第158話 白い服の少女

 サンプルのシナリオに画像を合わせて、シナリオに分岐も付けて、ちゃんと先に進むかテストしたら、成功した。


 これならちゃんと、キャラデザとシナリオに着手出来る。

 一旦ゲームとして成立する事は確認出来たので、シナリオと絵が出来上がるのにはまだ時間がかかると錬金術師の先生には説明をした。


 けれど、ライリー城に先生の部屋と工房は残しておくので一旦帰りたいならどうぞ的な感じにした。

 好きな様に本拠地とこっちを行き来してくれみたいな。

 ずっとライリーに縛り付けたくはないから自由に行き来して貰う。


 とりあえず、今最優先ですべき事が、秋の収穫と収穫祭に向けての準備である。

 自分の新しいドレスと両親の服のデザイン。

 そしてアトリエに発注。

 祭りで売る蝋燭に絵付け。

 まあ、蝋燭は無理に売らなくても良いのだけど……。

 収穫祭の復活記念に少しくらいは用意したい。


 他は収穫祭に呼ぶ、盛り上げ役、歌い手や旅芸人の募集告知など。

 でもこれは大人に任せればいいかな? 

 私全く知らないし。


 王都の豊穣祭に新しい赤い色のドレス。


「お嬢様。

王都の豊穣祭が赤いドレスで、ライリーの収穫祭の方のドレスはどのようにするのですか?」


 アリーシャが室内に有る冷蔵庫から冷たい飲み物を用意しながら、問うて来た。

 赤い色が綺麗な紫蘇ジュースである。


 ……古代ギリシャやローマ風の白い衣装にしようかな。


「んー……、デザインをラピスラズリのドレスに似たやつにすれば作るの楽だし。

丈は今回はお母様じゃなく自分に合わせれば引きずらずに済むかなって思ってるわ」


「分かりました。それと、お部屋から出る前にお着替えを致しましょうね」

「今日は白いワンピースに髪型はツインテール。リボンは白」

「かしこまりました。すぐにご用意致します」


 *


 執務室にいるお父様に収穫祭に呼ぶ芸人の事を相談してから廊下に出て来た。

 ラナンと雑談しながら廊下を白いワンピース姿で並んで歩く。

 壁に飾ってある、先代の辺境伯の肖像画が目に止まった。

 きりりとした男らしい、お髭の威厳たっぷりのイケオジが描かれている。


「ラナン、目で私が集めた参考資料画像を見て、絵を描く事は出来る?」

「我が君と同じくらいなら」


 そうだ。

 リナルドが基準は私くらいって言っていたわね。


 リナルドは今は私の部屋のベッドの枕元に置いた籠の中で寝てるから、置いて来てる。

 エアリアルステッキで部屋は涼しくなっているので、気持ちよさそうだった。


「でも髪型とかはまんま描く訳にはいかない。

モデルがバレバレになるから、そこは変えて描く必要があるの」


「前、後ろ、横の髪型が分かるようにキャラクターのデザインを紙に起こしていただけたら」

「よし、ならば絵はなんとかなりそうね」


 キャラデザもやらなきゃと思いつつ、肖像画の有る廊下を抜け、一階に向かう。


「さて、昼食はラナンが素手で取ってたお魚にアジっぽいのいたし、アジフライにしようか」

「私は何でも大丈夫です」

「よし、厨房にリクエストを伝えに行こう」


 

 ではやはり、昼食は前世の話だけど、大人になると何故か好きになったアジフライにしよ。

 子供の頃は好きじゃ無くても、後から良さが分かる食べ物って有るよね。

 アジフライとか野菜炒めとか茄子やピーマンの料理とか。


 厨房に行くと追加で用意したエアリアルステッキミニの涼風が吹いて来た。

 夏場の厨房は暑くて地獄だと思い出したから、壁に設置したのよね。


「お嬢様! ありがとうございます。涼しいです〜〜」


 入るなり、厨房の料理人達が泣いて喜んだ。

 そろそろ昼食準備中でサラダ用の野菜を包丁で刻んでいたようだ。


 厨房にふっと爽やかなハーブのような香りがしたと思ったらアシェルさんが扉を開けて入って来た。


「ティア、ここにいたか。

アラクネーの糸、ギルドにあったから、買って来たよ。

ティアの工房に置いて来たから」


「アシェルさん! ありがとう!」


「これくらい何てことはないよ。所で昼食は何?」

「ちょうどお魚のアジをフライにして欲しいとリクエストに来たの」

「揚げ物だね。サクっとした食感が美味しいから好きだよ」


「料理長。

付け合わせのトマトときゅうりは裏庭の菜園の物で、キャベツは仕入れたやつね」


「はい。そうでございます」


 新鮮野菜の在庫がまだあると確認を終えたので、邪魔にならないように厨房を出た。

 次に使用人達の使う食堂で水、お茶、ジュース、お酒などを冷やした冷蔵庫の中の在庫を確認。


 わりと減ってる……ならば、ちゃんと活用はされているわね。


「あ! お嬢様のおかげで仕事終わりに冷たい物が飲めるようになりました!」


「屋台の串焼きも嬉しかったです。ちょっと小腹が空いた時に便利でした」


「俺、いや、私もクラーケンを食べた事、先日の休みに家に帰って実家で自慢しました!

まさかあんな冒険小説でしか知らないような魔獣が美味しいとは驚きでした!」


 休憩に来たらしい執事と交代時間の来た門番が声をかけて来た。

 気分良さげに、冷たい水にレモンを絞った物を飲んでいるようだ。

 クエン酸パワー注入かな。


「良かったわ。夏はしっかり水分と塩分を摂って脱水に気をつけてね」

「はい!」

「今年はライリーでも収穫祭をやれそうだから、皆もお祭りを楽しんでね」

「「はい! ありがとうございます!」」


 執事の次にメイドが声をかけて来た。


「初めは水着になるのが恥ずかしかったのですが、暑さに耐えかねて水に入ったら本当に気持ちが良かったです。私達までプールで涼めるようにして下さって本当に嬉しいです。

今は食堂には冷たい物があるし、あ、屋台のガレット屋さんや串焼き屋さんも美味しくて嬉しかったです!」


「私も収穫祭はお嬢様の用意して下さった付け襟でお洒落してお祭りに参加させていただきますね!」


 使用人達に感謝された。

 周囲で笑顔が増えていくのは本当に嬉しいな。


 食堂は厨房と繋がっているのでエアリアルステッキの送る涼しげな風が、ここまで来ている。


 おまけに美味しそうな香りも厨房から漂って来る。



 ーーもうすぐ食事の時間ね。

 お父様やお母様のいる貴族用の食堂に移動しよう。


 揚げたてのアジフライを食べるんだから!


 それとちょっとお行儀が良く無いけど、食事中に上映会するんだ。


 色々と書類仕事の手伝いで忙しそうだったお母様にも見て貰いたいから。

 クリスタルの記録に有る、美しい人魚さんの姿を。



 私は窓から差し込む午前の光の中を、軽やかな足取りで廊下を歩いて行った。

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