第156話 金色の夕陽
「ティア、エビも獲った事だし、そろそろ帰るだろう?」
海の幸をゲットして、海から上がり、我々が砂浜に戻って来た時に、お父様が帰還を促そうとして来られた。
濡れた前髪を片手でかき上げる仕草がセクシーかつ、男前で絵になる!
素早く宝珠を握り込む。
「まだ夕陽に照らされる海を撮影出来ていません。
個人的には朝日より夕陽の方が綺麗だと思うのですよ。
金色に輝いてる海が。
前回は魔物のせいで禍々しい気配でしたが、今は浄化後なので」
「じゃあ、夕陽を撮影出来たら帰るんだな?」
「はい。でも、何ならお父様は転移陣で一瞬帰ってお母様を連れて来て下さいませんか?
淡い色のふわりとしたワンピースドレスを着せて」
「シルヴィアと夕陽を撮影したいのか?」
「お母様とお父様が夕陽に照らされる海を背景にして砂浜を歩く姿を撮影したいです」
「……確かに浄化後だし、今からなら良いかもしれないな。分かった」
お父様は優しく微笑み、ちゃんと騎士の側にいるんだぞと言い残して神殿の転移陣に向かった。
「神殿に向かった辺境伯に聞いたが、まだ夕刻まではここにとどまるのだな?」
陽光に輝く海を背景に、リナルドを頭の上に乗せたまま、水着のラナンやライリーの男性騎士二人を撮影していたら、殿下に声をかけられた。
「はい、ギルバート殿下。ところで、鮫の魔物の死体がありませんね?」
私は今更に、周囲を見渡して鮫の魔物の死体が無くなっているのに気が付いたのだ。
「まさか、あれも食べたかったのか?
寝る前に指示を出して全部夜のうちに燃やして聖水をかけて浄化させたぞ」
「鮫は別に美味しそうには見えなかったので、大丈夫です。
昨夜のうちに仕事してくれていたのですね」
「死体を放置しておいてもろくな事にならないからな」
『賢明な判断だね』
私の頭上でリナルドが言った。
「ところでリナルドはそんなところで暑くないの?」
『大丈夫』
まさか自ら帽子の代わりになってくれているのだろうか?
別に麦わら帽子をインベントリから出しても良いのだけれど。
「ところで昼食はどうするのだ?」
「お父様がお母様を連れて来て下さったら、この海辺であの大きなエビを焼いて食べようかと。
シンプルに塩で焼いた物と、お刺身と、採れたてワカメの酢の物とエビをお味噌汁に入れて、後はご飯……いえ、ファイバスのおにぎりなどを」
「亜空間収納から調理道具だけでも出しておくのはどうですか?」
さっきまで撮影モデルになっていたローウェが声をかけて来た。
「そうね、そろそろお昼の準備はしておきましょう」
インベントリから複数のBBQセット等を砂浜に出して、日除けのパラソルも突き刺し、ビーチチェアも設置した。
リナルドは私の頭の上から飛び立って、ビーチパラソルの下に置いたテーブルの上に移動してまったりしてる。
「火をおこしておきましょうか?」
「ありがとう、エイデンさん」
火起こしを殿下の側近に任せた。火の精霊の加護持ちだからサクッと魔力で着火した。
私はまだ動いている新鮮なエビを用意して、作業台の前に立つ。
「えーと、エビを氷締めにしてスプーンで頭を外す……誰か私の作業手順を見て覚えてくれるかしら?」
魔物討伐後にほぼ先に帰還してるけど、残ってる騎士の人数がまだ15人位いる。
鍋を二つくらい用意するので手を借りたい。
「「はい!!」」
「私もやろう」
「ギルバート殿下まで。ありがとうございます」
周囲にいる殿下と騎士達が頭を外す作業を手伝ってくれるようだ。
「頭を引っ張ると、頭と一緒に背ワタも取れます」
「「おお……」」
「出来た!」
「私も出来ました!」
頭を半分に切る。
黄色いミソが詰まっている。
出汁入り味噌汁に入れ、しばらく煮込む。
「レザーク。しばらく煮込むけど、エビのヒゲに火が付きやすいので注意して見ててくれる?」
「かしこまりました」
「我が君、私も何かお手伝いをしましょうか?」
「ラナンはそこのビーチチェアに横になって、ちょい撮影するから」
「横になれば良いのですね。分かりました」
私は宝珠を握り込んで色んな角度でラナンを見て、撮影した。
アイドルのグラビア撮影みたいで楽しい。
「セレスティアナ様、お味噌汁は完成したかもしれません」
エイデンさんの報告に私は頷いた。
加熱された伊勢海老っぽいのは殻が赤く、いかにも美味しそうな色をしている。
「じゃあもう海老も塩焼きにしちゃいますか、皆お腹空いてるよね」
「「はい!」」
伊勢海老っぽいのを網の上で焼く。
「ラナン、その辺にエアリアルステッキを突き立てて、暑いから」
「はい」
ラナンがエアリアルステッキを砂浜に突き立ててくれた。
涼風が来る。
「ティア──! 連れて来たぞ──!!」
「お父様、お母様!」
声がした方向を見るとふわりとしたワンピースドレス姿のお母様と馬に乗ってお父様が来ていた。
お母様は馬の上に上品に横座りでお父様と相乗りだ。
美しい! またもや撮影チャンスなので宝珠を握り込む。
……よし! 撮影出来た!
