第161話 ちょっと畑の様子を見てくる
「この綺麗な日傘をいただいたのね。お礼をしなくては」
お母様が日傘を開いて、白いレースを眺めていた。
エレガントでとても似合う。
夏の陽射しの中、白い日傘を差す美女は絵になるので、私は噴水前でクリスタルを構え、撮影させて貰っている。
「問い合わせがあった冷蔵庫を返礼品にしてしまえば良いのでは」
「それで……良いのかしら?」
お母様の長く美しい銀髪が振り返る瞬間にふわりと揺れる。
今日は爽やかにポニーテールだ。
「相手が確実に欲しがっている物なので外しはしないかと」
「そう、ではギルバート殿下用の冷蔵庫を無償で贈るという事ね」
「はい」
あの日、日傘の他に貰った本は魔物、魔獣の素材の本だった。
どんな魔獣からどんな素材が取れるとかいう、便利な物。
冒険者のアシェルさんに借りて少し読ませて貰った事がある。
こういう情報をまとめた本は自分でもずっと欲しかったのを殿下はご存知だったのか、それとも殿下の私物をくれたのか、分からないけど。
ぬいぐるみは……私物だったような気がする。
後日、殿下の優しさと、美しいものを見たり、歌を聞いたりして、モチベが回復したので、ドレスと礼服のデザインも終わったから、後は仕立て屋とミシンに任せた。
蝋燭の絵付けも畑の視察前には終えた。
*
7日経って、畑に様子を見に行ける日になった。
移動時間短縮の為、報奨金を使って竜騎士を呼んだから、ついでにワイバーンに獣避けのおしっ◯も畑に撒いて貰うとしよう。
「今日も同乗宜しくお願いしますね」
「はい、セレスティアナ様。お任せ下さい」
本日も竜騎士様に相乗りをお願いして、早朝から空の旅。
ワイバーンに乗って、夏の蒼穹の中を飛ぶのは気持ち良いなあ。
風が気持ち良い。
もうじき夏も終わるから、この見事な青空をしっかりと堪能しておこう。
しばらく空の旅を満喫して畑に到着。
「ああ〜! 育ってる! 瓢箪の形をしているわ!」
支柱を立てた畑に沢山薄い緑色の瓢箪が沢山ぶら下がっている。
葉っぱが風に揺れている。
『もう少し瓢箪が育てば収穫出来るよ。
葉が茶色になるのを待つ必要は無いよ。魔法の瓢箪は枯れないから』
「また実ったら収穫出来るって事なのよね?」
『そうだよ』
リナルドが支柱の上に止まって説明してくれた。
ありがたい話だわ。
もうすぐ砂糖とチョコレートが手に入ると思うと、本当に嬉しいな。
特にチョコレート!
よーし。
クリスタルで撮影しておいてお父様やお母様にも見せよう。
去る前にワイバーンのおしっ◯結界も忘れずにやって貰った。
*
次は田んぼの方に移動。
米の田んぼの方もまだ生き生きとした緑色の葉だけど、稲穂も曲線を描き、実もしっかり詰まってる感じで良かった。
若若しく元気な田んぼはエネルギーが溢れている気がする。
よし!
