第157話 ぷかぷかと

 魔物討伐からライリーに帰って数日後。


 ナイトプールって凄いパリピ感あるな……と、思いつつ、私は夜のプールで涼んでいる。

 月光と魔法の光に照らされた水面の揺らぎを、ゆったりと眺めながら。

 

 錬金術師のヤネス先生が貰った水着のお礼にと、水に浮かぶ巨大貝を作ってくれたのだ。

 巨大な貝自体は魔物の素材らしい。


 パカリと口を開けたアコヤガイのような貝が水に浮いていて、椅子のように座れるし、貝の端は足が触れても傷が付かないようにシリコンのように変化しているスライムで加工してある。


「魔道具の灯りで水の中からも照らすと、本当に幻想的で綺麗なものね」


 お母様はプールに足だけを浸けてゆったりとトロピカル風ドリンクを飲んでいる。

 昼間のプールよりよりリラックスしている気がする。


「シエンナ様が新婚旅行で来ていた時もナイトプールがお気に入りのようでしたね。

夜に照明で照らされたプールはムードが有りますし」


「そうだな。昼とはまた違う良さが有る」


 お父様はプールの中で泳いだりして涼んでいる。


「そういえば、魔物討伐の報奨金やお品が届いていましたけど」


 そうそう、もう報酬が届いていた。

 驚きの速さ。


「ああ、金貨の他はダイヤモンドと赤と黒の生地を賜ったな」


「赤と黒の生地は秋の収穫祭に間に合うように、ミシンを使えばドレスと礼服が作れますね」


 お母様に赤いドレスを作りたいな。

 それに黒のレースを追加すればかなりセクシーなドレスになるだろう。

 ワクワクする。

 黒の生地はお父様の礼服を。


「殿下の勲章授与式は人が沢山集まるという理由で王都の豊穣祭の時に執り行うのでしょう。

ライリーの秋の収穫祭とは日程が違うから、ティアは新しいドレスで参加して差し上げなさいね」


「私のドレスですか? 私はお母様に赤い生地でドレスを作りたいと」

「ティア。私は今回魔物など狩っていませんから、このご褒美の生地は貴女が」


「お母様。じゃあ赤い生地で二人分のドレスを作りましょう。

そして黒い生地はお父様の新しい礼服用に」


「ミシンは空いているのか?」


「使用人用の貸出し用水着も既に作り終えましたし、大丈夫でしょう。

馬車の座面縫いはミシンを売った先に半分は外注しましたし」


 私の提案で使用人もプールを使えるようにしてある。

 夏は暑いからね。


「騎士や使用人達も我々が入らない時間にプールに入って良い事にしたし、涼めて嬉しいみたいだ」

「そうですね」


「ところでダイヤはどうする?」

「小さいダイヤモンドをいくつか使って髪飾り……カチューシャを作りたいって私が言ったのを殿下が覚えていて下さったんでしょうけど」

「なら、カチューシャを作れば良い」

「じゃあ、細工師に回しますね」


「お嬢様──!! ギルドから樹液の納品が来ましたよ」


 プールサイドからアリーシャが声をかけてくれた。


「ありがとう! でも何で夜に?」

「日中が暑いから夕方から活動したそうです──!!」

「──ああ、暑いからね! なるほど!」


「ティア。今度は何を作る予定なの?」

「えっと、お人形とか……」

「え? 普通の女の子のような物も欲しかったんだな。気が付かずにすまない」



 ──意外に思われた。

 ははは。ただのオタクなので。


「いいえ。それと、ギルドが買い取った物の在庫リストって見れたりしないのでしょうか?」

「ギルドの素材の在庫はすぐに変動するぞ。何が欲しいんだ?」

「よく伸びるゴムの代用品になるような……魔物図鑑にあった蜘蛛の魔物。アラクネーの糸とか」


 私はゴムのような物を使って、関節の動く人形を作りたいのだけど、蜘蛛は苦手なので自分で狩りに行けないのである。


「ではアラクネーの糸を指定して、入れば連絡をくれるようにしておこう」


「私が明日、ギルドに行く用事があるから、アラクネーの糸があるか見て来てあげるよ」


 また急に出て来るエルフなのである。


「あ! アシェルさん! ありがとうございます!」


「せっかく私も水着を貰ったからね、着てみたよ」


 アシェルさんには短パンの上から腰に緑色の布を巻き付けるタイプを渡した。

 短パンだけだとなんかエルフのイメージに合わないので。


「お似合いです」

「そう? ありがとう」


 白くて透明感の有る肌の……エルフの水着姿を、夜に見てしまった。

 魔法の光に照らされて何とも麗しい……。



『ぶ──ん』



 アシェルさんに視線を奪われていたら、急にリナルドがプールサイドから飛んで来た。

 私の頭上に華麗に着地。


 ぶ──んって、君、擬音を自分で言ったのが、ちょっと面白いな。


 その謎のテンションは一体……?

 もしかして夜行性の妖精だったの?

 ──まあ、面白いから良いけど。


 ふと、ビーチサイドを見ると、ラナンがビーチチェアに座って、水着姿の錬金術師の先生と話をしていた。

 え、もしやこんな所でも仕事を?

 クリスタルの中にある参考資料を見せて画像を指定しているように見える。

 私が日中、ラナンにこれとこれ──とか、言ってたやつだと思う。


 ……ヤネスさんも迷惑そうな顔はしてないというか、むしろ楽しそうだから良いけど、遊ぶ時は遊んで良いのよ?


 でもどうやら乙女ゲーム制作も着々と進んでいる。

 楽しみだな〜。


 とりあえず明日はドレスと礼服のデザインをしよう。



「イカのタレ焼きお持ちしました──!!」



 メイドの声にはっとする。

 香ばしい香りがする。

 クラーケンはとても大きかったのでまだ食材としていっぱい残っているのである。


「ところでこれ、どうやってプールサイドまで移動すれば良いのかな」


 私はオールも無しに大きな貝に乗ったまま、水に浮いている。

 乗った時は、お父様の手を借りたのだけど。


「私がまた、引っ張ってやろう」 


「お父様! お世話かけます……!」

 

 ──ちなみに、人魚さんから貰ったアコヤガイは、壺に塩水と酸素石を入れてまだ生かして有る。

 しばらく放っておくと、真珠がもっと大きくなるよってリナルドが言うので。



 〜 一方、その頃のギルバート殿下 〜

 

「────はっ!?」

「殿下、いかが致しましたか?」

 

「エイデン! セレスティアナが俺のいない間にまた何か楽しげな事をしている気がする!」

「楽しげな……何でしょうね? とにかく殿下は溜まった書類を片付けて下さい」

「く……っ」

 

 その頃のセレスティアナは巨大な貝に乗って、ナイトプールで愛らしくぷかぷか浮かんでいたのだった。

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