第167話 豊穣祭の花車

 今日は殿下用の冷蔵庫が完成したので、アシェルさんが工房から引き取って来てくれた。

 私のインベントリに移動させる。


 これで豊穣祭で会うだろうギルバート殿下に直接渡せるけど、殿下の風呂敷亜空間収納のサイズ的にどうかしら?


 魔法陣の上に乗りさえすれば大丈夫かな?

 普通に王城に送るべきかしら。

 ……分からない。どうすればいいか本人に聞こう。


 先日の収穫祭で聖下からいただいた花束はせっかくなので一階と自室の祭壇に飾らせていただいた。


 殿下のくれた花束は一晩だけ自室に飾ってから、枯れる前に花弁を取って、固める樹液でバレッタとミュールの踵に固めて入れた。


 そして花弁入りバレッタとミュールが完成した。

 前回女神様に贈ったのと似た靴を自分用に作ったのだ。

 せっかくなので豊穣祭で履こうと思う。


 収穫祭が終われば王都である豊穣祭。

 各地の実りが王都に運ばれ、集まるから王都のお祭りは収穫祭ではなく、豊穣祭と言われる。


 殿下の勲章授与もこの豊穣祭で行われる。


 お祝い用に瓢箪チョコレートをゲットしたのでチョコレートケーキも作った。

 三つ作って一つは自分達用にして、両親と一緒に食べた。

 美味しかった!


「これはとても美味しいから、女性の間で争奪戦になりそうな味だ」


 お父様がゆっくりとチョコケーキを味わって言った。


「シエンナ様もパンや苺にかけただけのチョコも絶賛されていましたし、ケーキとなると、また格別ですね。

この濃厚なチョコの味わいと来たら……」


 お母様も自分用にカットされたチョコケーキを美味しく召し上がったようだ。

 故に、語彙は途中から消失したらしい……。


 私はローズヒップティーでビタミンを取りつつ、お父様に問うた。


「お父様、王室にもいくつかチョコレートを献上すべきでしょうか?」

「公爵夫妻に食べさせて王族に渡さない訳にはいかないだろうな」


「では壺に入れ替えて渡せばいいでしょうか?」

「そうだな。実ごと渡せば、何だこの謎植物?って思われそうだし」


 そんな訳で一応王室にもチョコを献上する。

 食べ方と味は既にギルバート殿下がある程度知っているから説明して下さるでしょう。



 * * *


 数日後。


 豊穣祭当日の朝は、よく晴れた秋の日となった。


 朝食を終えてから、豊穣の色の黄金のアクセサリーを身に飾り、古代ギリシャ風の白いドレスを着て王都へ。

 ラナンは護衛の為、騎士服を着ている。


 教会の転移陣に移動。

 またも殿下のお出迎えがあった。

 何故勲章を授与される人がわざわざ私の出迎えを?


「……女神の娘が降臨したかのようだ」

「衣装がそれっぽいせいですね」


「バレッタと靴も美しいな。特に透き通るヒールに花が入っている靴とは……こんなに美しい靴を履いてる女性は初めて見た」

「不敬かもしれませんが、実は女神様に贈った物と同種の靴を作ったんです」

「製作者なら許されるだろう。それに、とても似合っている」



 殿下が私の女神風衣装に惑わされている。


 ラナンのエスコートで会場まで行くつもりだったのだけど。

 またこの手を取れと、やや頬を染めて私の目の前に手を出して来る。

 ちょっと照れてる所が可愛い。


「……馬車までエスコートする」

「その為にわざわざ忙しい日に私を待っておられたんですか?」

「そうだ」


 そこまで言われたら照れ臭くても断れない。

 素直に馬車までエスコートされる事にした。

 しかし、私は転移陣のある教会の塔を出てすぐに後悔した。


「な!? 馬車って、あれは花車じゃないですか!?」


 何かのパレードとかで乗ってる人が皇室スマイルみたいなの浮かべて手を振る系の乗り物では!?

 いや、何かのって、豊穣祭のパレードか。


「馬が引いてるのは同じだ」



 え──────!?



「あんな派手なのに、今から二人で乗れとおっしゃる!?」

「そうだが」


 そうだが。ではない!!


「──ええ? 私は普通の馬車だと思っていたのですけど」

「往生際が悪いぞ」


「ラナンとライリーの騎士も一緒で良いですか?

婚約者でもない私がギルバート殿下と二人であれに乗るのは、絶対に無理です」


「仕方ないな。そんな事も言い出すだろうと後ろに席は作ってある」

「……」


 呆然としながら、私は四頭立ての花いっぱいの馬車に乗るはめになった。


 私と殿下が前の席に二人並んで座って、後方にラナンとヴォルニーが並んで座っている。

 リナルドはラナンの肩の上。


 ラナンとヴォルニーの後ろには立って花弁を撒き散らす係の乙女が二人乗ってる。

 頭には花冠を被ってる。


 こういう綺麗な乗り物は自分が乗るのではなく、側から見て撮影をしたかった。

 撮影と言えば今日は丸い方の宝珠をお母様から借りて首から下げて来た。

 ペンダントに見えるから。


 殿下の側近は花車の側を馬で守りつつ移動している。

 美しい花車の行進を見た王都の民は、歓声を上げて祝福してくれる。

 道沿いの家の窓からも花弁が撒かれていて華やかだ。


 結婚式のパレードでも無いのに私、悪目立ちしているのでは!?

 周囲から、パレードに沸き立つ民衆の声が聞こえる。


「見ろ! 花車に綺麗で可愛い天使のような子が乗ってる!!」

「あの銀髪の方が王子様!? かっこいい!」

「後ろにいる人もたいそうな美男美女だな! 眼福じゃないか!」

「プラチナブロンドの少女は年の若い女神で、銀髪の少年は海神の子のようじゃないか」


 海神の子。殿下の小麦色の肌色のせいで、そういう風に見えるのか!



「まるで女神の娘のようだ! 美しいプラチナブロンドだな」

「分かった! あのプラチナブロンドの方が聖女様だ!」


 違う!!


「聖女だなんて、誤解を招いています! 私は降りた方がいいのでは!?」

「気にするな。聖女が現れたら神殿側と国王が告知するのだから」

「ええ……」


 私はもはや早く会場につくように祈るしかなかった。

 お祭りらしく賑やかで出店もいっぱい出てるけど、それどころじゃ無かった。


『せっかく人々が窓からも花吹雪を撒いてくれてるし、ティアも笑ってあげたら』

「リナルド。そんな事言っても、私は今、王子様の隣にいるあいつ何なの状態よ!?」

『貴重な浄化能力者を遇していても、何もおかしくは無いんだよ』

「そうだな。リナルドの言う通り。せっかくのお祭りなのだ。笑ってくれ」


 え──っ!

 殿下までそんな事を……!

 もしかして一人で晒されるのが嫌で私を道連れに!? 考えすぎ!?

 ……でも、せっかくのお祭りなのは確か。


 うーん……。

 確かに皆が喜んでるお祭りだし、笑うべきかな。


『女優になるんだティア! 君は今、祭りの為に雇われた人だと思って!』


 女優!

 そういえば演劇漫画や芸能界物もかなり好きだったのを思い出した。


「分かったわ」


 私は笑顔を作って手を振った。

 遊園地やテーマパークのパレード中の従業員のお姉さんになりきって。

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