第144話 ラザニアと錬金術師

 自室の祭壇の前に机を持って来て、芳しい花の香りに包まれながら組紐の御守りを編んだ。


 青い石付き。

 糸の色は青と銀と紫。


 紙コップが有れば作りやすいのだけど、ここには無いので土魔法で作った。

 糸を引っかける箇所を作った円盤に、支えの棒付きの道具を。

 本来なら木製なんだろうけど、ちょっと木工職人に頼む時間が無かった。


 せっせと編んでいると、錬金術師から招待のお返事が来て、ライリーに来てくれる事になった。


 何の料理でおもてなしをしようか

 まだ沢山有る羊肉にしようかな?

 でも私はガッツリ食べたばかりの物より、違うのが食べたいな。

 今、自分が何となく食べたいラザニアでも作るかな。



 私は厨房に移動した。


 まず、ラザニアの生地を強力粉で作る。

 餃子の皮が有れば代用出来るけど、やはり無いから作る。

 

 次にミートソースを作ってから、ホワイトソースを作る。


 耐熱皿に有塩バターを薄く塗る。

 ラザニア、ホワイトソース、ミートソース、ラザニア、ホワイトソース、ミートソースの順に重ねる。


 上から粉チーズを振りかけて、予熱をした180℃くらいのオーブンで20分くらい焼く。

 焼き終わったらみじん切りしたパセリを振りかけて完成。


 厨房の中に美味しそうな香りが立つ。


「わあ、美味しそうな香りがしますね」


 料理人達が味見をしたそうにソワソワしてる。


「味見をしても良いわよ」


 試食用の一皿を選んで、食べさせてみる。


「ありがとうございます! お嬢様!」

「……とても美味しいです!」


「私も食べてみよう……うん、美味しい。

これが主菜で副菜の汁物枠にミネストローネとデザート。

うーん、デザートにはヨーグルトムースでも付けるかな」


 ミネストローネなど、作り方を既に知っているものは料理人に任せる。


「ヨーグルトムースには何かジャムでもかけますか?」

「じゃあ、いちごジャムを」

「かしこまりました」


 ちょうどお昼頃に、騎士のお迎えと共に、メアトン工房から、天才錬金術師のヤネス殿がやって来た。

 私は急いでワンピースから、ドレスに着替えて、サロンで待っているヤネス殿の元へ向かった。


「錬金術師のヤネス殿、ライリーにようこそ」

「麗しき辺境伯令嬢、セレスティアナ様、この度はお招きをいただきまして、ありがとうございます」


 ヤネス殿はミントグレージュ色のサラサラとした髪を揺らし、頭を下げた。

「堅苦しい挨拶はいいわ、気楽にしてね」


 ラザニア、ミネストローネ、ヨーグルトムースを振る舞った。

 赤ワインとりんごジュースも有る。


「風の噂でライリーの料理は美味だと聞いていましたが、本当にどれも大変美味です」

「口に合ったようで良かったわ」


「錬金術師殿、わざわざ呼び付けてしまったが、ゆっくりしていってくれ」

「ええ、娘も好きなだけ滞在して欲しいと言っているのよ。貴方を大変お気に入りのようなの」

「恐縮です」


 などと、両親の援護を受け、皆で料理に舌鼓をうちつつ、錬金術師を歓迎した。

 錬金術師のヤネス殿は頬を染めていた。

 私の両親が美形過ぎるせいかな。


 *


 食事の後にヤネス殿を城の中の工房として使っている一室に呼んだ。

 そこには色んな素材や器具が置いてある。

 ハーブなども天井から吊るしてある。

 いかにもな雰囲気の魔法使いの工房に憧れて作ったものだ。

 

 テーブルセットも置いてある。

 椅子を示して座って貰う。


「相談なのだけど、この映像や音を記録出来るクリスタル。

これでゲーム、遊ぶ物を作れないかと思って」


「このクリスタルで……ですか?」

「そうなの。

小説を読み進めて、選択肢があって、分岐してお話が進むという、小説のような文章を読み進めるゲーム、遊ぶ物が作りたいの」


「このクリスタルに触ってみても良いですか?」


「どうぞ、好きに触って。

記録の中の本の文章をゆっくり読む時は、画面を指で押さえると、画面が流れるのを停止出来るわ」


「オーブ、球の形をしている物は見た事がありますが、これは板みたいな形で面白いですね。

白いスクリーンも必要なく、そのまま映像も映せると」


「そうなの、スクリーンに映したら大画面でも楽しめるけど、このクリスタルでそのまま見れるのが手軽で便利なの」


 今はクリスタルの下に白い厚紙を敷いて映像を見えやすくしてるけど、その内スマホカバーのような物を付けようかと思う。


「出来ると思います。術式を組み込めば」

「本当!? 嬉しいわ! その術式を作る作業とかはお願い出来る? 金額は応相談で」

「はい、多少お時間をいただきますし、お試し用の文章や選択肢とやらを用意していただけますか?」


「ええもちろん! 画像と文章と、選択肢は本の中から、部分的に借りればすぐ出来ます!

それと泊まれるお部屋も用意してあります!

ご自分の工房の方が落ち着いて作業が出来るなら、そちらでもかまいませんけど」


 私の勢いに一瞬驚く表情を見せたヤネス殿だけど、熱意にうたれてくれたのか、しばらく滞在してくれるらしい。


 やったわ!


 急いで文章と選択肢を用意しないと。


「仮にですけど、差し当たって絵の代わりに、人物の画像を記録の中から選択して、使えますか?」


 ちょっと今は絵が間に合わないから、苦肉の策。


「どれを使うか選ぶ必要がありますが」

「サンプル、見本が背景以外は映ってるのがほぼ男性ばかりですが、男前がたくさんいますので、そこから……」


「別の媒体に一旦選んだ映像、画像を取り出して、まとめますか」


 ヤネス殿も自分の上着のポケットの中に亜空間収納風呂敷を持っていた。

 更に自分の記録のオーブも持っていて、風呂敷魔法陣の中から出した。


 謎の呪文を唱えた後に、あっと言う間に私のクリスタル内の情報を読み取ったのか、魔法で形状を同じ、板のような形に変えた。


 本当に天才なんだわ。


 そして魔法陣の描いてあるハンカチの上にクリスタルを横並びにピッタリと、くっつけて置いた。


 更に映像を映し出し、選んだ画像を指で囲んで、タップして、コピペみたいな作業をしている。

 指先が選択ツールで画像編集機能の付いた人間?


 凄い。

 一家に1人欲しい。


 感心しながら錬金術師の作業を見守りたいけど、私も文章と選択肢を用意しなければ。

 本と紙と鉛筆と消しゴムを用意して、文章と選択肢を作る。


「アリーシャ、錬金術師の先生にお茶の用意を」

「はい、お嬢様」


 このようにして、私は錬金術師をもてなしながら、乙女ゲーム作りの為の作業を開始したのだった。

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