第164話 花と女神像

「お祭り会場に大地の女神の像を土魔法で作って花で飾るわ」


 私はそう言って、祭り会場となる、城の手前にある草原に大きな神輿の様な物を用意してもらった。


 その上で私は魔力を練り上げた。

 インベントリから取り出した土の形状を変化させる。


 大地の実りと、豊穣を感謝しながら土魔法で大地の女神像を作った。

 そして軽量化の為、中を空洞にして、破損防止に硬化の魔法をかけた。


「わあ! 凄い! 魔法だわ!」

「像があっという間に! 不思議! 凄い!」


「こら、リラ!静かにしなさい」

「セアラ! 静かに!」

「はーい」

「ごめんなさい。お父さん」


「お嬢様、うちの娘が騒がしくて申し訳ありません」

「うちの娘も礼儀を知らず、申し訳ありません」

「良いのよ。魔法が珍しかったのでしょう」



 12歳位の二人いる農民の娘が私の土魔法に驚き、声を上げた。


 農民の子を二人を選んで指示を出して、女神像に花と稲と麦を飾らせるように呼んだのは私だ。


 大地の恵みを神に感謝するのだから、恩恵があるように、あえて農民の娘に作業をお願いした。

 

 そう、女神を飾るのは何となく若い娘が良い気がして農夫ではなく、農夫の娘にしたのだ。


 娘達はこの役割が光栄だと喜んでくれて良かった。



「さあ、女神の頭上にお花の冠を被せましょう。そこの箱に登って。

箱はぐらつかないように父親の貴方が支えて。

そっちのあなたは腕に稲と麦を花束のように抱えるように。

そう、腕の隙間に入れて」


 メイドのアリーシャが飾られた女神像を見て声をかけて来た。


「まあ。見事な物ですね。祭りの後は、その女神像はどうなさるのですか?」

「女神のお姿を崩す訳にいかないから公園か畑の側で祀るとか」


「良ければ祭りが終わったら、女神様の像は神殿で引き取らせて下さいませ。

雨風に晒されないように、大事に致します。祭りの際はお返し致しますので」


 気がついたら神殿から巫女が来ていたようだ。

 白い服を着た巫女が複数いる。

 私とアリーシャとの会話が聞こえたらしく、声をかけて来た。


「なるほど。

農民がいつでも気軽にお祈り出来るようにしたかったのだけど、たしかに巫女の雨風に晒したく無いと言う気持ちも分かりますし。分かりました。祭りの時や必要な時だけ返却して下さい」


「ありがとう存じます」


 巫女達は深々と頭を下げた。


 * *


「シャンプー、リンス、石鹸の出張店舗の準備完了しました」

「記念品の絵付き蝋燭は巫女が販売致します」

「出店のおにぎり屋とゴヘイモチ屋も準備完了しました」

「イカ焼き屋と串焼き屋の出店も準備完了しました」


「ステージの篝火と花の飾りつけ最終確認終わりました」


「よろしい。皆、協力ありがとう。明日の為にしっかりと休んでくれ」


「「はい!!」」


 次々に上がる報告を聞いたお父様がお祭り準備をしてくれる皆を労った。


 旅芸人一座も数日前に到着してゲルのような天幕の中で待機している。

ステージでは旅芸人一座が歌や踊りを披露してくれるけど、私もその後で大地の女神に捧げる歌を一曲歌う事になっている。


 その話を聞き付けたのか、わりと遠方からも人が集まって来ている。

 祭り会場の近辺の至る所にテントが有るのはそのせいらしい。

 治安維持に騎士も多く出て来ている。


 ラナンも静かに私の側に控えているし、リナルドもラナンの肩に大人しく乗っかってお祭り準備を興味深く見ている。


 私はリナルドに話しかけた。


「チョコと砂糖の瓢箪は祭り当日の明日の朝、城の祭壇と女神像の前にお供えしようと思ってるわ」

『そうだね、それで良いと思うよ』

「良かった」


 *


 会場から城に戻ってみたら城の使用人の皆がそわそわしてる感じ。


「明日の収穫祭楽しみね」

「ええ、久しぶりの収穫祭だもの。家族も喜んでいたし、会場で会えるわ」

「私、お嬢様から以前頂いた布花を髪に飾る予定なの」


「私も恋人が来るからそうするつもりなの。お城から借りて着る服もアイロンをかけたし」

「あら、良いわね。恋人なんていつの間に!」


 ざわざわしたメイド達の楽しげな気配を感じて私も嬉しくなった。


 夜の帷が降りた。


 夕食は明日に備えて軽めの雑炊にした。

 出汁はエビや鯛から取っているから美味しい。


 ステージで歌も歌うし、飲み物は喉の為に蜂蜜レモンを飲んだ。


 

 お風呂も禊ぎだ。

 きっちり入る。


 ──さあ、明日はいよいよ待ちに待った収穫祭の復活だ。

 今夜は早めに寝よう。


 天蓋付きのベッドの前で白い夜着を着て、寝る準備をしていたら、窓を叩く音が聞こえて振り返った。

 透明度の低いガラスの窓だけど、透けて見える小さな影はリナルドだと分かるので、すぐに開けた。


 夕方から夜の散歩に行っていたリナルドが、ピンク色の花を一輪口に咥えて戻って来たのだった。



『薄桃色の月見草が秋風に揺れて綺麗だったから』

「私にお土産? ありがとう」



 私は微笑んで、窓辺に一輪の月見草の花を飾り、この夜を祝福する様に、どこかでまだ咲いてくれていたのを嬉しく思った。

 

 *


 その日の夜は農民達が作物の収穫をしながら歌を歌う夢を見た。

 昔からあった、日々の糧を得られた事、収穫の喜びを神に感謝する歌……。

 それはのどかで、とても美しい光景だった。


 * 


 〜(一方、ギルバート殿下サイド)〜


 ライリー収穫祭前日から、話は少し遡って3日前の王城のギルバート達。


「収穫祭はライリーでセレスティアナが歌うらしいから、花を贈りたい」

「はい、殿下。礼服と花束の準備はできておりますよ」


 赤茶髪の側近のエイデンは花束を三つ程用意していた。


「普通の花束なら誰でも贈れる。花束ではなくて、歌の最中に花を飛ばしてステージを盛り上げたい」


「え? お祭り3日前になってそんな事を」


 側近のエイデンは頭を抱えた。


「風魔法でゆっくりと、ステージとステージ付近に花を降らせる」

「花弁をですか?

花吹雪は見栄えしますが、会場がどんな所か分かりませんが、後で掃除をする人が大変では?」


「じゃあ花そのものを壊さないようにゆっくりと降らせる」

「お花なら拾った人もお土産に出来ますね」


「流石リアンだ。良い発想だな。其方に水晶を預けて撮影を任せる。

俺は風魔法の維持に集中しつつ歌うセレスティアナに注目するから」


「御意」

「どうやら花束3つでは足りませんね。至急花屋に連絡をしなければ」


「良い事考えた! 歌の最後に布花も混ぜよう! 布花なら枯れない!」

「殿下! お祭り三日前ですよ!」

「落ち着けエイデン。布花は沢山じゃなくて良い」


「ではいくつにしますか?」

「15個位なら間に合うか」

「まあ、その位ならなんとか」


 ギルバートが急に言い出したセレスティアナへのサプライズプレゼント。

 ステージに花を降らせると言う、ギルバートの計画の為、俄に慌しくする側近達だった。

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