「お母様! 人魚! 人魚さんを見たんですよ! この海にいたんです!」
「まあ、凄いわね。流石に人魚は滅多に見れないそうなのに」
お母様が到着したので、私は人魚を見たと言う奇跡のような出来事を、抱きつきながら報告した。
他の人が人魚を見てもあまり騒いで無いのは何故なのか聞いてみたら、空飛ぶ鮫やクラーケン出現のせいでそれどころじゃ無かったという……。
特に脅威にならない人魚の扱いって、そんななの?
とても綺麗なのにね。
ともかく空腹の皆さんがお待ちかねなので、インベントリから沢山作って来ているおにぎりを出した。
「おにぎり2つで足りない人は土鍋でファイバスを炊いて食べてね」
「分かりましたー!」
「エビのお味噌汁にそこのネギを散らして食べて下さい」
「「美味しい……!」」
美味しいとの声が次々と周囲から聞こえる。
良かった、良かった。
「うーん、やっぱりお刺身も新鮮だから美味しい」
「そうだな、どれも美味しい」
「ええ、本当に」
急に連れて来られたお母様もパラソルの下で海の幸の料理を堪能している。
「ギルバート殿下もお手伝いありがとうございました」
「こんな炎天下で其方一人で料理させる訳にはいかないからな」
「まあ、殿下までお手伝いして下さったのですか。
申し訳ありません、料理人を連れて来るべきでしたわ」
私よりお母様が慌ててしまった。
「いや、自分で獲った獲物を捌くのはなかなか楽しかったから良いのだ。
野営する事もあるし、全て良い経験だ」
そうですね。男性もある程度は料理も出来た方が良いです。
寿命とか生存率に関わると思います。
*
昼食の後、私は白いワンピースに着替えて、夕陽を待った。
そしていよいよ夕焼けタイム突入!
お父様とお母様をクリスタルで撮影した。
夕陽に照らされ、金色に輝く海。
そして金色の光に縁取られた美男美女の両親の何と美しいことか。
そして夕陽の作る一本の光の道の手前にて、お父様は人魚に貰った真珠の首飾りをお母様の首に飾ったのだ。
──え?
そんな指示は出して無いのに、渡すタイミングが完璧過ぎる!
柔らかい微笑みを浮かべ、見つめ合う二人……。
は──尊い。
私が吟遊詩人なら詩を捧げてる。
「ティア、交代しましょう?」
「お母様、何の交代ですか?」
「ギルバート殿下と砂浜を歩きなさい」
「え!? 私が!?」
「お料理を手伝って下さったのだし、ほら、手も繋いで」
手繋ぎ指示まで出された。
確かに足場の悪い川でなく、砂浜でなら手を繋いでも良いとは思っていたけど、お母様はその光景を撮影する気なんだよね?
かなり恥ずかしいのだけど!
私の側で私の両親を静かに眺めていた殿下も一瞬、びっくりした顔をしていたけど、頬を染めつつ手を差し出して来るので、エスコートされるしかないようだわ。
手を繋いで打ち寄せる波の音を聞きながら、砂浜をゆっくりと歩いた。
……照れる!!
「……顔が赤いな」
「お互い夕陽のせいですね、間違いないです」
「……そうだな」
わ──っ!!
これじゃまるでリア充なんだけど!?
驚きながらも美しい夕焼けボーナスタイムはあまり長くは続かないので、
「では、夕陽とラナンを撮影したいのでこの辺で!」
「あ、ああ……」
恥ずかしさのあまり、さっとギルバート殿下の手を離して、私はラナンの撮影に向かう。
「ローウェとレザーク! ラナンの隣を順番に歩いて! 夕陽が沈みきる前に!」
「「はい!」」
大空に広がる雲も、金色や茜色に染まって、この今の人生で見た、今日の夕陽の美しさは、生涯忘れないかもしれない。
こうして夕陽と海とイケメンと美女の撮影も終え、私は大変満足して、ライリーに帰ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます