第147話 やる事が多いので

「最初はこの城の地下には氷室もあるのに、何故わざわざ部屋に小型の氷室をと思っていたけど、やはり便利で良いわね。

ちょっと喉が渇いて美味しい果実水など欲しい時に、一階や地下までメイドに行かせると階段もあるし、夏など片道だけでも汗をかいてしまうでしょうし、疲れてそうな時はすぐに美味しい飲み物など、あげられるし」


「お分かりいただけましたか」


 お母様の部屋に呼ばれて何かな? と思ったらそのお話か。

 お母様が自分の部屋に冷蔵庫がある良さを理解したらしい。


「でもティアあなた、自分の部屋の冷蔵庫は後回しにしたのですって?」

「一応最初に作った簡易版と亜空間収納が有るので」


「とりあえず冷蔵庫は後回しでも良いけれど、夏には殿下をお迎えするのだから、自分のドレスも新調しなさい。

私のばかり作ろうとするのだから。

ティアはまた身長も伸びたでしょう?」


「自分のはわりと大きめに作ってあるので、レースやフリルを足せば丈はなんとか」

「殿下の前で同じドレスばかり着る訳にいかないでしょう? 

人の記憶だけなら忘れる事もあるでしょうけど、あちらにも記録の宝珠があるのだし」


「……あっ!!」

「……忘れていたようね。ですから、人ばかり優先してないで新しいドレスを注文しなさい。

品格維持費は用意出来ているから」


「はい、分かりました」


 うっかりしてた。

 殿下は私を記録するのが好きなんだったわ。

 思わず自らの顔を覆う。

 多分鏡を見れば赤くなってると思う。


 デザインだけ渡して、城内のミシン使えるようになった針子にお願いしよう。

 城内の針子は新規ミシン追加もあって、10人に増やしている。

 何人かは馬車の座面縫いからドレスを作ってもらおう。


「でもお母様に赤いドレスに黒レースの華やかでセクシーなドレスも作りたいんですよね」

「ほら、また私のドレスを作ろうとしているじゃない」

「あはは、ではデザインだけ描いて針子に頼む事にします」


 私はそそくさとお母様の部屋から退出した。


 でも美女を見るとインスピレーションが湧くので仕方ないと思います!


 *


 自室に戻って、新しいドレスのデザイン画を描いた。

 一息ついて、ジュースを飲む。

 側に控えているラナンの顔をふと見て、聞いてみた。


「ラナンってやっぱり産まれたばかり?」

「はい。我が君の注文を受けてから、ヒトガタ師であるお父様が作りました。

あらかじめそこそこ出来上がってる白と言う体を用意してあったりもしますが」


「あらかじめ……」

「髪色は白銀にしておいて後で好きな色に染たり」

「ヒトガタ師には普通どんな人が注文するの?」


「主には側使いや家政婦のような仕事をさせたい人ですね。

介護、仕事の補助、若くして亡くなった子の代わりなど。

戦闘用は危険なので滅多に注文を受けません。

中には悪い注文を受けるヒトガタ師もいますけど、お父様は違います」


「ラナンは私の護衛の為に戦闘タイプと聞いたような」

「戦争をさせる目的ではなく、護衛目的なので許されたのでしょう。

創造主たるお父様は依頼主も選びますし」


「ヒトガタを作る人は人間なの? 妖精界から来た訳じゃないの?」

「お父様は人間です。私はお父様のいる天空界の真下にある人間界から来ました。

こことはまた違う異世界です」


「ちょっと、リナルド、貴方、色んな異世界を渡り歩いてるの?」

出窓に置いてある、ふわふわの寝床でまったりしてるリナルドに聞いた。


『全く縁の無い異世界は行けないよ。ゲートも開いて無いし。行ける所だけ』


 本当に何者なの、この妖精?

 でも正体に関してあまり質問攻めにするのも良くないかも。

 当たり障りのなさそうな質問ならいいかな?


「ところで、天空界って?」

『神様もおられる、選ばれし者だけが住める場所だよ。

前世で沢山の善行を積んだ人や英雄の類いが来れる楽園のような場所。

善人しかいないから戦争も無い」


 わあ! 凄い!

 私はただのオタクなので行けそうに無いな。


「そうなの、天空界は凄いまさに楽園なのね。その下の世界はどんな所?」

『こちらとあまり変わらないよ、人とか魔物とかいて、戦争もある』


 へーー。


「ところで、春のうちにラナンをピクニックに連れて行ってあげたいのだけど」


 産まれたばかりの子と聞くと美しい物を沢山見せてやりたいと思う。

 赤ちゃんではなく戦闘タイプならお外に連れて行っても大丈夫だろうし。


『乙女ゲームのサンプル文章と選択肢を書き上げるのが先なんじゃないの?

あの錬金術師はずっとここにいてくれるの?』


「うっ!」


 確かにそれも急がないと!


「私のことは、お気になさらず、大丈夫です」

「うう、ドレスは以前描いたラフからも選ぼう。

全部で3着くらいで良いかな。どうせ子供は身長もすぐに伸びるし。

普段着はワンピースとブラウス、スカートの組み合わせでも良いし」

 

「何かお手伝い出来る事は有りますか?」


 ラナンが気を使って声をかけてくれた。


「……じゃあラナン。

殿下の記憶に無い服なら良いのだし、ドレス以外の普段着系の服は、王都の中古の服屋で子供服を適当に買って来てくれる?

とりあえず普通の令嬢は普段もドレスだと言う事は置いといてね。

お使いに行って貰う間に私は原稿作業をしているから」


 初めてのお使い。

 出来るかな?


「適当……」

「あ、服を選ぶのが難しいかしら? 騎士を他にも付ければ大丈夫かな」

『騎士も良いけど僕が選んであげるよ。ティアの好みは僕が知ってるから』

「リナルドがラナンについて行ってくれるのね。ありがとう!」

『うん。僕は布をかけたカゴバッグの中から必要な時だけ、ラナンに顔と指示を出すよ』


「了解。

とりあえず、適当に城の騎士2人に声かけて、リナルドと王都の中古を扱う服屋にお使いに行って来て。

あ、ラナンの着替えは中古でなくて、新品で買っておいて。

それと、買い食いや外での食事も推奨するから、お金もラナンに預けるね」


『買い食いを推奨で笑うんだけど』

「リナルドったら! 大事なのよ! 人生にはそういう潤いが!」


「とりあえず……分かりました」

 

 そうだ。

 予備のクリスタルを騎士に預けて「ラナンの初めてのお使い」を記録して貰おうかな。

 案外デートっぽい映像もゲット出来るかもしれないし。

 ゲームのデートイベントの参考になるかも!


 男性騎士達はラナン相手にどんなエスコートをするかな?

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