実りの章
第162話 実りの秋。収穫の時。
秋が来た。
収穫の時が近い。
田んぼの方は水を抜いて落水。
土にはヒビが入っている状態。
稲を乾かして登熟を完了させ、10日後の晴れた日に稲刈り。
今の所、指示通りに動いてくれてると報告は来ている。
稲刈りの日にはまた竜騎士さんの力を借りて行く予定。
脱穀の道具は千歯扱き。
これも工房に注文してたのが間に合って良かった。
現地にはもう届いてるそうだ。
千歯扱きはたくさんの歯を並べ、穀物を歯と歯の隙間に挟んで引いて脱穀する農具で、歯の数は19本で歯と歯の間隔は約2~3mm。
鉄製のギザ歯と言うよりパッと見、櫛みたいな形をしている気がする。
機械を使わないお米作りは大変だけどお米が食べたいから農民さんに頑張って貰うしか無い。
いつか足踏み式の脱穀機も作れたら良いけど……。
なかなか一足飛びには難しい。
瓢箪の方はめちゃくちゃ魔法植物だし、楽だ。
ぶら下がってる瓢箪の実のすぐ1センチ位上の蔓の部分を切ればまた伸びて瓢箪が出来る仕様だから。
* *
夕刻。晩餐の準備に厨房に来た。
メニューはラム肉のステーキとサラダとコーンポタージュスープ。
胡麻油を回しかけたサラダの具はキュウリとトマトとレタス。
────そう。
本日のメイン料理は骨付きラム肉のステーキ。
下味には塩コショウして、タイム、ガーリック、パセリ、ローズマリーを使用。
一部、匂いを気にする人用にガーリック抜きのも作る。
下味を付けたらオリーブオイルを満遍なくかけて下準備は終わり。
オーブンかフライパンで焼けばいいけど、城は人数が多いから両方でやる。
「肉同士はくっつかないように離して焼いて。良い焼き色がつくまで」
「はい、お嬢様」
オーブンを開けるなり、香ばしい香りが厨房に広がった。
本日のメイン料理のお目見えだ。
「すごく美味しそうな匂いがします」
「食欲をそそりますね」
「そうね。後はグレイビーソースをかけて出来上がり。味見して良いわよ」
「ありがとうございます!」
料理人達がそわそわしてるから味見をさせた。
「とても美味しいです!」
私は頷いて、貴族用の食堂に移動した。
*
食堂では既に両親とアシェルさんが席についていた。
私も指定の席に座る。
料理が運ばれて来て、次々とテーブルの上に置かれた。
ナイフで骨から肉を切り離し、口に入れる。
「ハーブやガーリックの風味と微かな野性味を感じるね」
アシェルさんが最初にラム肉のステーキの感想を言ってくれた。
「私はガーリック無しの方で。……しっかりとしたお肉の弾力も感じますね」
「噛むほどに味わい深いな」
お母様は匂いを気にしてガーリック無しの方を選んだっぽい。
お父様も満足気に味わって食べて下さっている。
私もステーキを味わう。
「やはりガーリック有りの方が美味しいですね。
あ、お母様、ソースは一応ガーリックを抜きましたよ。醤油は入っていますけど」
「良かった。ショーユなら大丈夫……」
「匂い消しにりんごジュースも一応用意してあります」
「とりあえず私はりんごジュースをいただこう」
「私もジークと同じりんごジュースを」
「私の飲み物はワインをお願い」
執事がお父様とアシェルさんと私にりんごジュースを。
そしてお母様にワインを注いで渡した。
もちろんサラダやスープも美味しくいただいた。
満腹。
* * *
数日後。
収穫の時。
晴天に恵まれた! 今はお昼少し前の11時くらい。
畑には一面の黄金色。
テンションが上がる。
アシェルさんとライリーの騎士を同行者に、竜騎士さんとの力を借りてお米の初収穫に来た。
目の前の稲穂は重そうに頭を下げている。
カマを持って、初のひと刈りは私。始球式並みに緊張する。
いや、始球式は経験した事無いけど。イメージである。
身体強化の魔法をかけてから、左手で稲を掴み、右手でカマを握って、でザクッと刈った!
