにキラキラしてるし……こんな凄いお人形は初めて見たわ」


「瞳は固める樹液で作って、手足の関節部分に伸縮性のある糸を使い、着替えが出来るように作ったんです。

まだ服が出来てませんけど」


「そういえば、ティアの描いた祭壇の絵もとても上手だったわね」


「本当にお嬢様は器用な方ですね。芸術の神に愛されているのでしょうか」

「あはは。それは言い過ぎ」


 お母様とお母様のメイドに過分に褒められて照れる。


「お人形のお洋服は針子に頼むの?」

「小さくて作りにくいと思うので自分で作る予定です」

「そうなの? お人形のケープかショール位なら私も編めるでしょう」

「え? お母様が私のお人形の為に小物を編んで下さるのですか?」


「普通はお人形とかは母親が買って贈る物ではない?

でもあなたは自分で凄い物を作ってしまうし、ならせめて小物くらいは私もお手伝いするわ」


「お母様。ありがとうございます」


 ちょっと嬉しくて、涙が出そうだった。



「そういえば話は変わるけれど、壊血病の報奨金、殿下からいただいた大金は何に使う予定なの?」


「シエンナ様も支援して下さる化粧品開発とずっと欲しかった本を作る為の印刷機を作る資金にしようかと思っています」


「そう言えば、平民の識字率を上げたいと言っていたわね」

「これが成功すれば字も覚えやすくなり、平民も恋文が書けて、ロマンス小説も増えるって考えたら素敵だと思いませんか?」

「確かに、良いかもしれないわね」


 ──まずはグーテンベルクに倣って、活版印刷かなと。



* * *


〜オマケのギルバート王子視点〜


俺は紅葉見物の翌日、側近の護衛騎士のエイデンを自分の部屋に呼んだ。


「エイデン、リズという娘が関係していた青果店の奴らを詳しく調べるように人をやってくれ。

立場の弱い者を食い物にしてる悪い人間がいたろう」


「はい。では罪が明らかになったら、どう処罰致しましょうか?」

「婦女子に合意なく淫らな事を強要してると証拠を掴めたら、男の方はアレをちょん切れ。

例の女の方は……金銭的な不正なら罰金刑、払えなければしばらく牢屋生活でもしてもらおう」

「はい、そのように致します」


「それと、リズ関係でも現在の保護者代わりのセレスティアナには報告は無しだ。

あまり醜いものに関わらせたり、煩わせたくない」

「では秘密裏に処します」

「ああ、それでいい」



 汚れ仕事はこっちでしておこう。

 綺麗な彼女には似合わないからな。





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