第149話 あたたかい記憶を

 ラナン達がお使いから帰って来た。


 預けてたクリスタルで映像を確認。


「あれ? 屋台とかで買い食いはしてないの?」

「食事なら食事何処でしました」

「ほら、串焼き屋台とか無かった?」


『ティアは串焼き好きすぎるよね。

屋台はあっても、ラナンは預かったお金を無駄使いしたく無いって買い物と食事だけですぐに帰ったよ』


「えー、せっかくイケメン騎士と一緒だったのに青春的にはちょっともったいない気が。

でも……真面目なのも長所だよね。

お金を預けるのにこんなに信頼出来る人もそういないでしょう。

お疲れ様、お使いありがとう」


 大人が横になって寝れる長さが有る横に長いソファに、ラナンを私と並んで座らせ、そして頭を撫でてお礼を言った。


 思えば服代、食事代の必要経費の他にお小遣い枠を別にして渡せば良かったような。

 まあ、真面目だから貰っても貯金しかねないけど。


「お役に立てたなら、幸いです」


「あ、胸下から切り替えがある、このエンパイアラインのドレス、可愛いね」


 お使いのお洋服を確認してみたら、私好みの服ばかりだった。


「リナルドがお嬢様のも、私のも選んでくれました」

「流石リナルド。私の好みをよく分かっている」

『まあね』


「そうだ、錬金術師の先生はしばらくライリーに滞在してくれるって。嬉しいな」

『良かったね。原稿作業は進んだ?』

「うん。今はまだ、ただのサンプルの段階だし、進んだよ」


 いい感じにゲームとして成立しそうでワクワクしてる。


「ラナン、今夜は私と一緒に寝ない?私を抱き枕のように抱っこして寝て欲しいな。

夏が来る前、暑く無い今のうちに」


「はい、仰せのままに」

『何? パジャマパーティーってやつ?』


「それはときめく響きだけど、今回は違う。

ラナンは私のせいで産まれたばかりなのにお父様と離れるはめになってしまってるよね。

なので私が、お父様の代わりは無理でも、ぬいぐるみの代わりにはなれるかもって」


 見た目は大人でもそれなりに寂しいかもしれないし。

 実際の所は分からないけど。


『まさかのぬいぐるみの代役』

「私は可愛いからいいでしょ!」

『確かにこの上なく可愛い。ティアはお人形さんみたいだよね』

「そうなの、自分で言うのもなんだけど、見た目だけなら私、可愛いから」


「はい、お嬢様は可愛いらしいです」

「ふふ。でも今度本物の抱き枕も作りたいんだ〜。

うさちゃんと猫ちゃんデザインで」


「……本物の抱き枕が完成したら、もうお嬢様を抱っこ出来ないのでしょうか?」

「出来るよ! ラナンは特別だもの!」


 私がそう言うと、ラナンは花が咲いたような笑顔を見せてくれた。

 可愛い〜。


 晩餐後。


 お風呂の用意が出来る前に今夜の作業。


 ウィルや託児所の子供のために、遊具も用意しておきたいので、リストを作る。


 積み木などは、探せばどこかに売っていそう。


 私の小さい時はおもちゃどころじゃ無い状態だったのか、積み木すら無かったな。

 お母様の実家から送って貰っていたお絵描きセットがあったのが奇跡。


 ……布で作ったお野菜とかあれば八百屋さんごっことか出来るし、前世で見たようなフェルトで作ったお野菜とかあれば可愛いな。

 似た生地は無いかな?


 それと、おもちゃのキッチン。

 洗い場とオーブン。あるいはカマド? それに小さな調理器具。


 椅子や冷蔵庫を発注した所とは違う工房を探そう。

 多忙過ぎて倒れるといけない。


 お部屋キャンプみたいな事が出来る小さなテントの秘密基地も良いかな。

 子供ってああいうの好きよね。


 あとは絵本だけど、紙の本は高価なのよね。

 あまりに小さい子だと齧ったり破いたりしそう。

 布絵本という手もあるかな……。


 よし、とりあえずリストはこの辺で。


 ゲームの仮のシナリオは錬金術師のヤネス先生に渡したから、どのシーンにどの画像を使うかは、明日一緒にクリスタルで先生と確認作業をするでいいよね。



「お嬢様、湯殿の支度が整いました」

「ありがとう、アリーシャ」


 よし、とりあえずお風呂。


 私の髪はアリーシャがエアリアルステッキで乾かしてくれる。

 私の後にお風呂に入ったラナンの髪を、私が乾かしてあげる。


「お嬢様、自分でできます」

「いいから、いいから。私がやりたくてやるの」


 遠慮するラナンを説きふせ、エアリアルステッキで髪を乾かして、櫛を入れる。

 産まれたばかりで愛情不足になるのはいけないからね。



 その夜、私は白く柔らかな素材の夜着を着た天使のようなラナンの豊かな胸元に顔を埋め、抱きついて寝た。


 ──至福。


 * *


「私は愛らしいお嬢様の、寝顔を見て、安らかな吐息を聞いているだけでも幸せな気分になれるのですが、

まあ、なんと、愛らしい天使が2人仲良く寝ているようでしたよ」


 とは、朝に顔を洗う水を持って来たアリーシャの言葉である。

 寝てるだけで人間をそんな幸せな気分に出来るなんて猫のような小動物くらいだと思ってた。

 これが顔面SSRの力……。


 

 私はメイドのアリーシャが毎日洗濯済みの新しい物に変えてくれている、良い香りのする自分の枕をふんわりと抱きしめた。

 ……優しい香りだ。


 ──それにしても、夢の中で、花の香りがした気がする。


 暖かい日向の花畑にいる夢を見た。

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