途端にわ──っ! という、周囲からの歓声と拍手が響いた。
「セレスティアナ様! おめでとうございます! オコメ初収穫ですね!」
「「おめでとうございます!!」」
「ティア。おめでとう!」
「皆さん、アシェルさんもありがとう!」
喜ばしい雰囲気に包まれて、お米の初収穫は成った。
ちなみにこちらで既に食べているファイバスとは品種が違うから、お米と呼ぶ。
後は刈った稲を藁で縛って、稲架掛けで乾燥させた後で脱穀作業。
脱穀前に束ねた稲を棒などに架けて約2週間、天日と自然風によって乾燥させるのだ。
この乾燥期間に収穫祭を行う。
先に文章と図面で説明はしてあるけれど、念の為、稲架掛けと脱穀のやり方を再指導して、少しだけ城で食べる分を持って帰り、あらかじめ用意していたファイバスの塩おにぎりとカブの漬物を昼食用に農民達に配って、後は任せる。
次に瓢箪畑に移動する。
何しろ竜騎士を呼んでいるので、あんまりゆっくりはしてられない。
こっちも初の瓢箪を切るのが私。
「ティア。私が抱えてあげるから」
「ありがとう。アシェルさん」
収穫祭の準備で忙しいお父様の代わりに、アシェルさんが同行者なので、私がチョコレート瓢箪に届くように抱えてくれた。
ジャキンとハサミで蔓を切った。
「あ、結構ずっしり!」
「どうぞ、お持ちします」
騎士のレザークに瓢箪を一旦渡す。
「じゃあ次は砂糖瓢箪の方だね」
アシェルさんの言葉でチョコレート瓢箪畑の近くに有る砂糖畑に移動して、またも収穫。
こちらも周囲から拍手と祝福の声をいただいた。
『さあ、瓢箪の先っぽを切って中身を味見してみるといい。
チョコは薄い色の瓢箪はそのまま舐めて美味しい味になっていて、少し濃い色の瓢箪がちょっと苦いよ』
リナルドの言葉通りに薄い色のチョコ瓢箪はそのままで美味しい、飲むチョコレートだった。
少し濃いのはビターチョコの味だった。
久しぶりのチョコの味だ!
感動────っ!!
「とろりとして美味しい! 薄い色の方は砂糖入れてないのに既に甘い! 完成された味!」
『砂糖の方は?』
砂糖の瓢箪を傾けて手の上に少し出してみた。
さらりと白い砂糖が溢れ出る。……綺麗で粒が細かいお砂糖。
よし! 舐めてみよう。
「……ぺろっ。これはまさしく砂糖! 本当にそのまま! 甘い!」
『良かったね。おめでとう』
「ありがとう!!」
お──っ! と歓声が、また上がる。
「皆も試食してみて! 小皿とコップに入れるし、パンも置いておくから、チョコをかけて食べてみてね。紅茶は砂糖抜きだから、一口飲んだ後に、砂糖を入れて飲んでみて」
賑やかに試食会が始まった。
ちょうど今がお昼くらいだから、このチョコパンがランチで良いよね。
ここにはざっと60人位の人がいる。
収穫を手伝ってくれる農民と護衛の騎士達と移動の為の竜騎士達だ。
テーブルセットを設置して、パンはバゲット、食パン、ロールパンの三種を置いてある。
紅茶は砂糖抜きでポットの中。
ティーカップとスプーンも完備。
「チョコ美味しい──っ!」
「うま───っい!」
「こんなに美味いもの生まれて初めて食った!」
「すごく甘い! 凄い!」
みんな、大丈夫? 語彙が消失しているみたいけど。
「こっちは少し苦味がある。けど甘すぎなくて良い」
「これは上質な砂糖ですね」
「パンも紅茶もすごく美味しいです!」
「チョコって言うんですかコレ? 美味し過ぎませんか!?」
手伝いに呼んだ老若男女が皆、瓢箪のチョコと砂糖の味に感動している。
ラナンもチョコが気に入ったみたい。
美味しいです。と、愛らしく微笑んだ。
「城に持って帰る分を収穫します! 皆様手伝ってください!」
「「はい!!」」
私の声でハサミを持って収穫の始まり!
秋晴れの気持ちの良い、記念すべき素晴らしい日だわ。
農民以外も集まる賑やかな収穫祭のパーティーは、収穫を全部終えた数日後にある。
こっちも楽しみだな!
とりあえず城に戻ったら持ち帰り分の稲を干して諸々準備出来たら食べよう。
そして念願のチョコ味をもっとじっくり落ち着いて堪能しよう!
それと────
「ジェイク卿、お願いがございます」
「はい? 何でしょうか?」
「王都に戻られる時にパンとクッキーとチョコ瓢箪をお渡しするので、ギルバート殿下にお渡していただけませんか? チョコはパンやクッキーにかけるだけで美味しいと説明付きで」
私は側にいた竜騎士のジェイク卿にチョコを届けて貰う事にした。
「仰せのままに。殿下もお喜びになるでしょう」
殿下も豊穣祭や勲章授与の件で忙しいだろうから今回呼んでいなかったから、せめて採りたてチョコを差し上げましょう。
「はい。よろしくお願いします」
その時、少し強い秋の風が吹き、竜騎士の青いマントが風に靡いたのを瞳に捉えた。
私はチョコレートの甘い香りが広がる中で、殿下の美しい、青い瞳を思い出していた。
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