第163話 チョコかけ苺

 ライリーの城に帰還して、持って帰った分のお米を干しておく。

 お米を食べるのはしばらくお預け。


 出迎えてくれたお父様の赤い髪を見て、ふと、苺を連想した。

 そうだ! 苺にチョコをかけてみよう!


 *


 まずはお茶の時間に両親を呼んで、収穫時のクリスタルの記録を見せる。



「ほう、見事に実った物だな。感無量だ」

「無事に育ってほっとしましたわ」

「本当に良かったです! あ、ほら、私が最初のひと刈りをしたんですよ!」

「良かったな。カマは重くは無かったか?」


「何気に身体強化魔法を使いましたので、何とかなりました」

「なるほどな」


 畑の様子を記録したものをスクリーンに映し、鑑賞しつつも、私は苺に串を刺して、とろりとしたチョコをかける。


 あ──っ! やっぱり苺とチョコの相性は最高!


「これは……チョコレートと言う物は美味しいものなのだな」

「……本当に。苺にかけたら更に美味しいですね」

「お父様もお母様もそう思いますか? 私もチョコは最高だと思います!」


 チョコかけ苺をしばらく堪能した。

 バナナがあればチョコバナナが出来たんだけどね。


 今度はチョコレートパフェを作ろうかな?



「奥様。お嬢様。そろそろ収穫祭と豊穣祭のドレスの試着のお時間です」

「分かったわ」


 メイドの言葉に一声返して、お母様がスッと席を立った。

 背筋がシャンと伸びていて美しい。


 確か落語家の言っていたのを聞いたのか……「立てば芍薬、座れば牡丹」みたいな言葉が脳裏をよぎる。

 


「お父様の新しい礼服の方はどうなっているの?」

「私のは完成して試着も終えた。問題は無かったよ」


 お父様はそう答えたが、


「まあ、あなた。私はその話を聞いていませんでしたよ」

「特に問題はなかったから、言っていなかったのだが?」


「お父様。

お母様は新しい礼服を試着したお父様のかっこいいお姿を、一番に見たかったのではないかと思いますよ」


「え? ああ、そうなのか? シルヴィア」

「……そうです」


 やや拗ねるお母様を、「ははは、すまない」などと言って宥めるお父様。

 本当に可愛い夫婦だわ。

 ほのぼのとした気分になる。


 私もお茶を置いて、試着をするアトリエへ移動。


 女性の仕立て屋、針子の並ぶ中でドレスを試着する。


「……ぴったりね」

「奥様、とてもお綺麗です」


 ドレスはお母様のサイズにぴったりに仕上がっていた。

 仕立て屋もうっとりと賛辞を述べる。


「お母様。エレガントかつ、セクシーで素敵です。

赤いドレスに黒いレースのドレスがよくお似合いです」


「黒いレースで色気が強すぎないかしら? 娼婦のように見えない?」


「お母様は元々セクシーな美女です。

このドレスは背中が大きく開いている訳でも無いので大丈夫かと。

赤は秋色ですし。

黒も赤字ではなく黒字を表して、収穫祭のドレスとして問題無いと思います」


「それなら良いのだけど」

「更にアクセサリーに豊穣のシンボルの金を使いましょう」


 私の言葉に反応して、お母様のメイドが用意していた金色のアクセサリーを差し出して来る。


「ブレスレットはティアがくれたアレキサンドライトを使いたいわ」

「はい、奥様」

「金のブレスレットと重ね付けで良いと思います」


 私も頷いて賛同した。


 私の方の収穫祭用の赤いドレスは前が短く、後ろが長いアシンメトリーなデザインだ。

 前世では珍しくない。

 足が目立つデザインである。


 髪には沢山の小さな実の生る枝葉デザインのダイヤモンドのカチューシャを飾る。

 実の部分がダイヤモンドで作られている。


「とても素敵よ、ティア」

「お嬢様、足が見えてとても斬新なデザインですが、とても綺麗で、魅力的なドレスですね」


 メイドからは、私のドレスを褒めながらも、子供とは言え、そんなに足を見せて大丈夫ですか? と言う心配を感じる。


「最新流行のスタイルになるかもしれないのよ」

「なるほど! 流行をお作りになるのですね!」

「ふふふ」


 私は自信あり気な笑みで誤魔化した。

 単に着たい服をデザインしたらこうなっただけなんだけど。

 せっかく容姿レベルがSSRなんだもん。

 多少は冒険しても良いよね。


 次にラピスラズリのドレスと同じような女神風デザインの白いドレスを試着。


「お嬢様は白を着るとまさしく天使のようですね」

「本当に素敵ですわ」

「ありがとう」


 針子やメイド達の賛辞に微笑んで礼を言う。


「ティアは王都の豊穣祭のドレスを白の女神風?デザインで、ライリーの豊穣祭用のドレスを赤に変更したのね」


「はい、お母様。

当初は国から赤い生地を賜ったので、それを王都の祭りに使おうかと思いましたが色を逆にしました。

よく考えると壊血病のあれで赤いドレスを着るより、清浄なイメージの白いドレスの方が良いかなって」


「それもそうね。

ところで、私がジークから貰った……人魚の真珠の首飾りはいつお披露目しようかしら」


「冬の聖者の星祭りで良いのでは無いですか?」

「……そうね。聖夜にあの真珠が星のように輝いてくれるでしょう」


 ──うんうん。

 とっても素敵だと思います。


 * *


 お祭り用の衣装の最終チェックも終えて、乙女ゲームシナリオを書く合間に、趣味のドール作りにも手を出す。


 ドールウイッグ用の染色も人の手も借りつつ完了した。

 茶髪と赤髪とピンク髪。


 ドールのお顔も土魔法を使い、粘土で、人形を一体作る。

 それを固める樹液で型取りし、その型にさらにまた肌色の着色をした固める樹液を流し込んで固める。

 とりあえず一旦ボディ作成はここでおいておく。

 後に仕上げをして、眉や睫毛とか顔を描いたりする予定。


 着色より先にドールの頭にはサランラップの代わりに、魔物のスライムを変化させた素材のラップを被せる。


 スライムラップの存在は殿下のくれた魔物素材本にあったので取り寄せた。


 どこの天才がスライムにこんな便利な魔法加工をしてくれたのか知らないけれど、ありがたい。


 なお、アルミホイルみたいになる種のスライムもいて、それもゲットした。

 ホイル焼きが出来る。焼き芋用にさつまいもが欲しい。

 おっと、脱線した。


 スライムラップの上からガーゼのような布を被せてノリを塗って、乾燥させて固まってからラップごとドールの頭部から剥がす。

 更にラップをガーゼから剥がす。


 頭部の丸みをキープしたままガーゼをウイッグ用のキャップとして縫う。

 後はキャップにドール用の髪の毛を糸のように針に通して縫い、植毛作業。


 後は時間のある時にお顔を描くのよ。

 完成が楽しみ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る