インベントリで机を出して、土魔法で椅子を作って、稲穂を眺めながらお昼ご飯にしましょう。
「ピザを城で焼いて来たの。すぐに食べられるように」
「香ばしい香りがします。美味しそうですね」
ピザはインベントリから出しても焼き立ての美味しい香りがそのまま。
飲み物もレモネードと水を用意してテーブルの上に置いた。
BBQセットも出して、とうもろこしとソーセージを網の上で焼く。
「トウモロコシは皮をむかないで、皮付きのまま炭火にのせて焼いて」
「はい。炭火は強火でよろしいですか?」
「ええ、強火で良いわ。皮は焦げても大丈夫。
皮の中でトウモロコシが蒸し焼きになり、ジューシーで美味しく焼きあがるから」
「了解」
アシェルさんとライリーの騎士が、ピザを食べながらも、焼きの作業を手伝ってくれる。
「時々焼きトウモロコシを焼き網の上で転がして、全体的に皮が焦げてきたら頃合いだから一気に皮をむいてね。
あ、とうもろこしに醤油をかけたい人はここにあるから」
私はインベントリから醤油瓶を出して机の上に置いた。
「「はい!!」」
「今回もピザが食べられるとは。嬉しいです。」
「このとうもろこし! 甘くて美味しいですね!」
「このピザ、耳までチーズが贅沢に入ってる! 美味しい!」
「やはり照り焼き味のピザが至高」
「こっちのシーフードもいけるぞ」
「このトッピングのイカ、美味しいですね」
「そのイカはクラーケンですよ。美味しいですよね」
「ええっ!? クラーケン!?」
私がトッピングのイカをクラーケンだと話すと竜騎士さん達がびっくりした。
同行したライリーの騎士が「本当にクラーケンですよ」と肯定してくれた。
私は甘いとうもろこしに齧りつきながら、頷いている。
この焼き色と香りが何とも言えず、最高。
美味しい物を食べてる時は、皆幸せそうな顔をしているので、私はまたクリスタルで撮影した。
リナルドもとうもろこしを齧っている。
可愛いからこっちも撮影した。
*
食事の後はまたワイバーンで移動。
竜騎士さんは生き生きとした草原の緑がよく見えるように、低空飛行までやってくれた。
草海原のすぐ上を掠めるように飛んだり、上空に登ったり、蒼穹の中でいっぱい風を感じた。
涼しい……!
しばらく空の旅を楽しんだら城に帰還。
「本日もお疲れ様でした」
お迎えに出てくれたお母様が竜騎士達に声をかけて報酬を渡す。
絶世の美女から労って貰えて、お金まで貰えるって素敵ね。
「こんなに楽しんで報酬まで貰える仕事はそうありませんね。またいつでもお呼びください!」
竜騎士達も満面の笑みで転移陣からワイバーンごと去って行く。
お疲れ様でした!
「ティア。畑の様子はどうだったの?」
「クリスタルで撮影して来たので、お父様も一緒にお茶の時間に致しましょう」
「そうね」
私の様子で大丈夫そうなのは察したのか、お母様は柔らかく微笑んだ。
庭園を歩くお母様の隣ではメイドが日傘をさして陽射しから守っていた。
私もせっかくなのでインベントリから日傘を出して城に向かおうとした。
その瞬間、
「マイレディ。傘をお持ちしましょうか?」
イケボに振り返ると、やっぱりお父様だった。
好き!!
お父様が私の日傘を受け取り、代わりに差してくれて、私達は仲良く並んで庭園から城に向かったのだった。
* * *
〜(一方その頃のギルバート王子)〜
「うっ」
「ギルバート殿下? 如何なさいましたか?」
「セレスティアナから、御礼と冷蔵庫をくれるらしい内容の手紙が来たのだが」
「ああ。冷蔵庫は高価そうですが、いただけるのですか。良かったですね」
「それはともかくとして、便箋に可愛い猫が二匹描いてある!」
そう言ってギルバートは側近のエイデンに己の手に持っていた手紙を見せた。
デフォルメされた猫が二匹描いてある。
「二匹の猫が……寄り添って……愛らしいですね。絵が大変お上手です」
「可愛い過ぎる……何故猫なんか描いたんだ! しかも二匹並べて!」
「猫のぬいぐるみを差し上げたからでは?」
「そうだろうが! やる事が可愛い過ぎる!
色を付けたらこの二匹の猫の目の色は、もしや青と緑だったりするのでは!?」
「深読みが凄いですね。ところで可愛いくて何が悪いのですか?」
「俺が死ぬ!」
「そんな事で死ぬ訳は無いでしょう。早く仕事をして下さい」
エイデンは机上の書類の山を指差して言った。
「まだこの愛らしさを噛み締めていたい。仕事とか無粋な事は言うな」
ギルバートはそう言って机の上に顔を伏せた。耳まで赤くなっている。
「全く……あと少しだけですよ」
赤茶髪の側近のエイデンは、やれやれといった風情でため息をついた。
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